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【物語】竜の巫女 剣の皇子【第一部】  作者: ヤマトミチカ
みをつくし
32/41

【物語】竜の巫女 剣の皇子 32 療室話

挿絵(By みてみん)



 オゼの家には療室があり、ハルの所と同じく様々な道具や本が置いてある。

 記憶を戻したルチェイにオゼは治療を行っていた。


「よし、今日はこれでええよ」

 オゼはルチェイの体から鍼を抜きつつ穏やかに声をかけた。ちびも部屋の中にいて見守っている。

 その彼女は、床から起き上がり服を着ながら、しんみりした顔をしている。

「私の体はどうなんでしょうか?」

 ルチェイは療師に問う。

「ちびの真の名を見つける事はできました。でも、他の巫女のちからは全く戻りません。このまま宮城に戻ってもいいのか。巫女の役割ができるのか。昔のことも思い出すとまだ……辛い。ですが、きちんと向かい合おうと思えるようにはなれました」

 彼女は手に力を込めつつ、彼の顔を見つめた。

「わしはアレだから大まかな事情をふまえるに……ルーちゃんの魂魄は一度、ものすごく均衡を崩したんよ。回復には長い時間と、多くの助けが必要やった」

 オゼも彼女の表情を柔らかく見守りつつ話す。

「その時に宮城では様々な意見も出たと思う。しかし聖上はルーちゃんを信じ、幾数年かかろうとも戻すことを決意した。聖上自身もその時にとても力を使い、ちびもルーちゃんに力を分けて一緒に眠った」

「その点だけ観ても、ルーちゃんは必要とされておるよ。大丈夫。自信を持つんや」

 あたたかい笑みルチェイに向けた。

 ちびも『ボクがルチェイに体を分けたのは、ルチェイが好きだから。それだけだ。その気持ちは今も同じ』言いながら横に寄り添った。ルチェイはその白い身体を優しく撫でた。

「体の調子自体はええんよ。女の子として十分に元気そのもの。今の自分を大事にすればええ」

 ルチェイが浮かない顔のままなので、オゼは「ソロくんのことが気になるか?」と聞いた。彼女はそれに頷いた。

「ルーちゃんには、ソロくんがどう見える?」

「しっかり者で、なんでもできて、優しい」

 オゼは「それは必ずしもそうとは限らん」彼女に穏やかに返した。

「ソロくんはアーサラードラの者と違い、お前さんの肩書きや能力などは全く問題視しておらん。あの子は『ルーちゃん』がいちばん大事。しかも、いちばんだけが大事。そう決めてしまっておる。だからこの前みたいな事もしてしまう」

 オゼの話にルチェイは耳を傾ける。

「ルーちゃんはそれで、ええか?」

 彼女はしばらく考えて「ちょっと違うように感じます。うまく言えませんが」眉をひそめながら答えた。

「ルーちゃんはまず、自分自身をいちばん大事にすること。自分自身がしあわせであることを決める。それがあの子を結果的に助けることになる」

 そのことばに、ルチェイは静かに頷いた。

「うむ。ではどうすればええかの?」

「ソロフスと会ってまだ2ヶ月……私はずっと眠っていて、ソロフスのことをよくわかっていないのかも」彼女はつぶやいた。

 横にいるちびは『ボクはソロフスを理解したい。ボクは竜で全知だが、感知も共感も今は未熟だ』腕組みをして唸る。

「私もわかりあいたい。でも予見や感知ができない」ルチェイは俯く。

 オゼは少し笑いつつ「ルーちゃん。今やっていることをやればええんよ」と噛み砕いて教えた。

 ルチェイはちびと顔を見合わせ

「おはなしすればいいんだ」同時に声をあげた。


 その日の午後。

 ルチェイとちびはトンゴの私塾から戻り、ソロフスに声をかけた。


『ソロフスとおはなししたい』ちびのことばに彼は笑顔で応じた。

『ずっと気になっていた。ソロフスはなぜ、いつも剣を携えているの?』

 ソロフスはちょっと間を置き「友達だから」と答えた。

『どうして友達なのさ?』と聞くちびに「さあ」ソロフスは伏し目がちに言う。

『ソロフス。どうして今、鍵をかけた?』

 首をかしげつつ聞くちびに

「いつものことだろ?」彼は表情を変えずに返した。

 ルチェイがソロフスに「何か、言いたくないの……?」恐る恐る尋ねた。

 彼はほんのちょっと目をそらしていたが

「……知ったら嫌われるから」その黒い瞳をルチェイに向けた。

 彼女は次のことばを見失った。

 ちびは頷いて『そうだ。だから一緒に過ごしたいと、この前言ったんだ。でも、君は』

「黙れ」ソロフスがちびのことばを制した。

 しかし、ちびは話を続ける。

『ボクはソロフスが好きだ。わかるんだよ。君の中心はあたたかいと』

 ソロフスはわずかに目を見開き、ちびに顔を向けた。

 ちびは彼に歩み寄り『ソロ。ボクはソロが大好き。わかるだろ?』

 彼の手や体に頭をこすりつけ、顔を見上げた。

 ソロフスも無言になり、ちびの空色に輝く瞳と見つめあった。


 しばらくして

「ごめん。ひとりになりたい」

 彼はちびから体を離し、ふたりの元から歩き去った。

 ふたりの様子を見守っていたルチェイはちびに「もしかして、ソロフスは……?」と聞いた。


『うん。ソロは、わかってしまうらしい』

 ちびは空色の眼を細めた。





(つづく)


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