【物語】竜の巫女 剣の皇子 39 竜の儀
新年を迎えルチェイは16歳になり、成人の義も無事に執り行われた。
長く寒い冬のアーサラードラにおいて、この話題は宮城に明るさを与えていた。
ルチェイは儀式の準備で日々を奥内裏で過ごすことが多かったため、久しぶりの自由時間は厩の方へ向かった。
そこには多くの馬が白い息を吐きつつ大人しくしていた。
ミカゲのそばにいたソロフスが、すぐにルチェイに気が付いた。
「ルー殿下。夕刻に、こんなところにおいでになるとは」彼は半分あきれつつも笑顔を見せた。
「今の時間ならここにいると思ったの。チョコロ村でもそうだったから」ルチェイも笑顔で話した。
ソロフスは姫巫女の長衣姿をみやりつつ「散歩しながら送るよ」と、提案した。
「今もたくさん勉強しているの。詰め込み式だから大変で」
長衣の裾をたくし上げ、ブーツで雪を踏みしめながら歩くルチェイ。ソロフスもそれに合わせて歩く。「ルーがやりたいようにやればいい」彼も横に並び、穏やかに答えた。
宮城内では、それがふたりのいちばん近い距離。雪を踏みしめる音が夕暮れに響く。
「女官から懐剣のお手入れをするからと言われたので、今日預けたの」ルチェイのことばに「へえ。そういえば、ちびは?元気?」ソロフスは返した。
「ちびは聖上のところに呼ばれているの。夕餉には戻る予定よ。だから私もこうやって自由時間ができて嬉しい」ルチェイは白い息を吐きつつ頬を染めて話した。
ソロフスも微笑み「そうだね。そういえば今日は小寒か」とりとめない話を続けた。
やがてふたりは奥内裏の門に着いた。迎えの女官がソロフスに礼を言い、ルチェイは奥へと消えていった。
ソロフスは少しの間、静かな眼差しで佇んでいたが、もとの道へ歩き出した。
気が付いたらルチェイはひとりで、冷たく暗い空間にいた。
イルサヤ宮城の竜殿だと気が付くと同時に、眼前に巨大な金眼の白竜がこちらを見下ろしていることに気が付いた。ハリュイの竜、エーテルだ。
『では、竜の儀を執り行う』
エーテルはルチェイを睨み、低く厳かな声を殿内に響かせた。
(つづく)




