【物語】竜の巫女 剣の皇子 14 雨粒
「姫はどんな本を読まれているのですか?」ソロフスはルチェイに尋ねた。
彼女は「今は薬草の勉強中で、今日はその調べ物です」分厚い辞典を彼に見せた。
ソロフスはそのページを愉しげにめくる。
「これ以外にも多くの勉強を?すごいですね」
彼女は顔をほころばせ「ありがとうございます。巫女として国と民を守るべくがんばっています。でも……」
「でも?」
ソロフスが聞き返した。
ルチェイは少し顔を曇らせ、無言になった。
彼も黙して、ゆっくり本のページをめくる。
「おたずねしてもいいでしょうか?」彼女はソロフスに言ってきた。
彼は「可能な範囲でなら」と応じる。
ルチェイは神妙な顔で
「あなたは国皇位や公務についてどう思われているのでしょうか」
彼の顔を見た。
ソロフスは、しばらく頬杖をつき静かになった。
「い、いいんです!ごめんなさい。変な質問をしたかもしれません」
ルチェイは慌てて彼に言った。
彼は軽く座り直し「年長者の意見として参考にしてくだされば」と彼女の顔を見返した。
「は、はい」ルチェイも姿勢を正す。
「考えと、思いは別として。あなたはご自身が今の状況にふさわしいと思われていますか?」
ソロフスに返答をしようとした彼女は、ことばに詰まった。
彼はその様子を見つつ「思いを出すことは難しい?」と穏やかに聞いていた。
しばらくふたりは静かに見つめあっていた。が、ルチェイは頷いた。
「他人に言うのは憚られる事ではあるが、私が聞いてくれそうだと」
彼女はソロフスのことばに頷いた。
「言うと、くじけそう?」
彼は、ルチェイだけに聞こえるように尋ねた。ソロフスから、あまりに柔らかく見つめられたので彼女は小さく頷いた。
ソロフスは傍らからノートとペンを取り殴り書きし、その部分をルチェイに見せた。
そこには
『黙って読む
人がいるから言わなくてよい ごめん』
と短くメモが書いてあった。
ルチェイの目から涙がちょっとこぼれた。
ソロフスは彼女の身体を倒して膝枕をし、その上にソファの大きなクッションをたっぷり掛けた。
彼はいつもの調子の声に戻り
「姫は強くて賢い方。そのままでどうか健やかに。私もしばらくあなたに教えつつ、互いに学ぶ事ができればと思います」
話しながら、クッションの上から軽く叩いてルチェイを励ました。
彼女は静かに泣いてた。
「今度晴れたら、この国の薬草について教えてくださればと。剣術の練習を兼ねて野外活動に行きましょう」
ソロフスは朗らかに言った。
「ありがとう」彼女は小声で言うと、しばらく声を殺して涙を流した。
ソロフスは兄弟子ミットマとのやりとりを思い出しつつ、ルチェイの涙目がもとに戻るまで辛抱強く待つことにした。
井戸掘りよりも根気のいる作業に彼は苦笑いしつつ、窓を軽く叩き続ける雨粒の音にも耳を澄ませた。
おかげで彼は愛馬ミカゼの世話の時間に遅れ、ミカゼから怒られてしまうのであった。
(つづく)




