【物語】竜の巫女 剣の皇子 32 療室話
オゼの家には療室があり、ハルの所と同じく様々な道具や本が置いてある。
記憶を戻したルチェイにオゼは治療を行っていた。
「よし、今日はこれでええよ」
オゼはルチェイの体から鍼を抜きつつ穏やかに声をかけた。ちびも部屋の中にいて見守っている。
その彼女は、床から起き上がり服を着ながら、しんみりした顔をしている。
「私の体はどうなんでしょうか?」
ルチェイは療師に問う。
「ちびの真の名を見つける事はできました。でも、他の巫女のちからは全く戻りません。このまま宮城に戻ってもいいのか。巫女の役割ができるのか。昔のことも思い出すとまだ……辛い。ですが、きちんと向かい合おうと思えるようにはなれました」
彼女は手に力を込めつつ、彼の顔を見つめた。
「わしはアレだから大まかな事情をふまえるに……ルーちゃんの魂魄は一度、ものすごく均衡を崩したんよ。回復には長い時間と、多くの助けが必要やった」
オゼも彼女の表情を柔らかく見守りつつ話す。
「その時に宮城では様々な意見も出たと思う。しかし聖上はルーちゃんを信じ、幾数年かかろうとも戻すことを決意した。聖上自身もその時にとても力を使い、ちびもルーちゃんに力を分けて一緒に眠った」
「その点だけ観ても、ルーちゃんは必要とされておるよ。大丈夫。自信を持つんや」
あたたかい笑みルチェイに向けた。
ちびも『ボクがルチェイに体を分けたのは、ルチェイが好きだから。それだけだ。その気持ちは今も同じ』言いながら横に寄り添った。ルチェイはその白い身体を優しく撫でた。
「体の調子自体はええんよ。女の子として十分に元気そのもの。今の自分を大事にすればええ」
ルチェイが浮かない顔のままなので、オゼは「ソロくんのことが気になるか?」と聞いた。彼女はそれに頷いた。
「ルーちゃんには、ソロくんがどう見える?」
「しっかり者で、なんでもできて、優しい」
オゼは「それは必ずしもそうとは限らん」彼女に穏やかに返した。
「ソロくんはアーサラードラの者と違い、お前さんの肩書きや能力などは全く問題視しておらん。あの子は『ルーちゃん』がいちばん大事。しかも、いちばんだけが大事。そう決めてしまっておる。だからこの前みたいな事もしてしまう」
オゼの話にルチェイは耳を傾ける。
「ルーちゃんはそれで、ええか?」
彼女はしばらく考えて「ちょっと違うように感じます。うまく言えませんが」眉をひそめながら答えた。
「ルーちゃんはまず、自分自身をいちばん大事にすること。自分自身がしあわせであることを決める。それがあの子を結果的に助けることになる」
そのことばに、ルチェイは静かに頷いた。
「うむ。ではどうすればええかの?」
「ソロフスと会ってまだ2ヶ月……私はずっと眠っていて、ソロフスのことをよくわかっていないのかも」彼女はつぶやいた。
横にいるちびは『ボクはソロフスを理解したい。ボクは竜で全知だが、感知も共感も今は未熟だ』腕組みをして唸る。
「私もわかりあいたい。でも予見や感知ができない」ルチェイは俯く。
オゼは少し笑いつつ「ルーちゃん。今やっていることをやればええんよ」と噛み砕いて教えた。
ルチェイはちびと顔を見合わせ
「おはなしすればいいんだ」同時に声をあげた。
その日の午後。
ルチェイとちびはトンゴの私塾から戻り、ソロフスに声をかけた。
『ソロフスとおはなししたい』ちびのことばに彼は笑顔で応じた。
『ずっと気になっていた。ソロフスはなぜ、いつも剣を携えているの?』
ソロフスはちょっと間を置き「友達だから」と答えた。
『どうして友達なのさ?』と聞くちびに「さあ」ソロフスは伏し目がちに言う。
『ソロフス。どうして今、鍵をかけた?』
首をかしげつつ聞くちびに
「いつものことだろ?」彼は表情を変えずに返した。
ルチェイがソロフスに「何か、言いたくないの……?」恐る恐る尋ねた。
彼はほんのちょっと目をそらしていたが
「……知ったら嫌われるから」その黒い瞳をルチェイに向けた。
彼女は次のことばを見失った。
ちびは頷いて『そうだ。だから一緒に過ごしたいと、この前言ったんだ。でも、君は』
「黙れ」ソロフスがちびのことばを制した。
しかし、ちびは話を続ける。
『ボクはソロフスが好きだ。わかるんだよ。君の中心はあたたかいと』
ソロフスはわずかに目を見開き、ちびに顔を向けた。
ちびは彼に歩み寄り『ソロ。ボクはソロが大好き。わかるだろ?』
彼の手や体に頭をこすりつけ、顔を見上げた。
ソロフスも無言になり、ちびの空色に輝く瞳と見つめあった。
しばらくして
「ごめん。ひとりになりたい」
彼はちびから体を離し、ふたりの元から歩き去った。
ふたりの様子を見守っていたルチェイはちびに「もしかして、ソロフスは……?」と聞いた。
『うん。ソロは、わかってしまうらしい』
ちびは空色の眼を細めた。
(つづく)




