第六話 新入生の初めての実技は〇〇
「それでは、本日の授業を始めます」
教壇に立つ先生が教室を見渡した。
名前はキクリ=ハクサン。
黄色い長い髪を後ろでまとめた、穏やかな雰囲気の先生だ。
「今日はカムイの基礎実技です」
教室の前方には透明な壁で囲まれた実習ブースが設けられている。
中央の耐熱台には一本のロウソク。
ブースの後ろには黒板があった。
……なんというか。
見た目だけなら、ゲームのチュートリアル用ステージみたいだった。
最初に簡単な魔法を覚えるための練習場所。
そんな雰囲気がある。
もちろん、ここはゲームの中ではない。
私は新人社員として、仕事に必要なことを覚えている途中だ。
そう考え直す。
「皆さんのデバイスには安全装置がかかっています」
先生が自分のデバイスを見せる。
「出力は0.1%に制限されていますので、初心者でも安心です」
0.1%。
だから新人研修なんだ。
安全な設定で、基本操作を覚える。
会社の研修と考えれば分かりやすい。
「一人ずつ前へ出て、ロウソクに火を灯してください」
最初の生徒がブースへ入る。
「火」
ぽっ。
小さな炎が灯った。
「はい、合格です」
次の生徒。
ぽっ。
また次。
ぽっ。
みんな迷うことなく成功していく。
「では、霧島さん」
「は、はい!」
心臓がどきどきする。
実習ブースへ入ると、透明な壁が静かに閉じた。
「緊張しなくて大丈夫ですよ」
キクリ先生が優しく微笑む。
「炎を思い浮かべてください」
「はい」
ロウソクくらいの火。
小さくて、優しい火。
「では、どうぞ」
私はデバイスに指を添えた。
その瞬間。
ゴォォォォォッ!!
「きゃあっ!」
ロウソクから巨大な火柱が噴き上がった。
天井近くまで伸びた炎が結界いっぱいに広がる。
教室に熱風が吹き抜けた。
「結界維持!」
キクリ先生が素早くデバイスを操作する。
ザァァァッ!
消火装置が作動し、火柱は一瞬で消えた。
静まり返る教室。
「…………」
私は恐る恐る口を開く。
「あ、あの……」
「大丈夫ですよ」
キクリ先生は落ち着いた様子でデバイスを確認していた。
「デバイスに異常はありません」
「え?」
「出力制限も正常です」
先生は少し首を傾げる。
「……もう一度だけ、試してみましょう」
「えぇっ!?」
教室中の視線が私に集まる。
「だ、大丈夫なんですか?」
「原因を調べたいので」
嫌な予感しかしない。
キクリ先生は新しいロウソクを耐熱台へ置いた。
「今度は、もっと力を抜いて」
「は、はい……」
深呼吸。
小さな火。
本当に小さな火。
私は自分に言い聞かせながら、もう一度デバイスに触れた。
一瞬だけ静かになる。
「あれ?」
ボンッ!!
「え?」
炎は出なかった。
代わりに、ロウソクが勢いよく飛び出した。
ズドッ!
一直線に飛んだロウソクは、ブースの後ろの黒板へ見事に突き刺さった。
「…………」
教室が静まり返る。
黒板に刺さった一本のロウソク。
その光景を見つめながら、私はぽつりと呟いた。
「……火は、ついてませんよね?」
「……ぷっ」
前の席から小さな笑い声が聞こえた。
ピンク色のショートボブの少女が肩を震わせている。
「ふ、ふふっ……」
必死に口を押さえているけれど、もう限界らしい。
「あははははっ!」
ついに机に突っ伏して笑い始めた。
「もうあかん!」
ばんばんと机を叩く。
「火ぃつける授業で、ロウソク飛ばす人初めて見たわ!」
教室中からも笑いが漏れる。
「確かに!」
「そんな失敗ある?」
「逆に器用だな」
「ち、違うんです!」
私は慌てて首を振った。
「私も火をつけるつもりだったんです!」
「その結果がこれなん?」
また少女が笑い転げる。
「おもろすぎるやろ!」
私だって笑いたい。
いや、やっぱり笑えない。
恥ずかしすぎる。
その間もキクリ先生は笑わずにデバイスを確認していた。
何度か画面を操作し、小さく息をつく。
「やはり異常はありませんね」
先生は静かに私を見る。
「霧島さん」
「は、はい」
「デバイスにも、安全装置にも問題はありません」
「ということは……」
恐る恐る尋ねる。
キクリ先生は穏やかに微笑んだ。
「原因は、あなたのカムイにあるようです」
「私の……」
「ええ」
先生は小さく頷く。
「ここまで制御が乱れる例は珍しいですね」
教室が少しざわつく。
「詳しく調べてみましょう」
「通常の授業と並行して、個別に訓練を行います」
「個別訓練……」
新人研修。
そう思っていたのに。
どうやら私だけ、最初から特別コースらしい。
……全然うれしくない。




