【物語】竜の巫女 剣の皇子 25 禁足地
チョコロ村の朝霧が晴れる頃、ソロフスはルチェイを黒馬のミカゲに乗せて、自分もその後ろに乗った。
オゼとモヨもその場に来て、ルチェイが羽織る毛布をソロフスに手渡した。
「ソロくん、帰ってくるんよ。待ってるけんね」オゼは彼に言う。
青年も老人に頷き、ミカゲを山の方に向かわせた。
ルチェイは朦朧としながらも、後ろから包まれる温かさを感じていた。
しばらくして、馬の脚が止まった。
抱きかかえられたルチェイが地面に降ろされた事がわかり目を開けると
そこは黒い谷の中央部で、近くにちび竜が伏せていた。
ちびを中心に赤く光る円陣線が地面を這い、それが谷中に視界の果てを越えて広がっている。
『結界円陣!』
「ちび!」ルチェイが呼ぶと、ちび竜は顔を挙げて小さく鳴いた。
赤糸の如き光線がちびの全身を縛り付けている。
「ソロフス。ちびを」
「だめだ」ソロフスはルチェイをことばを遮って、ちびの方に向き直った。
白竜も鳴きながら、彼を見る。
「ルチェイ、すまない。時間があまりない。私の力不足でもある」
彼は、腰に帯びた剣を握りしめる。「どうするか決めて欲しい。巫女でなければ竜を完全には制御できない。あなたに『生きる』と決めて欲しい。それだけでいい」
少女はソロフスを見上げた。
彼は静かに彼女を見つめ返し「こころからそうだと、決めてほしい」強く伝えた。
長い時間、沈黙が続き
陽が空の中央に昇り切った。
ソロフスは姫巫女に、再び問うた。
「……楽になりたい……」
ルチェイはそれだけ答えた。
少し間を置いて
「わかった」彼は呟いた。
顔をあげたルチェイは、とても冷たい目のソロフスに居すくんだ。
「あなたの望みは、それか?」「巫女を辞めたいのか?」彼は低い声で彼女に尋ねた。
ルチェイは何も言えなかった。
ソロフスは軽くひと息吐くと
「あなたが決めないなら、私が決める」
「竜は殺す」
ちびの方に向き直った。
白竜の空色の眼に、燃え上がる赤い光が宿った。
ルチェイの後ろにいたミカゲがソロフスに近づこうとした。が主はそれを禁じた。
刹那。
ちび竜がソロフスに炎弾を吐いた。
彼は剣を瞬時に抜くと、それを弾く。炎弾は遙か先に落ち轟音を響かせ、粉塵と共に黒煙を上げた。
ソロフスは自分の両手を見た。保つか。
『受けねば』
彼は陽の光を受けて瑞々しくきらめく、黒曜石色の刃に気を込めた。
(つづく)




