【物語】竜の巫女 剣の皇子 27 真の名
ソロフスは左腕をちび竜に喰らいつかれ、僅かに顔を歪めながらも、すぐさま右の拳でちびを殴り飛ばした。
鈍い音と共に、ちびは離れた地面に叩きつけられる。
すぐさま起き上がった白竜の口には、赤い血がべっとり付いていた。
剣士は左腕から流血しつつも息を整え、紫眼を燃やし、再び剣を構える。
額から汗が流れ落ちる。
『やはり竜は速い。参之円を作りなおすか』
ソロフスは剣を構え円陣結界詞の詠唱に力を込める。
ちびの周りの地面に赤い円陣線が浮かぶ、ちびは甲高い咆哮を上げる。
その恐怖と痛みの感覚を受け、ルチェイは一瞬朦朧とした。
怖がってる。
私がしっかりしなくちゃ。
ルチェイは全身の力を込めて立ち上がった。
がんばらなきゃ。
ちびを守らなきゃ。
深呼吸をすると、大きな声で言った。
「ちび!おさまりなさい!」
ちびがルチェイを見た。
その目は赤い。
「ちび!私が守る!大丈夫だから!怖がらなくていいのよ!」
そう言うと、彼女はちびのそばに駆け寄り、抱こうとした。
結界の中に腕を入れた瞬間、熱と激痛に見舞われた。
苦痛に怯みそうになるが、ちびの目が一瞬空色を帯びた様に思えた。
元に戻せる!
ルチェイは巫女としての感覚を探りつつ、負けないように祓詞を詠唱した。
だめだ、できない。
でも、ちびは守る!
気が遠くなりそうになる激痛の中、ちびを抱きしめ
「ごめんね」「アステイラ」
涙を零して呟いた。
その瞬間、
ちびが白金色の光を放ち、一瞬で全ての結界円陣を打ち消した。
あまりの強い光に思わず目を閉じた姫巫女が、再び目を開けると
目の前には、新雪の様に美しく輝く白竜が微笑んでいた。その瞳は澄み渡る青空の様だ。
「ちび…もどったのね…!よかった…!」
ルチェイは涙と共に、半身を抱きしめた。
後ろで鈍い音がし、振り向くとソロフスが地面に片膝を付いていた。
剣を地に突き立て身体を支えている。 しかし、剣士は大きくひとつ息を吐くと、力強く立ち上がった。剣は右手に持つが降ろし、荒い呼吸で表情は固いままだ。
ソロフスの黒い瞳は、ふたりを見つめている。
ちびが彼に、ゆっくりと歩み寄る。
その間にミカゲが駆け込み、ちび竜に向き合った。
ちびと黒馬は、しばらく静かに見つめ合った。
やがてちびは、空色の瞳を煌めかせ
『ルチェイ、ボクに名前をくれてありがとう』
そして
『ソロフスも、ありがとう』
響く声で言った。
(つづく)




