【物語】竜の巫女 剣の皇子 33 かごめかごめ
ルチェイはソロフスになんとなく避けられて、とうとう夜を迎えた。
夕餉の後、ソロフスは部屋に引っ込んでしまった。
ルチェイとちびはその部屋の前に立つ。互いに顔を見合わせて頷き「『ソロフス!お邪魔しますっ!』」ふたりで勢いよく戸を開け部屋に突入した。
ソロフスは壁にもたれて本を開いており、ふたりの突入に目を丸くした。
「一緒に!おいしいお団子食べようよ!モヨさんと作ったのっ!」
ルチェイは笑顔と共に、お盆に乗せたお茶菓子と飲み物を彼に見せた。
ちびも『ソロの好きな栗きんとんもあるぞ!どうだ!すごいだろっ!』ニコニコしながら話した。
勢いのあるふたりに囲まれ、とまどいつつも「ごめん、いいよ。いらない」ソロフスは静かに答えた。
するとルチェイとちびは「『よくない!』」と、ソロフスの片手ずつをそれぞれの両手で、がっしりと握りしめた。彼は目を丸くしてふたりを見た。
「ソロフス!元気ないぞっ!」ルチェイは強く言い
『そうだっ!ボクらが!心配するじゃないかっ!』ちびも元気よく言った。
ソロフスは目を見開いたまま「あ……ごめん。くらくらする……」ふたりに言った。
「『わわわ?ごめん!大丈夫?』」ふたりは慌てて彼の背中をさすった。
「ごめん。大丈夫。強い感情が一気に流れ込んできて、びっくりしただけ」
彼も決まり悪そうに、苦笑いしながら答えた。
『ソロ。手で触れたものの感覚や感情がわかるのだな?』ちびの問いに、ソロフスは頷いた。ルチェイも「昔からなの?」と尋ねた。
「いや……もともと母が魔導師で、その影響かな。小さい頃は『妙に勘が良い』くらいだった。でも、剣技で魔導も使うようになったら『勘が良すぎる』ようになって」ソロフスは伏し目がちに話す。
「能力の『出力』を上げたら『入力』の度合いも同じになってしまったから」
彼は布袋に入れた剣を取り出し
「この剣はいろいろあって、師匠が私にくれた。常に『印』を結んでくれているから、感知を和らげてくれる」
「その代わりに……」
そこで彼は無言になった。
「ソロフスは、私に気を使いすぎいていると思うの。私がとても弱気になって、あなたに泣きついてしまったからだと思う。私もそこは反省したの、ごめんなさい」
ルチェイは彼に頭を下げた。
「だからソロフスは私に変に優しくしなくていい。私は光皇女になるために、曲がりなりにも修練を重ねてきた身。それなりに『受け止めること』も行ってきた。弱いかもしれないけれど、遠慮はしなくていい」
真剣な顔で訴えた。
ちびも『そうだ。ルチェイはアーサラードラをまとめる一国の主となる者だ。本来ならばロゴノダの第五皇子なんぞは、ちょちょいのちょい!である。ボクも体は小さいが、次代の『世界の秩序』となるべくして生まれた竜である。頭も良くて!強いんだぞ!』
『我らを軽んじないでもらおうか』
静かに睨みをきかせてソロフスを見つめた。そしてふたりは彼を抱きしめた。
『それよりも、なによりも、ソロフスのことが大好きだ』
「大好きだから、わかりあいたいの」
ちびは『ソロフス。ボクを殴った時、痛かったんだろ?君自身が殴る痛みと、ボクが殴られる時に感じた痛み、恐れと怒りと憎しみと、哀しみの感情が』目を細めて言った。
ルチェイも「私が辛いことを思い出して苦しい時、ずっと私に触れて支えていてくれたでしょ?とても辛い思いを見せてしまった……ごめんなさい。いつも手をつないでくれて、ありがとう。今度から気をつける」微笑みを見せた。
ソロフスはしばらく無言でいたが「……ありがとう。ごめん」ほんの少し、涙を流した。
『よしよし♪』ちびがソロフスの頭を撫でると、彼は泣きながら笑った。
ルチェイも「ソロフスはえらいえらい!」と褒め
「仲直りのあくしゅ、してもいい?」彼の目を見て言った。
ソロフスはゆっくりと両手を差し出し、ふたりもそれをやわらかく握り返した。
ルチェイもちびも手をつないで、みんなで座して輪になった。ルチェイに感知の能力はないが、なんだかソロフスと、ちびの手のあたたかさがいろいろ教えてくれた。
みんな目がうるうるして、でも変におかしいから最後には一斉に吹き出してしまった。
「そうだ!お茶にしようよ」ルチェイが提案し、みんなにお茶とお茶菓子を配った。
ちびはお団子と栗きんとんをひとくちで平らげ『うん、うまい。ソロも食え!』顔を輝かせて言った。
「ありがとう」ソロフスも温かいお茶を一口飲み「昔の話なんだけど……してもいいかな?」ふたりに尋ねた。ルチェイとちびは同時に頷いた。
「私は、本当に駄目人間で……」
ソロフスは穏やかに夜話を始めた。
(つづく)




