↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/41

【物語】竜の巫女 剣の皇子 20 ひとつずつ

挿絵(By みてみん)



 暗い空間の中、目の前に大きな沼が見える。

 水面のどす黒い深緑色はドロリとして、ぽつぽつと白い塊がいくつか点在して浮いている。

 魚の死体のようなブヨブヨとした6つの塊。

『もとにはもどらないの?』

『いいえ、ゆっくりもどる……』

 厳かな声が後ろから響いてくる。


『ごめんね……』


 瞬間、目が覚めた。

 左手を見ると、しっかり鞘を掴んでいた。

 ひさしぶりに、見た。



「おはようございます」

 馬小屋に来たオゼに、ソロフスは挨拶をした。


 チョコロ村滞在3日目の朝のこと。

 夜明け前ではあるが、ソロフスは茶馬のモココとオゼの農耕馬の世話をしていた。

「ゴンも喜んでるよ、ありがとな」

 オゼは目を細めて自分の馬を撫でつつ、ソロフスに礼を言った。

「お前さん、優しいが女の子を泣かせちゃいかんぞ」オゼは彼に言い、ソロフスは当惑しつつも謝った。

 オゼはカラカラ笑いながら

「冗談じゃよ、冗談。お前さん、今夜はわしと飲まんかね?わしが婦女子の口説き方を講義しちゃるぞよ。これでもわし、昔はアレじゃったんやぞ~」

 冗談めかして言った。


 朝餉の時。

「明日は天気がええから山に入っていくつ植物を採ろうと思う。今日は薪切り一緒にやって欲しいのう、ええかの?」

 オゼからの提案に、彼は快諾した。


 モヨはルチェイに「ルーちゃんはわたしのお手伝いをお願いしてもええかしら?」笑顔を向ける。

「はい」と彼女は小さな声で答えた。ちび竜はルチェイにくっついて静かにしている。


「今日はね、おまんじゅうを作ろうと思って」

 モヨは小豆餡の入った鍋を見せてくれた。ルチェイと白竜は物珍しそうに眺める。

 続けてモヨはいくつか材料や道具を揃え「さあ始めましょう」と作り方をふたりに教えていった。

 ルチェイは初めてのことなので、たどたどしくも一生懸命やってみる。

それを見てモヨは

「ルーちゃん。ちょっと餡を味見してみいね」

 さじですくった餡をルチェイとちび竜の口に入れた。

『甘い~♪おいしい~♪』ちび竜が喜び、ルチェイも顔がほころんだ。


「ね、おいしいものは笑顔になるんよ。おまんじゅうね、ソロくんが好きってよ」モヨは弾むように話す。

「そうなんだ……」

「ルーちゃん。ごはんはちゃんと食べんといかん。わたしらもやけどソロくんが心配するんよ」

 ルチェイはモヨのことばに、しゅんとなった。

「あなたががんばってるんは、みんなわかる。でも、それで倒れたらいかん。ごはんは元気や命になる。大事にせないかん」

「それにな」モヨは餡を生地でくるみながら「ごはんはな、元気なひとが作ったもんもええんけど、こころを込めてつくったもんもええんよ」

 ルチェイはモヨの顔を見た。

「ルーちゃんは、誰のためにおいしいものを作りたい?そのためにはな、自分が元気でおらんとな。体力とか強いやないんよ、元気って、笑顔のことよ。わたしはそう思うんよ」

 白髪頭のモヨは話しながら、生地を手際よく、くるくると包み、蒸し器に並べる。

 ルチェイはちょっと俯いて、袖で目をこする。

「ルーちゃん、泣いたら餡が塩味や。女は笑顔と、度胸や!」モヨはルチェイの背中をバンと叩いた。

 顔を上げたルチェイは「はい、ありがとうございます」と、先ほどよりは力のある声を出し、作業を続けた。

「そうそう。できることからビシバシ教えるけんね。これは破れまんじゅうになってもええ。でも丁寧に包むようにな。ひとつずつ、うまくなればええ」

 皺の多い顔をくしゃっとさせてモヨは笑った。

 ちび竜も『ルチェイがんば!おいいしいがんば♪』とまわりを飛び跳ねて応援した。

 少女はやっと、スッキリした笑顔になった。


 その日のおやつでは、みんなでおまんじゅうを笑顔で食べた。


 その夜はオゼとソロフスは村の寄り合い所に出かけていったので、ルチェイはモヨとちび竜とで過ごした。

「ハルはルーちゃんよりもおっちょこちょいでね……」モヨは娘の思い出話をし、ルチェイの話も聴いてくれた。


 やがて、オゼを介抱しながらソロフスが帰ってきた。

「あれまあ、お父さんよ。酔っ払ってまあ~!ソロくんごめんね~。これお父さん!」

 モヨは丹那の白髪頭をペシペシと叩く。

「いえ、すみません。なんだかお父さんが上機嫌で……」

 ほぼ素面(しらふ)のソロフスが苦笑してモヨに詫びた。

 モヨは「あとはふたりはゆっくりでね。おやすみ。もうお父さんは……」オゼを連れて自室へ行った。


 ルチェイはソロフスに「あのね、昨日はごめんなさい。ありがとう。私ね、自分ができることを見つけようと思うの」ゆっくりと話した。

「うん。それはいいね」ソロフスはちょっと目を丸くし、笑顔を見せた。

「今できることを考えたの。お掃除とか、炊事とかをモヨさんに習うとか……モココの世話とか……」ルチェイが指折りしながら話すので

「いっぺんにじゃなくて、ひとつずつでいいんじゃない?今日も少なくともひとつはやったんだし」とおやつのお礼を言った。

「ソロフス、おまんじゅう食べて元気になった?」ルチェイのことばに、彼も柔らかい笑顔で頷いた。


 ルチェイが本当に明るく笑うものだから、ソロフスも彼女の顔を覗き込み、軽く口づけをした。

「ごめん。好きだ」

 頬を染めて涙目の彼女に彼は静かに言った。

「わ……私も……」たどたどしく言うルチェイにソロフスが微笑みつつ「なんだろう?」と意地悪く聞き返した。

 そこへ『すきなんだもん!』と、ちびがふたりの間に割り込んだので、ルチェイはさらに真っ赤になった。ソロフスは笑って白竜を撫でた。

 明日からはルチェイも馬の世話をすることに決め、それぞれ早めに寝た。


 その夜はみんながゆっくり眠ることができた。



(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。