誕生、暗黒騎士団
スイリョクハツデンジョ、とかいう奇妙な橋が完成して数日。
「あ、次川の上流にダム造ってよトヨヒサルス」
以前のような軽快な口調でマイルズは語り掛けてきた。
「あの、我らの滅亡の危機は・・・?」
「それならもう大丈夫。問題は全部解決したから」
マイルズは右手で小さな板切れを弄びながら上機嫌であった。
「で、これがダムの建設予定地と図面ね」
マイルズは絵を見せた。
「ダムと言うのは山に面したところに木や木材を使って川をせき止め、人工の湖を造るんだ。これをするのは自然界ではビーバーだけだ」
「そのダムが我らの勝利に何の意味が?」
「雨季に雨が降る。通常はそのまま川を流れて海に行く。だが人工の湖を造ればそこに雨水を溜めておく事ができる。そして必要な時に、例えば農業用水が足りない時に必要なだけ流すんだよ」
「大量の水がいつでも?それは素晴らしい!!」
トヨヒサルスは雨に打たれるカエルのように目を輝かせた。
その時、部屋のドアをいきなり開けるものがあった。
「邪魔するぞ」
入って来たのはオークであった。
「なんだね。いきなり」
「実はそこの骸骨の魔術師に用があるんだ。あんた魔法で色んな事ができるんだろう?」
「わし?」
マイルズは自分を指さした。
「いや。私は他の者よりちょっと色んな事に詳しいだけだよ」
「アンタに折り入って頼みがある。実は女騎士を増やしてくれ」
「はっ?」
オークは握りこぶしを造りながら力説し始める。
「骸骨さん。アンタ色んなところを旅しているなら知っているはずだ。ブレインイーター族が人間の脳味噌が大好物な事を。俺達オークにも大好物がある。それは女騎士だ!どうだい。アンタの魔法でこう、パパパパ。て、感じで女騎士を増やしてくれないだろうか?もしアンタが俺達の一族全部に回るくらい女騎士を集める事が出来るというのならば俺達オーク族はアンタの配下に入ろう!!」
「何を下らない事を。今マイルズ様はダムと云う素晴らしい建築物を建てるので忙し」
トヨヒサルスはそう言ってオークを追い返そうとしたが。
「よしやろう」
「え?」
「女騎士を増やそう」
マイルズは乗り気な口調で言った。
「いやいやお待ちくださいマイルズ様。人間の国に攻め入るつもりですか?人間の兵から女騎士だけ選んで殺さないつもりですか?そのような器用な真似していたらどれだけの損害がでるのか・・・」
「トヨヒサルスよ。お前に偉大なる賢人の言葉を送ろう。『逆に考えるんだ』」
「逆に考える?」
「そうだ。奪って捕虜にするのではなく、女騎士を増やしてしまえばいいのだ」
「女騎士を増やす?」
「あちこちの種族から14歳未満の王侯貴族。家柄良い人間の娘を連れてくる。勿論ブレインイーター族も含めてな」
「ブレインイーター族も?承知しますか?」
「将来への投資。と言えば納得するだろう。そして彼女達を騎士にすべく然るべき訓練を施す施設を建設する。騎士になる教育を受けた幼女は、成長過程で立派な女騎士となる」
「という事は子供を放り込めば込むほど沢山の女騎士が手に入るってのか?」
オークが尋ねる。
「その通りだ」
「よしわかった!なにをすればいい?」
「そうだな。まずはその幼女達が暮らすための建物を建設しよう。これはスケルトンにやらせるわけにはいかんな」
「当然だな」
「建築資材の調達も必要だな」
「それも任せろ」
「ベッドとかの家具も必要もだ」
「じゃ、お前造れよ」
「私もやるんですか・・・」
トヨヒサルスは嫌そうな顔をしたが、尽き合うしかなかった。
建設された訓練所の建物の前で、九十三名貴族息女が集められていた。
彼女達の前に一匹の体格の良いオークが立つ。
「俺様が今日から貴様ら人間の小娘共を教育してやるワイズマン様だ!よおく覚えておけっ!!」
五百メートル先にある古い石切り場に届く罵声が始まりであった。
「おい貴様!名前を言ってみろ!!」
先頭に立っていた金色の巻き毛の娘に鼻を近づける。
「わたくしはユーリア=リムスキー=コルサコフ。コルサコフ家の」
巻き毛を掴んで振り回した後、地面に叩きつけるワイズマン教官。
「貴様は偉大なるオーク様の子供を産む為のメス豚だっ!!言ってみろっ!!!」
「わ、わらくりはおーくしゃまのころもをうみらめのめしうたれす・・・」
「声が小さあああいいっ!!!」
「わたくしはオーク様の子供を産む為のメス豚ですっ!!」
「貴様らも復唱しろっ!!!」
『私はオーク様の子供を産む為のメス豚ですっ!!』
「私?言語ととして正しくないっ!!『私達』だっ!!罰として全員その場で腕立て伏せ十回!!」
九十三名の貴族子女は腕立て伏せを始めた。
「よし。改めて聞こう!貴様らはなんだ?!!」
『私達はオーク様の子供を産む為のメス豚ですっ!!』
「言い心がけだ。だが貴様らには足りん物がある。赤ん坊を産む為には丈夫な下半身だ!!全員今すぐスクワットを十回行え!!!」
九十三名の貴族子女はスクワットを始めた。
慣れない運動をしたせいか。或いはスカートでやったせいなのか。一人転倒したものがいた。
「貴様らっ!そんな事で丈夫な子供が産めると思っているのか!!連帯責任だっ!!罰として全員ランニング一キロ走れっ!!!」
九十三名の貴族子女は訓練所の周りを走り始めた。
「本日の教育はここまでだっ!!」
「・・・・・」
九十三名の貴族子女は言葉もない。
「有難うございます!教官殿だ!!」
『有難うございます!教官殿!!』
「朝はおはようございます!失敗したら申し訳ございません!夜寝る時はおやすみなさい!きちんと挨拶できない者が立派な女騎士に慣れると思っているのかっ!!」
『おはようございます!申し訳ございません!おやすみなさい!!』
「よしでは貴様ら訓練で汗をかいただろう。湯浴みをさせてやる。その後は指定の稽古着に着替えるように」
「・・・・・」
「返事はどうしたっ?!!!」
『はいっ!有難うございます教官殿っ!!』
「風呂が終わったな?では次は食事だ!朝昼晩としっかり食わしてやる!!ガリガリにやせ細っていたら立派な子供が産めないからな!!今日のメニューはたっぷり野菜のシチューと黒パンだっ!!全員残さず喰えっ!!」
『はいっ!有難うございます教官殿っ!!!』
「夜は九時までに就寝だ!朝は六時起床!!明日から腕立て百回腹筋百回スクワット百回マラソン十キロの地獄のトレーニングだ!!英気を養っておけっ!!」
『はいっ!有難うございます教官殿っ!!!』
「きょ、教官様・・・。申し訳ないのですがリトリアさんが熱を出してしまったのですが・・・・」
「教官様ではなく教官殿だっ!!だが、今回は仲間の異常を迅速に報告したので特別に許すっ!!病人は速やかに隔離病室に移動!!柔らかいおかゆと薬草を至急だっ!!ゴブリン共に看病をやらせるぞっ!!」
それから十年の月日が流れた・・・・。
「貫け、穿け、三十の爪、ユグドラシル!!!」
『グヒョアアアアアアアアアアアアアア』
水平方向に撃ち出された緑色の渦巻きと共に二十匹ほどのオークが吹き飛んでいく。
そしてダム湖に落ちた。
死んでないだろう。たぶん。
「大地を貫く月光の刃、ルナストライク!!!」
発射された弓がゴブリンの集団で真っ白に膨れ上がり、大爆発を起こした。
『ピギャアアアアアアアアアアア!!!!!!』
二百匹ほど上空に吹き飛び、そしてダム湖に落ちた。
死んでないだろう。たぶん。
「オルタナティヴナイツ第一期生九十三名。魔王マイルズ様に訓練完了を御報告致します」
短い金髪の女騎士が敬礼しながらマイルズに告げた。
「あ、うん。・・・なんていうか、凄く強いんだね」
率直な感想を述べるマイルズ。
「いえ。彼らはあくまでも演武の相手。マイルズ様の部下です。友軍を殺害するわけにはいかないので手加減しています」
「あ、そーなんだ。有難う・・・」
「マイルズ様はきちんと挨拶ができる御方なのですね。やはり我々の上に立つ最高司令官として立派な御仁です。敬服致します。ところでマイルズ様にご質問があるのですが」
「な、なにかな?」
「私が子供を造る為のオークはどこにいるのですか?マイルズ様の為に優秀な兵士を御用意させていただきたいので、なるべく強い者を支配下から選んで頂きたい」
「別にゴブリンでもよろしくてよ?」
副隊長の巻き毛の女騎士が言った。
いや。それさっきお前達が吹き飛ばしちゃったじゃん。
「と、とりあえず君達にはマイルズ様の居城の警備と、支配下の重要拠点の守備を命じる」
トヨヒサルスは女騎士達に言った。
「は!了解しました!我らオルタナティヴナイツこの魂マイルズ様に捧げますっ!!」
『すべてはマイルズ様のためっ!!!!!』
一斉に敬礼する女騎士の一団。
揃いの黒い、妙に露出の多い鎧を着た女騎士の一群は去って行った。
「おい。話が違うぞ?」
マイルズに話にかける者がいた。ブレインイーター族である。
「我々にはテレパシー能力がある」
「テレパシー?なんですかそれは?」
トヨヒサルスは尋ねた。
「魔術の一種と考えればいい。それでさっきからあの連中の精神を操ろうとしたがまったく効かない。物凄く強力な魔術の使い手ならそういう事も有り得るが」
去りゆく女騎士は腹筋といい二の腕といい物凄い筋肉である。間違いなくヘッドロックで大概の人型生物の首をへし折れる。
「どうみても体育会系だぞあの連中は」
「それはたぶん、恩寵のせいだ」
マイルズが告げる。
「恩寵?なんだそれは?」
「私は私に忠誠に誓う者に特別な能力を授ける事ができる。それが恩寵だ。彼女達の場合は絶対忠誠の恩寵が発動している。つまり何があっても私を裏切らない。つまりあの女騎士の一団には洗脳の魔術など無意味だ」
「詐欺だろそれは。我々ブレインイーター族は旨い脳味噌が喰えるから協力したんだぞ」
ブレインイーターはそう抗議した。
「ま、まぁあくまで私が持ちかけたのは投資話だから。損することもあるわけで・・・」
「ところでどうしますマイルズ様?あの女騎士滅茶苦茶強いですよ?万一裏切ったりでもしたら・・・」
「だ、大丈夫だ。連中は絶対忠誠の恩寵が働いてるから。裏切らないって。人間同士の戦いでも躊躇しないから最前線にも送れるよ」




