【物語】竜の巫女 剣の皇子 13 雨の日
とある晩秋。今日はずっと雨が降っている。
アーサラードラの城内にて、ルチェイは調べ物をするために図書室へ赴いた。ちび竜は部屋でお昼寝をしているので、今はひとりだ。
図書室ではゆっくりと過ごすことができ、担当の女官が常に控えている。
本が好きなルチェイのお気に入り場所のひとつである。
彼女は、ソロフスが窓際のソファに身を預けて何かを読んでいることに気がついた。
「姫、お勉強でしょうか?熱心ですね」彼もルチェイの方を向き、静かに挨拶をしてきた。
ソロフスが立ち上がろうとしたのを察し、ルチェイは「殿下、お構いなく。そのままゆっくりされてください」と声をかけた。
「殿下?ですか?」彼がわざと不思議そうな顔をしてルチェイに尋ねるので
「あなたはロゴノダ皇国皇子殿下と女官から聞きました。聖上はなぜか教えてくださらなかったので……失礼しました……」
彼女も、もじもじしながら謝ってきた。
ソロフスは微笑んで「姫。あなた様はこの国のお方ですので私は姫とお呼びさせていただきますが、私の事はソロフスとか、あの野郎、とかで構いませんよ」意地悪っぽく答えた。
ルチェイはググッとこらえた。彼はそれを見てこらえきれずに笑った。
「私はこれでもかなり砕けてお話させていただいています。ありがとうございます。私は休暇中でこちらにお邪魔して、その合間に姫にいろいろとお教えしているに過ぎません。ですからあなたも、私に気兼ねなくお接しください」
彼はやわらかくルチェイに説明した。
それを聞いて、ルチェイの顔は一気に明るくなった。
「ソロフス、ちょっとお話してもいいでしょうか?」と彼に尋ねてきた。
彼女の好奇心満々な表情にソロフスは苦笑いした。闇のロゴノダ宮城内ではありえない展開だ。
「どうぞ。長くなければ」彼は釘を刺して、隣に招いた。
「何を読んでいるのですか?」
ルチェイはソロフスの手元を覗き込んだ。それは植物の絵本だった。
彼女は彼に「こういう本が好きなのですか?」と尋ねた。
「ええ、植物や動物……自然が好きで、子供の頃に読んだ本と同じなので懐かしくて」ソロフスは穏やかに話した。
ルチェイは、彼に初めて会った時の意地悪な雰囲気があまりない様に感じた。
(雰囲気が柔らかいのは絵本のせいなのかしら?)とも感じた。
ルチェイは立て続けに質問してみた。
「歳はおいくつですか?」
「25です」
「ロゴノダはどんな国ですか?」
「まあ、大きいですね。いろんな産業が盛んで賑わっています」
「ロゴノダは好きですか?」
「好きなところもあります。自然はアーサラードラの方が好きですが」
「ご兄弟はいるのですか?」
「賢い一番目、頭の固い二番目、短気な三番目、内気な四番目、そして最後が私です。五人います」
「いつもは何をされているのですか?」
「治水や土地整備の指示監督、と言えば聞こえはいいのですが。要は地方を飛び回る下働きです」
「兄弟で仲良しはいますか?」
「いません」
「どうして手が傷だらけなんですか?」
「男だからです」
「どうして今は眼鏡をかけているのですか?」
「ゆっくりしたい時の合図です」
「どうしていつも剣を持っているのですか?」
「友達だからです」
「お父様……国皇陛下の事をどう思われていますか?」
「くそじじいだと思っています」
「好きなお方はおられますか?」
「います」
「そのお方はどなたですか?」
「言いません」
「子供の頃はどんな子でしたか?」
「バカでした」
「どうしていろいろ答えてくれるのですか?」
「省略します」
「聖上とはいつお知り合いになったのですか?」
「10年前です」
「あなたはどれくらい強いのですか?」
「弱いです」
「どれくらい剣を修行されているのですか?」
「今も修行中です」
「ご友人はいますか?」
「ひとりです」
「ケンカしますか?」
「はい」
「仲直りしますか?」
「さあ」
ひたすらに続く一問一答にソロフスは苦笑いだが、ルチェイは彼の開けっぴろげで端的な返答に驚いていた。
(つづく)




