第八話 新入生は学園の案内だけで〇〇
「それじゃあ、お姉ちゃん」
教室を出るなり、月依がにこりと笑った。
「約束どおり、案内するね」
「ありがとう」
廊下を歩き始める。
さすが放課後だけあって、校舎はまだ多くの生徒で賑わっていた。
「月依先輩、お疲れ様です」
「お疲れ様」
「今日の授業もすごかったです!」
「ありがとう」
月依は誰に声を掛けられても、穏やかに笑顔を返している。
「人気者なんだね」
私が小声で言うと、月依は少し照れくさそうに笑った。
「みんなが優しいだけだよ」
「いや、それは違うと思う」
半年でここまで慕われるなんて、普通じゃない。
「まずは図書館」
案内された建物は、私の想像を遥かに超えていた。
「広っ!」
天井まで届く本棚。
何階あるのか分からない吹き抜け。
奥には電子書籍の閲覧スペースまである。
「ここ、全部図書館?」
「うん」
「何冊くらいあるの?」
「数えた人がいないって聞いた」
「そういうレベルなんだ」
私は思わず苦笑する。
「日本の本もあるよ」
「えっ?」
月依が一冊の本を取り出す。
見覚えのあるライトノベルだった。
「なんで?」
「日本文化を学ぶ授業もあるから」
「へぇ……」
神様もラノベ読むんだ。
なんだか少し親近感が湧いた。
図書館を出ると、中庭へ向かう。
そこでは何人もの生徒がデバイスを使って実習していた。
火を出す生徒。
水を操る生徒。
風で木の葉を舞わせる生徒。
どれも今日の私よりずっと上手だった。
「すごいなぁ……」
「みんな慣れてるから」
月依が言う。
「お姉ちゃんもすぐ上手になるよ」
「だといいけど」
私は苦笑いするしかない。
そのときだった。
「あ」
月依が立ち止まる。
前から一人の少女が歩いてきた。
緑色の髪を横で結んだ、小柄な女の子。
どこか気品のある和服姿だった。
「あら、月依さん」
「サクヤちゃん」
月依が柔らかく笑う。
「今帰り?」
「ええ」
少女の視線が私へ向く。
「こちらの方は?」
「あ、お姉ちゃん」
「初めまして」
私は軽く頭を下げた。
「霧島陽花です」
「初めまして」
少女も上品に一礼する。
「サクヤ=アサマです」
とても綺麗なお辞儀だった。
「妹がいつもお世話になっています」
「いえ」
サクヤさんは小さく微笑む。
「お世話になっているのは、わたくしの方です」
「え?」
「月依さんは、とても頼りになる親友ですもの」
月依が少し照れたように頬を掻く。
「そんなことないよ」
「あります」
きっぱりと言い切る。
なるほど。
この子、真面目なタイプなんだ。
「では、失礼します」
サクヤさんはもう一度丁寧に一礼すると、そのまま歩いていった。
私はその背中を見送りながら月依に尋ねる。
「親友なんだ」
「うん」
「すごくお嬢様って感じだったね」
「本物のお嬢様だから」
「本物なんだ」
「家に遊びに行くとね」
月依が少し苦笑する。
「玄関より広い玄関ホールがあるよ」
「玄関より広い玄関って何?」
思わずツッコんでしまう。
月依がくすりと笑った、そのときだった。
「月依先輩!」
遠くからまた誰かが手を振ってくる。
「また呼ばれてる」
「今日はたまたまだよ」
「絶対たまたまじゃない」
私は肩をすくめる。
学園へ来てまだ一日。
それでも一つだけ、はっきり分かったことがある。
妹は。
私が思っていた以上に――
この学園で愛されていた。
それは姉として誇らしくもあり、ほんの少しだけ寂しくもあった。




