肉まん
第三戦目。
マサムネは屋根のあるフードコートから迫っていく。
どんな場合においても先に相手を見つけた方に勝機が生まれるのは当然だが、二丁拳銃とスナイパーライフルとではその度合いは大きく異なる。
何といっても射程距離に違いがありすぎる。向こうはこちらを見つけた時点で既に有効射程内である可能性が高いが、こんな広大なマップでは、こちらは見つけた時点ではまだまだ遠い可能性の方が高い。撃って当たる可能性もないわけではないが、二丁拳銃では一発二発当てたところで相手を倒すことはできない。わざわざ向こうにこちらの居場所を教えるようなものだ。
スナイパーライフルを相手に勝つためには、相手を見つけてからなお近付いていく間、一切姿も気配すらも相手に掴ませないことが必須条件となる。
ならば、より多く身を隠せる場所があって、かつ相手に接近しやすいルートを選択し、早い段階で可能な限り相手との距離を詰めておく必要が──
ズドン。
三人目のマサムネがゆっくりと地面に倒れ伏した。
「そうくると思った」
笑いながらアリス。
アリスは園内をぐるっと回るスカイサイクルに乗っている。
「マサムネ、いっつもそう。自分の見てる世界からしかものを捉えてないよね。もっと戦術とか勉強しないと」
「……わかってるよ」
拗ねたようにマサムネ。
先にこのゲームを始めたのは確かにマサムネだ。だけど、こうもアリスと差をつけられてしまったのは、何も人間としての能力だけではないだろう。
アリスが強いのは、逆に自分にそうしたところが欠けているからだ。
マサムネにもその自覚がないわけではなかった。
「でも……」
少しの間を置いて、アリスが言う。
「今は、戦術も何も関係ないよ。だって、これは私とマサムネの一対一の勝負なんだもん」
マサムネはその言葉に思案する。
それから、
「タイム! 一旦休憩しよう。小腹が減ったから、ちょっとコンビニ行ってくる」
そう言って、ヘッドセットを外して席を立った。
外に出ると、まるで氷室に入ったかのように冷たい空気がマサムネの身体を洗った。
マサムネはズボンのポケットに手を突っ込み、急ぎ足でコンビニへ向かう。
空は一面に厚い雲が覆い、星や月さえも拝むことができない。もしかしたら雪が降ろうとしているのかもしれない。だけどそこまで気温は低くないから、もしかしたら雨かもしれない。いずれにせよ、クリスマスに予定のないマサムネにしたら、ホワイトクリスマスだろうとレイニークリスマスだろうと、ただただ迷惑なだけだ。
人気のない夜道を、白い息を吐き出しながら歩く。
(要するにこの勝負、俺がどれだけアリスの心に踏み込めるかで決まるってことだ)
身を震わせながら、マサムネはそんなことを考えた。
アリスは明らかに何かを隠している。
今日この日にゲームにログインしたこと。
真剣勝負を持ち掛けてきたこと。
誰だって、何かあるってわかる。
(だけど……)
他の誰にでもない。
アリスは俺に勝負をかけてきた。
「わかってるさ」
厚い雲を見上げ、マサムネは呟いた。
「おかえり。何買ってきたの?」
家に戻ってヘッドセットを着けると、アリスがそう聞いてきた。
「ああ。缶コーヒーと肉まん」
「いいなぁ。外、寒かった?」
「寒い寒い。お前も一回出てみろよ。身が一気に引き締まるぞ」
肉まんを口にしながら、マサムネが言う。
「やだよ。私、寒いの苦手だし」
「そういやそうだったな」
「それにね……、今、ちょっと出られないの」
「そうなのか? どうして?」
「うん。ちょっとね……」
「ふうん……」
マサムネはまた少し思案して、肉まんを齧る。
「肉まん、美味しい?」
アリスが聞く。
「ああ」




