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恋人

 第四戦目。


 マサムネはすぐには進み出さず、しばらく時間を置く。


「明日、彼氏と会うのか?」


 障害物の陰から辺りを窺いながら、マサムネが言う。


「うん、会うよ。だってクリスマスイヴだもんね」

「何時? 夜か?」

「そうだね」

「上手くやってんだな。……で、会って、飯とか食って」

「ちゃんとしたいいお店でね」

「高台に行って、夜景とか眺めちゃって」

「うんうん」

「手ぇ繋いで、キスとかして」

「そうそう」

「で、その後は……」

「どっちになるか」

「どっちって? その先まで行くか、解散するか、か?」

「彼氏の家に行くか、ホテルか、だよ。解散なわけないでしょ」

「ああ、そうか。まあ、そうだよな……」

()いた?」

「バカ言うな」


 そこで話は途切れ、マサムネは歩を進め始めた。

 沈黙が重たい緊張感となって園内に満ちる。

 慎重に辺りを見回しながら、マサムネはさらに進む。


 するとそこで、


「メリークリスマス~!」


 突然アリスが声を張った。


「わっ! なんだよ、急に!?」

「いや、十二時回って、二十四日になったから」

「だからって、お前なぁ……」


 元旦じゃないんだから。マサムネがそんなことを思っていると、


「あっ、ごめん」


 とアリス。


「え?」


 次の瞬間、──ズドン。

 マサムネは倒された。


 どうやら驚いた時に思わず動いてしまい、そこを見つけられたらしい。


「……」


 マサムネは腑に落ちない表情で辺りを探した。


 アリスはフードコートのカフェにいた。




 第五戦目。


 マサムネは適当に当たりをつけながら歩いていく。

 するとそこで、ふと一つの可能性を思い付く。


(いや、これは確かかもしれないな……)


 アリスならやりそうだ。

 マサムネは過去四戦を振り返る。


 まず初っ端に激しいジェットコースターに乗って、次はその勢いのままバイキングに乗る。激しいのを立て続けに乗ったから、今度はのんびりと園内を遊覧するスカイサイクルに乗って、それからその中で見つけたフードコートで昼食がてら休憩を取る。


(これって、まるでデートをしてるみたいじゃないか?)


 そのことに思い至ったマサムネは、次にどこへ行くのが遊園地デートを楽しむ上で適切なのか、と考え方をスイッチする。


 ひとまず思い付いたアトラクションに近付きながら、しかしそのことをアリスに悟られないよう、


「その……、彼氏ってのは、いい奴なのか?」


 と話を振る。


「そうだね」


 とアリス。こちらはマサムネのような緊張はなく、リラックスした声音。


「とってもカッコよくて、すっごく優しい人。うちの高校でも一、二を争うイケメンで有名な人だよ」

「へぇ」


 やや面白くない様子でマサムネ。


 アリスに恋人ができたことを知ったのは、『FPS』で再会して二週間ほどが経った頃だ。

 一年半ぶりに話をしてゲームをやって昔の感覚を取り戻したマサムネは、オンラインの中だけでは物足りなくなり、「今度会わないか?」とアリスを誘った。するとそこで、「実はね……」とアリスが告白したのだ。


 誘いを断るとアリスは、よほどの用事がない限り、休日は彼と会うことになっているのだと告げた。拘束してくるタイプなの、と笑いながら。だから、会うことはできない……と。


 アリスに彼氏ができたことは、もちろんショックだった。別に自分がアリスをどうこうしようってことは思っていなかったのだが、まさかアリスが別な男とそういう関係になるとも思っていなかった。


 とは言え、高校に入って会わない時間を作ったのは半分はマサムネだし、アリスならいつ彼氏ができても不思議ではない。


 だから、一応は受け入れたのだが……。


「そんなイケメンが、よくアリスと付き合ったな」

「だって私、可愛いもん」

「言ってろ」


 二人で笑う。




 アドベンチャー系のアトラクションに到着した。帆船に乗って大航海時代を旅しようというものだ。


 マサムネは慎重に周囲を探りながら、「いいよな」と口にする。


「俺も彼女欲しい」


 アリスは無応答。


 マサムネは入り口からアトラクションの中へと入る。開発会社が気合いを入れて作っただけあって、この遊園地マップは無駄によくできている。帆船に乗ると、それはちゃんと動き出して、普通にちょっとしたショーが開始される。


「俺だって、校内じゃ一、二を争うイケメンだってのに」

「えー」


 アリスが笑う。


「どうしてかできないんだよな、彼女」


 それは半ば本音で言った言葉で、思わず愚痴になってしまう。


 アリスはまた無応答。

 そこで言葉は途切れ、沈黙が覆う。


 帆船が進む。

 マサムネは辺りを警戒しながらも、動く海賊たちや他の船を見て、改めてその出来に感心する。


 とそこで、


「その人はね、踏み込むんだよ」


 アリスが呟くように言った。


「ちゃんと人の心の奥まで踏み込んでくるの」


 一つの真実を告げるように、はっきりとそう口にした。


 それじゃあまるで、俺がそうできてないみたいじゃないか。マサムネは少しムッとする。しかしその思いを、マサムネはすぐに改めた。


 それはどこか自分でもわかっていたことだ。


 今度はマサムネが無応答を返す。


 すると突然、──ズドン。

 マサムネは倒された。見ると、荒くれの海賊たちの中に紛れてアリスが立っていた。


 呆然とするマサムネ。


「すごい! もしかして、私がここにいるってわかった!?」


 アリスのはしゃぐ声。


 マサムネはまだ少し事態が呑み込めず、固まったまま。

 しかしすぐにハッとして、「あー!」と声を上げた。


「なんだよ! そうだよ! せっかく読んでたのに、くそっ!」


 アリスが笑う。


「やるね、マサムネ。本当にわかってきたね」

「腹いっぱいになったから、次は見て楽しむものってんだろ!? だったら、次は……」

「そうそう。ああ、いい!」


 アリスの声は本当に嬉しそうだ。


「ねえ、じゃあ、次はお化け屋敷に行こう?」

「よし、わかった。待ってろよ! お化け退治してやる!」


 アリスの笑い声が響いた。

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