【物語】竜の巫女 剣の皇子 7 天使
遠い昔の話。
暗い部屋の中で、僕は壁に背を向け床に座っていた。
母様は父様の方が好き。
父様は僕が嫌いなんだ。
最後に会った侍女が『お母上様は貴方様をお守りするがためにお離れになるのです。決してお捨てになるのではございません。どうか、おわかりくださいませ』
僕に話してくれた。
どのみち、母様はいなくなってしまった。母様からもらった本も、ハンカチも、全部なくなってしまった。楽しくない。眠れない。
食事は夜が明けたら監視役がパンとスープを持ってくるだけ。
僕に話しかける人はいない。
もう泣くこともない。
だんだん眠くなってくる。
最初は曜日も数えていたけど、いつの間にか忘れた。
あれからどのくらい時間が過ぎたのか……僕にはわからなくなっていた。
今にも、これからにも、まったく心が動かない。
不意に、天井にきれいな光が現れたかと思うと部屋中がまぶしくなった。
こんなに明るい光を見たのは久しぶりだった僕は、しばらく目を開けることができなかった。
「あなたはなぜ、ここにいるの?」
とても優しい声がしたから、僕はゆっくり目を開けてみた。
そこには天使がいた。金髪で綺麗な青い瞳の少女が僕に微笑んでいる。
「君は天使?僕を天国に連れて行ってくれるの?」
天使に尋ねてみた。
それを聞いた少女は笑って「ううん、ちがう。私はお散歩していただけ。あなたの声が聞こえたの。だからここに来た」と答えた。
僕は何と聞こえたのか尋ねてみた。少女は「『僕を見て』って聞こえた」笑顔で言い、手を握ってくれた。
涙が出た。彼女はそんな僕を抱きしめてくれた。
「君は誰?」僕は泣きながら、切れ切れの声で尋ねた。
「私はルチェイ。かくれんぼが得意なの」
少女は名を教えてくれた。そして、彼女は僕の名前を聞いてきた。
「ソロフス」
僕は、本当に久しぶりに、自分の名を口に出した。
「ソロフス、私たち友達になりましょうよ」
「いいの?本当?」
「もちろんよ。うれしい!」
「ありがとう」
僕は声を出すことも久しぶりだったから本当に嬉しかった。
こうして、僕はひとりの友達を神様からもらった。
それから僕は、毎晩ちょっとだけ会いに来てくれるルチェイと話をした。
日付や、季節のこと、花や動物のこと……彼女の国だけにいる『アカホッペヤマザル』も教えてもらった。本でしか知らなかったアーサラードラの事をいろいろと。
彼女から尋ねられたが、僕は自分自身がここにいる具体的な理由は分からなかった。ルチェイも「あなたを今助けることはできない。ごめんなさい」と謝られた。
僕は彼女に「それは気にしないで」と返し、僕自身が今できることをやる、と話した。
食事も摂り、部屋の中で身体を動かすこともした。
監視役のじいさんは僕のことを奇妙な目でみたけど、かまうもんか。
いろんな事を考えて、頭の回転を戻すようにした。
僕はしつこくも監視役に話しかける事も始めた。監視役は僕が触れることを嫌っていたが、たまに短い返事や、いらない本をくれるようにはなった。
ルチェイもたまに本を持ってきてくれた。
そうやって、僕は彼女のおかげで辛抱強くがんばることができた。自分の時間が動き出す感覚を取り戻すことができた。
だけど半年程たった頃、彼女はパタリと来なくなった。
(つづく)




