最大の危機とその解決法
ツキシマ・マイゼン。いやマイルズがこの異世界に来てからもうすぐ一ヶ月になろうとしていた。
上位高等魔族(カエル(笑))の村は順当に発展を続けていた。軍隊を持つほどではないが、既に近隣の亜種族、オーク、ゴブリンや各種獣人らの交易の中心となっている。
おとといは極めて珍しい連中が来た。
ブレインイーター。
巨大な人間の脳味噌が剥き出しで、それに普通の人間の胴体っぽいのがくっついている。
首と脳味噌のつなぎ目部分に口があるらしく、そこで食事をするらしい。
その主食というのが知的生物の脳味噌。つまり人間であるらしい。
上位高等魔族は食えるのかと聞いたら、
「彼らは純粋な精神生命体が疑似的にこの惑星の生物を模して形体を変えているだけだ。脳と呼べる器官はない。オークやゴブリンと違って非常食にすらならない」
とのことだ。
ではオークやゴブリンは食うのか。との問いに、
「君はスケルトンと称される生物の遺体をリサイクルしたゴーレムのようだが、君は生前自分の排泄物を摂取したことないだろう。もちろんこれは私の勝手な推測だが。つまり彼らの脳はそういう味がするんだ」
なら一番美味しいのは。との問いに、
「もちろんエルフだ。一人食せば一年は食事不要だ」
という事らしい。
「変わったモンスターもいるもんだなぁ」
そう呟きつつもマイルズは携帯を弄る。
適当に便利そうで、比較的簡単に作れる道具を調べ、そのやり方をトヨヒサルスに教える。
後は勝手に村が発展する。実に楽チンである。
暇な時間はこいうやって携帯を弄る。たまにトヨヒサルスが報告をしにくる。
最近は携帯を弄る時間が増えてきた。すべては順調である。
こうもうまくいくと後で何かとんでもないしっぺ返しが来そうで怖い気もする。
「といつつ僕チャンはジュエルモンスターで遊びますがね~」
携帯の画面の中を白骨の指で滑らかに触ると、それに合わせて色とりどりの宝石が動いていく。
そして宝石が並ぶと、画面上部に表示されたロボットに『983.351』と数字が表示され、消える。
さらにその上部に『バッテリーが20パーセントを切りました。充電してください』と表示された。
「えっ?なん・・・だと・・・?!」
どうやら、しっぺ返しは意外と早く来たようだ。
そらそうだ。電源を常につけっぱなしにしてればバッテリーも切れる。
そもそも一ヶ月以上も持ったのが異常だ。
「ま、まずい!このままでは携帯が使えなくなってしまう・・・」
マイルズは一ヶ月以上使用していなかった頭を、スケルトンなので脳味噌は入っていないとブレインイーター族にも一昨日指摘されたばかりであるが、フル回転させた。
決断は、素早かった。
ジュエルモンスターのアプリを終了をさせると、直ちに別アプリを起動。
「これだ。これしかない・・・」
必要情報を集め、紙に写し取り始める。
プリンタがないので、白い骨の指で手書きで。
そして、夜が明けた。
「・・・おい。トヨヒサルス。牢に入れておいた人間共はどうした?まさか逃げられたのではあるまいな?」
いつになく冷たい口調でマイルズはトヨヒサルスに話しかけた。
「えっ?あの牢屋ですか?」
建設された村近くの洞窟の奥には、戦闘などで捕えた人間の捕虜を入れておく牢がある。
牢と言ってもそんな立派なものではなく、当然鉄格子ではなく、木の棒を縦に突き刺して見張りが立っているだけの代物である。
ちょっと力の強い、あるいは器用な人間ならば容易に脱獄可能である。
「え?いや違いますよ。この間ブレインイーター族が来たじゃないですか。同じ重さのオリハルコンとか、そういう貴重な品と交換で引き取っていきましたよ。何しろ彼らは人間を食べるタイプの種族ですからね」
「そんな下らないもんと貴重な労働力を交換してしまったのか」
「え?いやいあ。オリハルコンは有名で高価な魔法金属ですよ。まさか知らないんですか?」
トヨヒサルスはあきれてしまったが。
「やむを得んな。代わりの労働力を調達してくる。お前はそのガラクタを石材と交換しておけ。鉄と銅もな。それと・・・」
そこまで言って考え込む。
「あれがなければ。あれがなければ造れない。どうすればいい?いやもしかするとあの連中ならば?」
ぶつくさ独り言を言いながらマイルズは上級高位魔族(カエル(笑))の村を離れていった。
それから三日後の早朝。
トヨヒサルス宅の玄関を叩く者があった。
「なんだ?こんな朝早くに?」
上級高位魔族(カエル(笑))は精神生命体である。彼らにとって魔力を回復させるための睡眠は重要な物だ。その気になれば冬の間ずっと睡眠状態を維持できる。もちろん下等な人間如きと違って食事など不要。
やはり上級高位魔族(カエル(笑))は偉大な存在である。
扉を開けるとそこには三日前に村から出て行ったはずの骸骨。
マイルズが立っていた。
「どうしたんだ?」
「労働力を調達してきた」
「まさか一人で人間共に戦争を売ってきたのか?お前もそこそこ強いだろうが、袋叩きにされるはずだろう?」
「少々ゴミ拾いをな」
そう言ったマイルズの背後からスケルトン、あるいはゾンビが姿を見せた。
一体や二体ではない。
十、二十・・・・。まだまだぞろぞろと。
「これ、どうしたんだ?」
「あちこちの種族のゴミ捨て場を漁っただけだ」
「ゴミ捨て場・・・だと・・・?」
「ゴブリンのゴミ捨て場からは遊び半分で焼き殺されたであろう人間の遺体や弓の的にされたであろう新鮮な人間の死体が手に入った。他にも大量にな」
「そうか。それをアンデッドモンスターにしたんだな?」
「いや違う。それらはすべて死体だが、『脳味噌』は残っている。故に拾ってブレインイーター族と取引し」
マイルズはちょっとしたテーブルサイズの金属塊を見せた。もちろん運んできたのはマイルズが造ったアンデットたちである。
元々きちんとした構造物であったのだろうが、何か高い高熱をかけられ、融解し、原型を留めていない。
「ちょっと台所から包丁を持ってきてくれ」
マイルズに言われたとおりにトヨヒサルスは包丁を持ってきた。
「この金属塊に包丁を近づけてみろ」
トヨヒサルスが包丁を近づけると、彼の手から包丁が離れ、金属塊にへばりついた。
「これは磁石というものだ」
「ジシャク?」
「ブレインイーターにこれを要求したところ、『こんな使い道のない石でいいのか?魔法金属の方がよいだろう』と言われたよ。だがな」
マイルズは笑みを浮かべた。シャレコウベだが、はっきりと笑ったのがトヨヒサルスにはわかった。
「これはオリハルコンなどという下らない金属よりかはよっぽど価値があるものなのだ。もっとも普通ならこれで羅針盤を造って終わりだが私は違う」
「違う、と言うと?」
「まあ見ておれ。早速今夜から作業にとりかかる。とりあえず」
マイルズは自分の連れてきたゾンビやスケルトンに振り向くと。
「お前達、隠れろ」
と命じた。
合図と同時に一斉に木箱に隠れたり、ボロぬろを羽織ってしゃがんだり、木の切り株の大きさに合わせるように体を分解して自ら崩れ去るスケルトン。
「なんだこいつら?こいつら何してるんですか?」
「太陽光対策だ」
「太陽光?」
そう。既に日の出の時間が迫って来たのだ。
夜闇が削られ、遥か人間達が住む『西方』を越えた遥か先にある山脈から太陽が昇り始める。
逃げ遅れた者が何体がいたようだ。
紫外線の照射を受け、スケルトンやゾンビが次々と灰と化す。
「この通りだ。正式な儀式をしない簡易型なのでな。日中は機能が低下するどころか直射日光を浴びるとこの通りだ。あ、魔術の知識があるお前に教えておくと、こいつらの前で迂闊に照明の魔法なんて使うなよ?
人間は軽く『眩しいな』くらいにしか感じないが、こいつらは『気絶』するからな」
「あんたは、マイルズさんは平気なんですか?」
「ある程度レベルが高い者ならば大丈夫だ。それでもあんまり気持ちよいものではない。具体的には人間が飲める温度の紅茶を全身にぶっかけられたくらいだ。まぁ白骨は金属じゃないから熱膨張しないから大丈夫だ」
「熱膨張?それはなんですか?」
「君は熱膨張も知らないのかね?金属は人間が飲める温度の紅茶をかけると変形して歪んでしまうんだよ」
「なんと!それは初耳です!」
「もっと重要なのは粉じん爆発だな。これは絶対に覚えておきたまえ。小麦粉を空気中にばらまいて火をつける。するとあらゆる爆発魔法を凌駕する破壊が発生する。この世の森羅万象が記載された『アカシック・レコード』にも記載されている。たとえ本体が別次元にあり、脳を一撃で破壊されても自動再生魔法で瞬間復活する魔法学科の主席生がいたとしても、粉じん爆発からは逃れる手立てはないのだ」
「ふ、粉じん爆発。そ、そんな恐ろしい物が存在していたなんて・・・」
「核爆発に耐え、燃料は石炭で、一度の補給で五年間動き、時速500キロで走りながら射程10キロのレーザーを連射する古代の超兵器も、粉じん爆発には絶えられないのだ。それにしても」
「それにしても?」
「人間がゴブリンを殺して、ゴブリンの墓を造らないように簡単にどこに行っても楽に人間の死体が手に入る。ブレインイーター族は脳味噌以外の人間の死体は非過食部分だからな。まぁどの食人系の魔物も骨は大概残すが。だが一か所だけ例外があってな」
「どこです?」
「オークの集落だ。連中、若い娘はもちろん、そこそこ年の云った女まで丁重に扱っておったぞ。やつらこそ真のフェミニストだっ!!」
その夜から、村の近くに流れる川で、突貫工事が始まった。
「働け!働け!死ぬまで働け!・・・いやもう死んでるか!とにかく命懸けで働くのだ!!」
「あ、積んでいた石が崩れましたね」
「この工事の成功如何で私の、いや貴様ら上級高位魔族だけでなく、ゴブリンオークブレイインイーターその他種族の命運がかかっている。失敗すれば我々の命運は尽き、皆人間達に滅ぼされると心得よ」
「こ、この橋がそんなに重要な存在なのですか?」
トヨヒサルスは怯えた。
「そうだ。この水力発電所が完成しなければ我々に未来はない」




