第17話 出立
一応序章の終わりになるのでここで区切ります。また書き溜めてから「全部出す!」のでお待ちくださいませ。
この世界の報道機関は、随分と耳が早いらしい。
『……次のニュースです。先日、セルムの町を襲った魔晶獣。その際に見られた魔晶獣同士の融合現象を、連合本部は「ゴーレム生成魔法において不可能なことではない」としつつも、魔晶獣に新たな動きがあったことについて……』
なにせ二日前のことがもう報道されているんだから。
あの魔晶獣掃討作戦は、死者ゼロと報じられた。
なにせ最も危険な状態にあった怪我人をぼくが『治癒の輪』で治してしまったから。
駐屯地では待機する戦闘員がすぐさま支援に出動するために、施設内では戦場の映像がリアルタイムで中継されている。
そこに映ったのは一ヶ所に集まって融合する魔晶獣の姿と、次の瞬間に出来上がった巨人型の魔晶獣。
そして黒紫の巨人が、近くにいた戦闘員を一人殴り飛ばした場面だった。
ぼくはすぐさま治療室から飛び出して戦場に向かい、当の怪我人を見つけて手当てした。
戦場に張られている広域防護結界は、魔晶獣や内部で使った攻撃魔法が外側に出られなくするための結界。支援部隊が入ることを加味して、侵入には一切制限がかけられていない。
問題はここからだった。
魔晶獣との戦闘記録は、映像と共に魔晶獣対策連合本部に送られる。もちろんそこには魔晶獣が融合して巨人型に変形した瞬間も、巨人型が戦闘員を攻撃した瞬間も映っている。
映像を見る限り、どれだけ熟練の治癒師であっても助けることのできない怪我を負ったであろうはずなのに、報告書には「死者なし」という文字が並んでいる。
これはどういうことかと、誰もが思うはず。
そしてその答えが『治癒の輪』を持つぼく。戦闘中の映像にもその瞬間が映っているようだった。
ぼくは治癒師免許しか持っていない。でも法的には第一級魔法師資格がないと、戦場に立つことができないことになっている。
資格がないにも関わらずぼくは結界内に入ってしまった。この違反がまず一つ目の問題。
まあでもこの部分は、先輩治癒師たちのフォローと人命救助の重要性もあってそこまで言われなかった。結果的に死者なしなのは、他でもないぼくの異能のおかげだから。
次に二つ目が、戦闘の映像は各国の国営メディアにも送られるという点。
魔法学者や有識者にも魔晶獣対策の協力を仰ぐことがあるため、こうしたルールがあるんだけど……。
そこに『治癒の輪』を使う瞬間がバッチリ映ってしまっているのが、ちょっとした問題。
ぼくの持つ希望、『治癒の輪』は新種の治癒魔法として正式に登録された。その上でぼくには特例で治癒師免許が与えられて、ぼくは誰にも咎められずに治療行為を行えるようになった。
だけどこの二つの情報は連結していない。要するに『治癒の輪』という未知の異能を持つ人がいる。という情報しかないわけだ。その所有者がぼくだとは、誰も知らない。
もちろんゼレーナさんと一緒に能力検証を手伝ってくれたお医者さん、そしてこの町の軍人さんを除いて……だけど。
『治癒の輪』の持ち主がぼくだという情報は、今後、精神体疾患を持つ患者さんを治療してからにするつもりだった。
混乱を招く可能性と、『治癒の輪』の効果を悪用しようとする人が出てくる可能性を考慮してのこと。
『……以上のことから、連合本部は当該人物に対して厳重注意をしたのちに、その希望の有用性を加味した上で、対魔晶獣特別行動小隊を編成することを表明しました』
「ニュースを見てるんですか? リリィさん」
「ルードくん」
駐屯地の施設内でニュースを見ていると、三人の影が近づいてきた。
「まったく……リリィさんは見た目のおっとり加減とはかけ離れた行動をするんですね? 後から聞いた時、うちは目玉が飛び出るかと思いましたよ」
「……確かに危険な行動ではあったすけど、それで助かった人がいるんで……」
「ありがとう、コクトくん」
ちなみにコクトくんも「ルード先輩にタメ口なら、俺もそれで……なんか落ち着かねえんで」と言ったので口調を変えておいた。
ハクアさんも「リリィさんと仲良くなりたいから敬語なしですよ? うちは癖で敬語出ちゃうから気にしないでください!」とのこと。
これから一緒に行動するんだから、関係性は良好な方がいい。
今日はぼくたち四人が、対魔晶獣特別行動小隊として、旅に出る日だ。
二日前の巨人型魔晶獣事件を受けて、予定よりも早めに出発することになった。
ちなみに小隊の名前はアルファ小隊。小隊長はルード・アルファニウスくん。
四人の中で一番階級が高いからなんだとか。
ルード小隊長が形だけの点呼をとって、ぼくらは駐屯地を出る。
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駐屯地では戦闘訓練も行う関係上、町の結界から少し離れた位置にある。
攻撃魔法を無効化する結界があると、満足に訓練できないからだ。
その後、役場で用意されている転移装置使用許可証を受け取って……
ぼくたちは再度、駐屯地に戻ってきた。
「なんで?」
「駐屯地の中に転移装置があるんですかね? うちも使ったことないんで知らないんですけど……」
「駐屯地の施設内にあれば、悪用しようにも侵入すら難しいから……とかっすか……?」
「それもあるけど、いちばんの理由はあの大砲かな。みんな、駐屯地の一番大きな建物の上に、巨大な大砲が乗っているのはなぜか……知っているかい?」
「あの大砲は数百年前から使われている長距離移動用の魔器だよ。今ではもう使われていないし、五十年前に転移魔法が技術として確立されてからは置物になっている」
「そんなに昔のものがなんでまだ残ってるんですか?」
「良い質問だねルード小隊長。あれには優れた座標指定機能が搭載されていてね。転移先の座標を決めるのに再利用できるんだ」
……。
「ところでどうしてゼレーナさんがここに……?」
「私も行くからね」
「えっ!? 初耳ですよ!」
「初めて言ったからね。さ、呆けてないで行くよ」
「でも俺の小隊にゼレーナさんの名前はないはず……」
「追加されてるよ、もうすでに」
「ちなみにどうして急に……?」
「私はリリィさんの戸籍登録と『治癒の輪』の能力調査を手伝ったから、少なからずリリィさんのサポートができるのと……」
「と?」
「君たちのような純朴な若者だけだと、少し不安が残るってとこかな。さてお話はこれくらいにしておこうか、転移装置がお待ちかねだよ?」
そうしてゼレーナさんが仲間になって、ぼくらはセルムの町から出立することになった。




