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異世界殺菌をする町医者  作者: 虹色水晶
異世界から日本に戻れば斬新な小説。なぜ誰も書かないのだろう?
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20/31

常に最悪の事態を想定するのは悪いことではない(はず)

「俺のそばにちかよるなぁあああああああああああああああああああーーーーーーーーっつつつうつつっ!!!!!」


 無様に玄関先で出合い頭に転んだ男は、エクセラを見るなりそのように叫んだ。

 この男はバルス・キツナ。この辺り一帯を治める領主である。

 当然金持ちなので、道具屋の親父に本物の竜の頭と鑑定された物を買い取ってもらおうと荷車に載せてこうして持ち込んだ次第であるのだが。

 まるで腹部にドラゴンライダーのランスの一撃を受け、四つん這いになり、額から血を流し、「なんとかこの場から逃れなければ・・・仲間の僧侶の所まで逃げ帰らな、け、れば・・・っ・・!!」と雑魚ゴブリンにすら見つからないよう草むらを音を立てないよう移動していてる感じの冒険者の様に体を引きずっている。

 言っておくがエクセラは彼に危害など一切加えていない。

 玄関を開けたこの男が勝手に絶叫し、一人で転んでのたうち回っているのである。


「どうする?原子分解魔法を叩きこむか?いや車輪は四つある。もしそのすべてがバラバラに吹き飛び、飛鳥文化アタックをしかけてきたら?迎撃確率は50パーセント×50パーセント×50パーセント×50パーセントだから・・・」


 バルス・キツナは震える手で懐から『携帯電話』を取り出した。

 そして操作する。


「6.25パーセント!なんて高い命中確率なんだ!!貴様この俺を確実に殺すために雇われたヒットマンだな!!!」


「それって高い数字なの?」


「ネハンゲリオンの起動確立より6億2千500倍も高いじゃないか!!その命中判定が四回も!!!つまり24億8千200パーセントの確率で俺を殺す気なんだなっ!!!!!!!?????」


「悪い。アタシ今まで魔法の勉強したことないから。普通の人にもわかる方法で説明して」


「メル!はあくこいメルぅ!!なにをぐずぐずしているっうううう!!!!」


「はいはいバルス様ただいまあぐあっ!!」


 バルスはメルと呼ばれたメイドの短い髪を掴んで真っ赤な絨毯に叩きつけると、そのまま背中を蹴りつけた。


「このうすのろがっ!!この俺が殺されてしまったらどうするんだっ!!???」


「はい。申し訳ございません・・・・」


 メイドは自分を足蹴にした主人に平謝りする。


「いいかっ!その凶悪な殺人鬼を今すぐつまみ出せ!!二度とこの屋敷の敷地に入れるんじゃないぞ、わかったなっ!!!」


 そう命令すると館の主バルスは太陽光に怯える吸血鬼のように階段を素早く駆け上がり、建物の階上へと姿を消していく。


「もうしわけございません。そういうわけですので早々に当屋敷から早々に立ち去って頂けないでしょうか?」


 端整な顔立ちのメイドは、先ほど主に付けられた靴跡を顔面そのまま残してエクセラにそのように頼み込む。


「いや。別にいいけどさぁ。なんであの人アタシにそこまでビビってんの?」


「いえ。私の主は。バルス様は貴方如きに怯えているのではありません」


「じゃ、何?」


「おそらくは貴方がその竜の首を運ぶのに用いた荷車に怯えているのです」


「荷車に?」


 エクセラは自分が引っ張って来た荷車を見た。農家である家の納屋に置いてある奴である。

 別に魔法の荷車でもなんでもなく、空を飛べるわけでもなく、人なり馬なり牛なりが引っ張って荷物を運ぶための、ごく普通の荷車である。

 車体木製。車輪木製。車軸木製。

 今回はエクセラが人力で引っ張ってきた。


「厳密にはバルス様は荷車恐怖症というより車輪恐怖症と言えばよろしいのでしょうか。半年ほど前新入りメイドが食事を運ぶ台車を押していたところ、廊下でバルス様の足を轢いてしまったのです。その直後バルス様は三日三晩高熱にうなされ寝込んでしまわれたのです。『ああ!ああ!大宮ナンバーの狭山通運のトラックが!文明放送のラジオがっ!!!』といううわごとを毎晩口になさりながら」


「なにそれ」


「さぁ?ともかくそれ以来食堂にある柱時計にすら怯えるようになりまして。『ぎゃああああ!!!!歯車に潰される!!!時計の大きい針と小さい針に挟まれて潰されるううぅうううう!!!』などと悲鳴をあげて、食堂には近寄らなくなりました」


「随分とちゃっちい奴ね。指を挟む事あっても人が潰れる程大きな柱時計じゃないでしょ?

アンタが仕える価値あるわけ?」


「勿論ございます。バルス様は産まれて二週間で言葉を話し、一月目で二本の足で歩いた立派な御方でございます」


「いやいや。それもう絶対人間じゃないから。たとえ人間の両親から産まれたとしても中に入っている

魂は別物。異世界の化け物だってばさ」


「そんな事はございません。この村に一件しかない修道会の学校で教育を受けるまでバルス様は自分の名前すら書けず、帝都にある魔法学科に留学するまで指先に火を灯す単純な発火の魔法すら使えなかったのです」


「アンタの主人て凄いの?凄くないの?」


「もちろん私が仕えるに値する立派な御仁です。魔法大学の博士論文をお持ちです」


「どんな凄い研究をしたの?」


「『国王候補の貴族の娘と結婚したいから拍を付ける方法を考えろ』とバルス様に頼まれたので私が御用意致しました。大学の教員室に忍び込み金庫を開け、証書と印鑑を盗み出し、名誉教授の筆跡を真似て私が偽造しました。完璧です」


「アンタの方が絶対凄いわっ!!てゆーかそれ犯罪だからっっつつつつ!!!!!」


「おおおいっ!!!メルッ!!トイレに紙がないぞっ!!!!なにをグズグズしているっ!!!!このウスノロガッ!!!早くトイレットペーパーをもってくるのだっ!!!!!ウンコがくっついた人間は二年間放置すると硝石になってしまうのだ!!!!!ドリブタースで見たから間違いないっ!!!!貴様この俺を火薬の原材料にするつもりかっ!!!!!」


「あの男二年間便所の中で引き篭もるつもりなんかい・・・・」


 二階か三階か知らないが、屋敷の外。玄関まで届く喚き声を聴きながらエクセラは嘆息をついた。


「私はこれよりバルス様にケツを拭くための紙をお持ちしなければならないので。そうですね。

竜革の加工技術を持った職人をご紹介いたしましょうか?」

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