岩山奇イ憂ミ太
「それじゃあお前は城の入り口付近で冒険者共を迎撃してくれ。私はこの部屋の近くにある魔道研究室で待機する」
「なぜそのような事を?」
「戦力の集中だ。城の中に冒険者に招きいれて一気に倒す。それが魔王マイルズ様のお立てになった策だ」
「魔王マイルズ様の?」
しかし。と、スケルトンジェネラル三号は思いつつ視界の右下に映るギルドチャットとやらを見た。
『現在このサーバーに接続しているユーザーは
1 名
です』
の文字の下には、
『マスダヒトシ:うあうあいやだなぁあいつら絶対ここまできちゃうよ
ものすごくいっぱいいたよ?10万?100万?1000万はいないよね?でも凄くいっぱいいたんだよ歩いて様子見に行ってみたんだよそりゃ某モモガー様みたいにさーカッコよくビシッとね誰だってあいうの憧れね?でもいきなりメイドがガンダムハンマーで殴りつけるとかマジあり得ねーだろ?『金貨8000枚と魔法の杖ですか。湿気てやがりますね』だよ?死んだと勘違いしてくれなければトドメ刺されて死んでたよいやもう死んでるけどさアンデッドだからでもすごくいたかっスよマジで』
の見るに絶えない駄文。もとい魔王マイルズ様の心の声。
「魔王マイルズ様、でしたか?あまり勇猛とは言える人物には思えないのですが?」
スケルトンジェネラル三号はそう感想を述べた。
「なに。別に驚くこともなかろう。魔王マイルズ様とて完璧な御方ではないのだ。例えばほら
『
「「「「ステータスオープン」」」」
??????????????
岩山奇イ憂ミ太 51歳 レベル∞
職業:神
HP:∞
MP:∞
攻撃力:∞
防御力:∞
素早さ:∞
命中率:∞
魔法攻撃力:∞
スキル:言語理解・神鑑定・神隠蔽・偽装
聖魔法LvMAX・暗黒魔法LvMAX
空間魔法LvMAX・創造魔法LvMAX
召喚魔法LvMAX…atc
』
こういう奴がいたら戦う意思をなくす前にドン引きするだろう?」
「いえ。それ以前に最後のatcの部分。etcと書いた方が正しいのでは?」
「はは、岩山奇イ憂ミ太様のスキルを見たまえ。ちゃんと言語理解LVMAX神って書いてあるじゃないか(大笑)
そんな些末なミスをするわけないだろ。で、話を戻すが魔王マイルズ様は完璧な存在ではない。
一応レベル、とやらは100で、カンストというのをなされておられるのだがそのスキルポイントのすべてを魔導の習熟に費やしておられる」
「つまり、魔法は得手だが、武芸の腕はたいした事がないということですね?」
「そうだ。今心の声で嘆いておられるように接近戦を仕掛けられれば格下の人間が相手であっても容易に命を落としかねんのだ」
それを聞いて、スケルトンジェネラル三号は何かを思いついたようだ。
「地図はございますか?この城と、人間共の軍勢が来ているであろう道との間のもの」
「地図か?魔王様より拝領したものがあるぞ。まるで飛行魔法で使って空から見たような正確な地図がある」
そう言ってトヨヒサルスは地図を見せた。
確かに。驚くべき程正確な地図である。森の木々から湖の真ん中にある小さな小島まで丁寧に書き込まれている。
「幾つか質問があります」
「なんだ」
「まずこの湖ですが」
スケルトンジェネラル二号は魔王城近くの川。それにそって指をなぞり、その先にある大きな湖を示した。
「この湖は岩山に挟まれている。海ではないですね?つまりこの城の上流にある」
「ああそれはか。それは魔王マイルズ様が御創りになったものだ。人工の湖でな。『ダム』というらしい。異世界の技術を用いて造られていて、雨季に降った水を溜めて置き、乾季に備えるのだ。どうだ。すごいであろう?」
続いてスケルトンジェネラル三号は尋ねる。
「ではこの城の周りにある沼は?」
「それは沼ではないぞ。それも魔王マイルズ様が御創りになったものだ。『タンボ』と言ってな。『コメ』という麦に似た作物が採れるのだ。『コメ』は麦より大量に収穫できる。だが育成に水を大量に必要するのが難点でな。その為にダムを御創りになったのだ。この大量に収穫される『コメ』により、より多くのゴブリン、オークなどの雑兵を確保することが可能となった。どうだ。魔王マイルズ様は偉いであろう?」
「最後にこの魔王城の建っているそばのS字状の湾曲した箇所ですが」
「うむ。仮にお前が人間だった頃の記憶が幾ばくか残っていてもこれだけは絶対に知らないであろうな。これこそがこの魔王城の最大の特徴。魔王マイルズ様が異世界よりもたらした最大の技術といってもよい。実はS字カーブが終った直後の河川に橋がかかっているのだがそこには水車がある」
「水車?」
「ただの小麦粉を製粉して終わり。の水車なんぞではないぞ?なんとマイルズ様が御創りになった水車は『デンキ』なる物を造る事が可能でな。その『デンキ』は城内に送られ、照明。警報装置。魔力を使わずに作動する罠。錬金術の研究施設。同じく魔力を使わずに動く階段。その他様々なものに利用されている。どうだ。マイルズ様は凄いであろう?」
「全部いけません」
「そうそう全部・・・なにぃいいいいい!!!」
トヨヒサルスは叫んだ。
「貴様!マイルズ様を愚弄する気かっ!!!」
「トヨヒサルス様は人間共の兵を城に招き入れ、数多の罠と無数の兵で一挙に殲滅するおつもりでしょう?」
「そうだ。こちらには魔力で検知できぬ罠が五万とあるのだからな」
「私が人間共の司令官なら」
スケルトンジェネラル三号はちょっとためらってから。
「城に突入せずに魔王様の首を取ります」
「できるわきゃねええええええええだろおおおおおおおがああああああああああ!!!!!」
トヨヒサルスは激怒したが、スケルトンジェネラル三号はあくまで冷静に説明した。
「私が人間の司令官ならまずこの『ダム』とやらを攻撃します」
「なんでそうなるっ??!!」
「ええっとおそらくは私は生前、人間だった頃。武人だったのでしょうが。その頃の記憶がおぼろげにあるのです。それでその知識から判断しますに」
スケルトンジェネラル三号は続ける。
「水源への攻撃は兵法の基本です。井戸に毒を投げ入れて使えなくしたり、川をせき止めて下流の町に流れなくしたり。そのような戦争を人間は千年以上昔からしてきたのです。つまり指揮官がよっぽどの阿呆でなければ」
スケルトンジェネラル三号は改めて地図上のダムを指さした。
「ここを攻撃しますね。城と違って防御は手薄でしょうし、構造上魔法障壁などの防備も設置できません。極めて簡単に破壊できます」
スケルトンジェネラル三号は指を下流の田圃地帯に移した。
「この『タンボ』というのは辺り一面に水が貼っています。恐らくは大地の吸水性がなく、『ダム』から溢れた水がそのまま到達します」
「マジ?」
「津波の破壊力というのは凄い物です。海岸にあったはずの巨大な貨物船が津波で打ち上げられ数キロ内陸の城の物見台に突き刺さっていたり。一度洪水が起これば家ごと住んでる人間が流され、「助けてー!!」と悲鳴を残して海まで流されていく。それが自然の力です。そんなものが魔力ごときで防げるとお思いですが?」
「じゃ、じゃあどうすればいいんだぁ??!!」
「籠城ではなく、討ってでましょう」
スケルトンジェネラル三号はそう進言した。
「いや?しかし魔王マイルズ様は・・・」
「魔王様は精神的に追い詰められておられます。恐らくは元来小心者で気の弱い性格なのでしょう。従ってその圧迫感は人間共の軍勢が魔王城に大挙して押し寄せてくれば一層強まります。それに城内では強力な攻撃魔法を使う事もできません。大規模な爆発魔法は人間共のみならず城の崩落を引き起こす恐れもあります。それでは意味がありません」
「ではどうしろと?」
スケルトンジェネラル三号は城の正面にある、少し離れた広い平原を示した。
「ここで向かい打ちます。周辺に障害物がありませんから、見張りを立てた場合、敵襲があればすぐに気づける。野営には最適です。人間共の軍勢は必ずここで休息をとるでしょう。ですがここは同時に我々にとっても見晴らしがよい場所でもある」
「この場所目がけてマイルズ様の魔法を撃ちまくって頂けばよいのか・・・となると布陣は包囲して殲滅か?」
「何を自軍の兵士数を考慮せず300VS5000で包囲殲滅戰をやろうとする無能軍師のような事を仰っているのですか?完全に包囲する必要はありません。今回は城の守備兵及び各地から集結中の雑兵をすべて投入します。雑兵の指揮はブレインイーターやダークエルフに依頼します。完全な包囲ではなく山間の狭い道を塞ぐように布陣する。ポイントは相手の後方に無理に兵を送らない事です。無能軍師は左翼右翼の兵力を無理に敵後方に送り、退路を断とうとする。これはいけない。実戦で、まぁボウガンか何かで模擬戦やれば判ると思いますが側面から攻撃されて終わりですよ。十分な兵力を用意する時間がない以上敵部隊の退路は断たないのが賢明です」
「それでは包囲殲滅戰にならないだろ?」
「何度も言いますがやたらと包囲殲滅戰をしたがるのは戦術眼のない無能軍師のする事です。少なくとも私はやりたくないですし、今回の勝利条件は人間軍を魔王城に到達させないこと。つまり撤退開始を確認した時点で我々の勝利が確定です」
「そこまで言うのならやってみろ。マイルズ様には私から作戦をご説明する」
トヨヒサルスはそう言って部屋から出て行った。
結果論から言えば、スケルトンジェネラル三号のこの進言は正解だった。マスダヒトシ。いや、この世界で魔王マイルズと名乗る男は元来小心者だが、自分の安全が確保されているとなれば所ン強気になれる人物だった。
自分の城から遠く離れた戦場に城の屋上に描いた魔法陣の上であわてず、さわがず、ゆっくり時間をかけて呪文の詠唱を行い、超長距離攻撃魔法を続けていればよかったのである。
半日も経たずに進行してきた人類諸国連合軍は敗走を開始した。




