もうしわけないがうちでは買い取れない品だ
マイルズが支配する上級高位魔族(カエル(笑))の国から遥か西方。
人類諸国同盟がある。
数多の魔物達に対抗する為に造られた国家群である。
数百年に渡り、人間優位の戦争が続いてる。
たまに数を頼り押し寄せる魔物の脅威がある程度で、基本的に人類優勢。
何しろオークもゴブリンも武器と言えばこん棒程度。防具も皮の服くらいしかないのだ。
ただ、ここ数年様子がおかしい。
妙に組織だった動きが目立ったり。金属製の武器防具を扱うオークやゴブリンが増えてきたり。
ゴブリンの集団をブレインイーターやダークエルフのような知能や魔力が高いモンスターが指揮していたり。
だがそれらの最前線の報告は中央部に行く前に、
「そういう事もあるだろ」
「冒険者雇ってなんとかしろよ」
「魔法学科の怠慢?ふざけんな泥に塗れんのは魔力のない一般兵の仕事だ俺ら選ばれし存在は違うんだよ」
などという言葉でかき消されていた。
帝都に主食の小麦粉を供給するカメリア村もそんな人類諸国同盟の一部である。
最も最前線から離れているし、ゴブリンの脅威もなく、ギルドを通じて冒険者にされる依頼も、『手紙の配達』だの、『収穫の手伝い』などといった失敗しても命の心配がないものばかりだ。
と、言いたいところだが、依然手紙の配達中に川に転落して溺死した冒険者がいた。
世の中は広い物だ。
「これ。本物のドラゴンの頭だよ」
町の道具屋に家の倉庫にあったガラクタを一切合財持って訪れたエクセラは道具屋の親父にそんな事を言われた。
「ドラゴン?見ればわかるって。ドラゴンの頭の形の石像のでしょ。なかなかの美術品でしょ。で、いくらになる?」
ぺしぺしと二本角の竜の頭を叩きながら言う。エクセラは商人でも芸術家でもない。単なる農家の村娘だ。だが素人目にもわかる。これは本物にしか見えない。高く売れるはずだ。
「違う違う。美術品でもこれはこれで相当するがこいつは本物の竜の頭だよ。お前さん。こいつをどこで手に入れたんだい?」
親父は竜の頭を店のカウンターに戻した。乾いているせいで持てなくはないが、それでもずっと抱えているには重すぎる。
「そいつ?ウチの爺さんが寿命で死んだんで、倉庫の遺品を今整理してるんだよ。で、それもその一つ。ワシはちぃとばっかし能力を持っておったんじゃ。ドラゴンなんざ眠っているだけで倒せたんじゃぁ。それが口癖でね」
嫁入り前の若い娘は老人のしわがれた声真似をしながら言ってみせた。
「そいつは凄いな。眠りながらでっかい剣を振り回してこの竜の首を斬り落としたのかい?」
「いんや。死ぬ一年前は寝たきりでね。畑を耕すクワどころか粥を食べる為のスプーンさえ自分で持てない有り様だったよ」
「そいつはたいしたチィトばっかし凄い能力の持ち主様だ」
二人は大笑いした。
「で、じいさんの世話をしてたのがアタシなんだけど礼として倉庫の鍵をもらったのさ。冒険者だった頃の財宝を全部くれるって」
エクセラは革製の鞄を投げた。
「そいつは荷物がいくらでも入る魔法の鞄さ。好きな物を取り出すことができ、しかも重さを感じないんだと」
「へぇこいつが」
道具屋の親父が鞄を覗くと、カウンターの向こう側にいるエクセラのでっかい胸が見えた。
そう。鞄には穴が空いてるのだ。
「こいつは確かにいくらでもお宝が入りそうだ」
「入れた瞬間に出て行っちまうけどね」
またまた大笑い。
続いて薬瓶。
「そいつはどんな傷でもたちどころに治る魔法のポーションさね」
緑と紫と青の混じった気色の悪い色をしている。
「なんかやばそうじゃないか?」
「栓を抜いて臭いを嗅いでみな。あくまでも匂いだぞ。絶対に口にするなよ?」
店主は臭いを嗅いでみた。
「あ、これあかんな。うちでも薬草やポーションを扱ってるけどこれはあかんわ」
「軽く三、四十年前の代物だからね」
さらに割れた鍋。
「望む料理がいくらでも出てくる魔法の鍋だってさ」
「割れてるな」
「割れてるね」
「ま、鉄製だからこれは引き取らせてもらうよ」
店主は割れた鍋を受け取った。
「ところでこいつはなんだい?」
店主はカウンターに乗った様々な道具の中で、手のひらに乗るサイズの小さな板切れを持った。
「ああそれ?爺さんが死ぬまで手放さなかったんだよ。もしかしたら何かの魔法の品かと思って持って来たんだけど、値打もんかい?」
「うーん。なんの魔力も感じられないね。魔法の道具というわけでもないし。貴重な魔力金属というわけでもなさそうだ。こいつはこっちでいいな」
店の親父はそれをゴミ箱に無造作に放り投げた。
それは、この地から遥か東。
魔物の国に現れたという魔王マイルズと名乗る者が常に持っている『携帯』だの、『スマフォ』だのと呼んでいる物体にとても形が似ていた。




