第15話 魔晶獣
ぼくがコクト君とハクアさんと知り合ってから二日後……
事件が起こった。
ぼくがこの世界に来た時に見た「魔晶獣」とは。
およそ半年前から各地を襲い始めた未曾有の災害。
その正体はおそらくゴーレム生成魔法。岩や土などを使用せず多量の魔力を費やすことで、魔力が物質化する過程で結晶のような体を獲得する。そうして作り出されるクリスタルゴーレムと酷似した見た目。
通常のクリスタルゴーレムとは異なり、黒紫の体を持つため、区別することを兼ねて魔晶獣と名付けられたそれは、大軍を成し転移魔法によって人々の生活圏を脅かす。
国や地域を限定せず、あらゆる場所に攻撃を仕掛けてくるこの魔晶獣災害は、未だ術者の特定には至っていない。
大軍とも言える数の魔晶獣を作り出し、あまつさえそれらを転移魔法で移動させる。
熟練の魔法使いが一体何百人集まればそんなことが可能なのか、それほど大規模な魔法。そしてこの規模の災害を引き起こすとなれば、魔力探知から逃れることなど不可能。
……だというのに、術者はその尻尾すら見せない。
どころか場所の特定さえできなかった。
無作為で不可解な魔晶獣災害を前に、各国は手を取り合うこととなり、魔晶獣対策連合ができた。
各国の保有する戦力『防衛軍』は、国の核根を超えて協力し合い、人員の移動や連携を密にするため、『魔晶獣対策連合軍』へと名前を変えた。
ぼくを含め、ルードくんやハクアさんなどの戦闘員も、現在は全ての人が連合軍所属になる。
そして術者どころかその場所さえ特定できていない現状を鑑みて、『術者はおそらくこの世界ではないどこかから、魔晶獣を送り込んできている』という説が有力視されているらしい。
だからこそ、戦場のど真ん中に転移してきたぼくを、「魔晶獣の術者が送り込んできた戦力か?」と警戒していたんだそう。
軍に入った時に、ゼレーナさんから教えてもらったことを思い出した。
けれど彼女が話していた内容に。
「おいおい、どうなってる……!?」
「あり得ないでしょ、こんなの……!?」
「魔晶獣が融合した……」
こんな事態が過去にあったなんていうのは、一つもなかった。
〜〜〜〜〜〜
今日は特に胸騒ぎがしていた。最初に抱いていたのは、最近になってこの町が魔晶獣災害を受ける頻度が、わずかに高まっていることへの疑念だった。
魔晶獣の襲撃は、同時に十を超える地域で確認されたこともある。一つの町に百体の魔晶獣が襲撃してきたと仮定しても、総数は千体を上回る。
ただ……それでも一つの町に襲いかかってくる頻度は、一週間に一度くらいだった。
だけどそれが、最近は五日に一度になってしまっている。
魔晶獣災害を引き起こしている術者が、セルムの町を標的にしているのではないか?
確証こそないけど、それが一応筋が通った仮説になる。
そして今日、セルムの町に襲撃を仕掛けてきた魔晶獣の総数はおよそ二百体にまで及んだ。
通常の倍近い魔晶獣の数に、戦闘員の間には緊張が走った。
本来は一つの大隊だけで魔晶獣掃討を行い、もう一つの大隊が駐屯地で待機することになっている。
……だが、今回の魔晶獣の多さを懸念して、二つの大隊が出撃し、今日は非番だった第二大隊が緊急で呼び出されて駐屯地待機を命じられた。
俺の胸騒ぎは的中し、残酷な現実を以て思い知らせてくる。
今までの魔晶獣災害が、小手調べに過ぎなかったことを。
『魔晶獣が融合しています! 一ヶ所に集まる予兆が見えた場合はすぐに阻止してください! すでに融合を終えてしまった巨人型魔晶獣には、一個小隊で対応をお願いします!』
司令室からの通信。緊張感はさらに高まる。
魔晶獣は狼や熊、鹿や雄牛などといった形状のクリスタルゴーレム。必ず獣の姿をしているから、魔晶獣と呼ばれるようになった。
だけどつい先ほど、複数の魔晶獣が一ヶ所に集まって融合し、巨人のような姿へと変わった瞬間を目にした。
そうして誕生した巨人型魔晶獣が、近くにいた戦闘員一人に向かって無造作に腕を振るい……
人が宙に浮かんだ。
(あの吹き飛び方はもう……)
いや、それを考えるのは後だ。今は巨人型魔晶獣の対処と、これ以上巨人型を増やさないように立ち回る必要がある。
『コクト』
『……はい、ルード先輩』
『巨人型は現状二体だ。一体は頼んでいいか?』
『……任してください』
俺はすぐに信頼できる後輩に通信し、ついでにそのことを司令室に伝えておく。
いつもは違う大隊にいるが、やっぱり頼りになるな。なんて思いつつ、俺は小隊に通信を切り替える。
『小隊長、巨人型は俺だけで対処できそうです。周囲の魔晶獣を頼みます』
『おう、デカブツは頼むぞ!』
『頑張って』
『ファイトっすよ!』
小隊長と仲間の激励を聞き、俺は一呼吸置いてから、自分の異能を起動する。
「『真なる起源』」




