【物語】竜の巫女 剣の皇子 21 黒い谷
ソロフスとルチェイがチョコロ村に滞在して4日目。
ふたりはオゼとリーベサラ山の中腹まで登り、薬草を採っていた。
久しぶりに戻ったミカゲも一緒だ。
オゼは薬草に詳しいのでいろいろ説明しながら歩いた。
「ほら、その枯れた草の根を掘り出してくんろ。それは胃薬になる」
オゼがいろいろ指示してくれるので、ふたりはそれらを採り集めていった。
ちび竜はソロフスにおんぶして、集めた薬草を眺めたり、首をかしげながらそれらの臭いを嗅いだりしている。
昼頃になり、みんなでモヨの作ったお弁当を食べて休憩した。
「さて、ではちょっと違う道を帰ろうかの」
オゼはソロフスを見て言った。
ソロフスも「はい。ルチェイ……行こうか」彼女に声をかけて歩き出す。
ルチェイも汗をぬぐいつつ、ちび竜を抱いて着いていく。
薄暗く冷たい木々の中から急に視界が開けた。
みんなの見る先には大きな谷があった。
その広さはひとつの町ほどもあり、森の中でそこだけ浮き出ているように地盤が黒い。
「これは……?」
尋ねるルチェイに、オゼは「……これはな、山だった部分が炎で吹き飛んだんじゃよ」静かに話した。
ルチェイはそれを聴いて、目を丸くして眺めていたが
思い出しそうになった。
ちびを抱いていた腕にさらに力を込めた。
「ルチェイ」
彼女の横に立つソロフスが声をかけるので顔を見上げると、彼の静かな眼差しがあった。
彼は再び谷の方に顔を向け「見るんだ」とだけ言った。
ルチェイは改めて谷を見て……目を閉じてしまった。
「ごめんなさい……ちょっと……なんだか苦しくて……」やっと言った。
ソロフスはルチェイの冷たい手を握った。
オゼは話を続ける
「あの谷は、あれ以来……未だに草木ひとつ生えん。わしも調査で来た時は驚いた。これほどの力があるとわかった時、やはり竜」
「やめてください!」思わず叫んだルチェイはうずくまろうとした。
しかし、ソロフスがそれを許さなかった。
「ルチェイ。支えるから、立つんだ」
彼が静かに言うので、ルチェイはよろめきながらも立ち上がった。
オゼは「……ソロくん。今日はもうこれでええ。ええよ……。あのなルーちゃん。幸いここには村もなかった。何もなかった……。大丈夫やったんや。それだけが本当に、よかったんよ」静かに言った。
ルチェイはミカゲに乗せられて家に帰り、そのまま寝込んだ。
(つづく)




