【物語】竜の巫女 剣の皇子 6 剣術修行
【物語】竜の巫女 剣の皇子 6 剣術修行
ソロフスがアーサラードラに滞在して3日目。
秋の穏やかな午後である。
彼はルチェイに『剣術指導』を開始することにした。
彼が宮城内の芝生にて待っていた。が、こちらに駆けてくるルチェイの姿に釘付けになった。
「お待たせしました!」
にこやかにお辞儀をして挨拶をする彼女。一緒に飛んで来たちび竜も『おまたせ♪』と、笑顔だ。
ソロフスは
「……姫殿下……その格好は……?」
あくまでもにこやかに彼女に質問した。
「はい。女官からの伝達で『動きやすい服装』にして参りました」
ルチェイは笑顔で即答した。
ちょうちんブルマー体操着姿で満面の笑みの姫巫女に……ソロフスは両手で顔を覆い、深いため息をつく。
「アカホッペヤマザルに教えることが多すぎてめまいがする」
彼は空を仰ぎ見ながらつぶやいた。
「は!?何か申されましたか?」
彼女は負けじと大声で言い返そうとし、睨み合いに突入するふたり。
そこにちび竜が『けんかだめ~!』と、割入った。
ソロフスは一呼吸おき、ルチェイに
「改めてご説明しておきます。私は殿下に剣術など諸々指導するように聖上より承りましたのでよろしくお願いします」
わざとゆっくり話した。
ルチェイは得心して
「では『先生』とお呼びしたらよろしいでしょうか?」
「いいえ。私自身、まだ修行中の身ですし、堅苦しいのは苦手です」
ソロフスは笑って言う。
「では、私のことも堅苦しくなくお話ください」ルチェイは体操着姿でガッツポーズをした。
ソロフスは様々な笑いをこらえつつ「では姫様とでもお呼びして、鍛えさせていただきます」と応じた。
彼は自身の剣を取り
「まずは剣がどういうものか、知っていただく事から始めましょう」
そう言うとルチェイの後ろに立ち、剣をそこから彼女の目の前に差し降ろした。
ルチェイは目測で剣を両手で持とうとして……予測以上の重さに取り落としそうになった。彼女は慌てた。が、ソロフスはそれを見越して剣とルチェイの体を両腕で支えた。
冷や汗をかきつつ、目を大きくする彼女に、ソロフスは「姫、剣は鋼でできております。故に重い。その上に斬ることができる。鞘から抜かずに振り回すだけでも危険な武器です。おわかりになられますか?」
穏やかにルチェイに話した。
彼女も「はい、初めて剣を持ちました。そのおかげでお話を実感できそうです」腕組みしながら答えた。
「剣以外にも、何か大きな強い力を扱うことは、それ相応の技能とこころが必要なのです」
そう話すソロフスのことばに
ルチェイはふと、何かを思い出しそうになったが、考えるのをやめた。
「というわけで、今日は体力アップトレーニングで10キロ走ります」
ソロフスは上着を脱いで軽装になりだした。しかし、剣は紐で背中に取り付けた。
「え?走る?10キロ!?ええええ!?」
大声をだすルチェイに、彼は冷ややかな目を向け
「そんなブルマー姿でアカホッペヤマザルさんに剣なんか持たせたら危ないに決まっているだろ。今日は走るんだよ!ほら走る!やればできるんだよ!やるんだ!アカホッペ!」
急に気安いことばで返した。
満面の笑みのソロフスに、ルチェイのほっぺは怒りエネルギーを含み、膨らんだ。
こうしてまたまたちび竜が心配する中、ルチェイの剣術、もとい……持久力トレーニングが開始されたのであった。
(つづく)