第五十一話 「私は普通だと思うんだけどなぁ」
日曜日。
目が覚めた時には、お昼を少し過ぎていた。
「……寝た」
時計を見る。
十二時十分。
久しぶりに目覚ましをかけずに寝たとはいえ、ここまで寝たのはいつ以来だろう。
「休日って素晴らしい……」
ベッドの上でしばらくぼーっとする。
昨日は月依とゲームをした。
久しぶりにゲームで遊んだから、思った以上にはしゃいでしまった気がする。
まあ。
休日なんだから、それくらいはいいよね。
そう自分に言い訳しながら起き上がる。
◇◇◇
昼食を済ませて部屋でのんびりしていると、スマホが震えた。
『陽花さん。本日、お時間はありますか?』
サクヤちゃんだった。
私は少し考える。
予定はない。
ゲームも十分遊んだ。
『あるよ』
そう返すと、すぐに返事が来た。
『よろしければ街をご案内したい場所があります』
『行く!』
即返信だった。
休日に家へ引きこもるのも好きだけど、異世界の街を歩くのも嫌いじゃない。
◇◇◇
待ち合わせ場所へ行くと、サクヤちゃんはすでに待っていた。
「こんにちは、陽花さん」
「こんにちは」
軽く頭を下げ合う。
「今日は月依は?」
何気なく尋ねる。
「福利厚生の手続きです」
「ああ、留学生の」
「はい」
会社からの支援とは別に、留学生向けの奨学制度があるらしい。
今日はその更新日なのだとか。
「なので、今日は私だけです」
「そっか」
二人で歩き始める。
休日の高天原は平日より人通りが多い。
屋台から甘い香りが漂い、小さな子どもたちが走り回っている。
「平和だね」
「はい」
サクヤちゃんも微笑く。
◇◇◇
「そういえば」
サクヤちゃんが私を見る。
「陽花さんは、ご自身のことを普通だと思われていますよね?」
「うん、普通だよ」
「本当に?」
「う、うーん」
「……」
サクヤちゃんが黙る。
「え?」
「確認ですが」
「うん」
「能力測定は計測不能でしたね」
「そうだね」
「実技では結界を燃やしかけました」
「うん」
「ロウソクを黒板へ飛ばしました」
「それは事故!」
「学園では『歩く人間凶器』と呼ばれています」
「その二つ名はやめてほしい!」
「会社でも皆さんを困らせています」
「それは……」
ちょっと普通じゃないかも。
でも。
「私は普通だと思うんだけどなぁ」
「どこがですか」
真顔だった。
「その認識は修正した方がいいと思います」
「えぇ……」
そんなにかな。
「私はただ普通に生きてるだけなのに」
「そこは理解しています」
「でしょ?」
「ですが」
サクヤちゃんは少しだけ困ったように笑った。
「普通の方は、休日にまで『今日は何も壊していません』という前提で生活しません」
「……」
言われてみれば。
そうかもしれない。
「普通って難しいね……」
「陽花さんだけだと思います」
「そんなぁ」
思わず肩を落とす。
サクヤちゃんがくすっと笑った。
しばらく歩いていると、小さな広場へ出た。
噴水の周りでは子どもたちが遊んでいる。
その様子を眺めながら、サクヤちゃんがぽつりと呟いた。
「月依さんからは、昔のお話をたくさん聞いていました」
「え?」
「優しくて、ゲームが好きで、困っている人を放っておけないお姉ちゃんだと」
「そんな大した人じゃないよ」
「そうでしょうか」
サクヤちゃんは私を見る。
「私は、その話を聞いて」
一度言葉を区切る。
「きっと、とても素敵な方なのだろうと思っていました」
「……」
「実際にお会いしてみると」
また少し間を置く。
「思っていた通りのところもありました」
「……うん」
「でも」
小さく首を傾げる。
「思っていた方とは違っていました」
「え?」
「いえ」
サクヤちゃんはいつもの穏やかな笑顔に戻る。
「独り言です」
「?」
意味が分からない。
でも。
サクヤちゃんは、それ以上何も言わなかった。
私は首を傾げながら歩き続ける。
休日の街は、今日も穏やかだった。




