【物語】竜の巫女 剣の皇子 37 おねがい
ルチェイはソロフスに「イルサヤ宮城に戻ろうと思う」と、静かに話した。
「トンゴさんのところで、いろんな事を質問して考えて来たの。『みんなのために働く』とはどういう事とか……」彼女はソロフスの右手を両手で握りしめ、彼を見つめていろいろ話した。
彼は軽く頷きつつ、静かにその話に耳を傾ける。
「ソロフスが前に『アイサイ村の事が好きだから、村から離れて仕事をしている』って話してくれたでしょ?それもずっと考えていたの。私にできる事って何かも。だから、昔から宮城で学んだ事やここでの体験、ソロフスから話してもらった事を活かして、自分の役割で行ってみたいの」
「だから宮城に帰って、竜の儀を受け、光皇女として生きることを決めた」ルチェイは言った。
「では、帰ろう」
ソロフスはゆっくり頷き微笑んだ。そして「なんで泣くの?」ルチェイに尋ねた。
彼女は涙をボロボロこぼし「一生懸命考えた」やっと言うと、俯いて黙り込んでしまった。
「きちんと話してごらん?」彼はルチェイの手を握り返しながら穏やかに言う。
ルチェイは「巫女でいられるか不安なの」泣き顔を見せた。ソロフスは彼女の目線まで顔を近づけ肩を抱き微笑む
「泣くな、姫巫女よ。あなたは私が会った時から巫女だ。これからもそのままで」
ルチェイの目から涙がこぼれる「うん……お別れだね。今まで、ありがとう」と固い笑みを作った。
「それは、嘘」
彼女の肩に触れるソロフスが言った。
「……だって、巫女は……みんなを等しく愛さねばならない……」ルチェイは小さな声で言った。「私はもう」と、言いかけた彼女に「それも、嘘」ソロフスがことばを重ねた。
「決めた」と言うルチェイにも「それも嘘」とソロフスはたたみかける。
「あなたが周りのために事を行いたい気持ちは本物。でも、こころを閉ざしたいことは、嘘」彼は姫巫女に言い切った。
「感知で私がそう思っているとわかる、ということ?」弱々しく聞くルチェイに
「違う。そうしなくてもわかる。それだけ」
「あなたの意志の強さは感じる。本当に意地っ張り。本当に強い御方だ」
ソロフスはルチェイの手を強く握りつつ意地悪く答えた。
「私のことを信じるなら本当の事を。私は受け止める」彼はルチェイの目を見て、黙した。
ルチェイは涙をこぼしながら「ソロフスのことが好き」「ずっと一緒にいたい」「みんなのために働きたい」「みんなのことが好き」「どれも大事」「生きたい」「ソロフスにもしあわせになって欲しい」「私と一緒は、ソロフスが大変」「私がしあわせになることが、ソロフスのためになるって言われた」「わたしのしあわせは……」「私が逃げるとちびが困る」「宮城が困る」「聖上が悲しむ」「みんな私を信じて」「でも、私は汚れた」「死ぬかも」「でも逃げたらだめだ」「怖い」「でも、ソロフスに会って生きるって決めた」「私の課題。ソロフスは違う」「ソロフスとお別れして、私は私でやる」「がんばるんだよう」
両手で顔を塞ぎ大泣きし出した。
ソロフスはそんな彼女を抱き寄せると「たどたどしいご希望が多いことだ」わざとため息をついた。
「巫女を好いてしまった私としては、大体のことは承知している。格下国、側室の子程度の実力ではご不安も多いようだが」彼はルチェイの顔を見つつ「どうにかやってみよう?」朗らかに言った。
ルチェイは涙目をまん丸くして、慌てて首を横にふった。
「あなたは穢れていない。会ったときからずっと、浄いまま。私はその点も気にしない。それでよければ私に、その身を預けなさい」
ソロフスは小首をかしげつつ彼女に言った。
姫巫女が固まってしまったので、彼は微笑みつつ
「一度に全部うまくやろうとしなくていい。まずは、あなたが竜の儀を無事に終えることを考えよう。そのために私はできることをする」
「あなたが光皇女としてアーサラードラに務め、私はロゴノダで務める。それぞれの仕事を行いつつたまに会う、でいいのでは?」と提案もした。
ルチェイは「……できるのかな、そんなこと」弱々しく言う。
「さあ?まあ、大丈夫。あなたの為に生きたとしても、最悪死ぬぐらいだ。問題はない」
ソロフスはあっけらかんと言った。ルチェイの「それではあなたが困る」と言うことばに「それも含めて、私が欲しいものがあなただ」彼は答えた。
「私が人生でたったひとつ望むわがまま。それをあなたから分けてもらいたい」
「こころの奥を許して、手をつなぎ合える相手。家族」「どんなに短い時間でも構わない」「お願い」
彼は真剣な顔でルチェイに請うた。
「私でいいの?」ルチェイはおずおずと聞いた。
「もちろん。頑固でがんばり屋な巫女のルチェイで構わない。もちろん私もしがない者だから、かなり苦労させるけど。ごめん」ソロフスも苦笑いしながら答えた。
「では、ちからを合わせて難題を越えよう」彼のことばにルチェイも「ありがとう」と笑顔を見せた。
ふたりは手を取り合い、口づけを交わした。
そしてソロフスは「ちびもおいで」と、戸口に声をかけた。
すぐに『ぞろぶず~!』と大泣きのちびが部屋に飛び込み、ふたりに抱きついた。ちびは『うれじいよ~!ボクも~!』大泣きする。
ソロフスは「うん。ちびも家族」優しく撫でた。
ちびは滝の様な涙を流し『ボクもソロフスを守る。ひとりやふたり増えたってへっちゃらだい!そうだ♪ミカゲも家族!』と、鼻先を馬小屋の方に向けた。そして『ミカゲにも言ったよ!ミカゲも嬉しいって♪』顔を輝かせて飛び跳ねた。
ソロフスとルチェイは顔を見合わせ「では、【よにんかぞく】で」と笑顔で同意した。
(つづく)




