第四十九話 「お二人は、本当に仲がよろしいですね」
「少し外へ出ませんか?」
サクヤちゃんがそう提案した。
「お散歩?」
「はい。今日は天気も良いですから」
窓の外を見る。
青い空。
ゆっくり流れる白い雲。
休日らしい穏やかな景色だった。
「いいね」
「行こ、お姉ちゃん!」
月依が嬉しそうに立ち上がる。
ゲーム機の電源を切り、お菓子を片付ける。
三人で部屋を出ると、学生寮の廊下は休日らしく静かだった。
◇
寮を出てしばらく歩く。
休日の高天原は、平日とは少し違う表情を見せていた。
制服姿の学生は少なく、家族連れや買い物を楽しむ人たちが目立つ。
「やっぱり休日なんだね」
「そうですね」
サクヤちゃんが頷く。
「学園の近くは学生が多いですが、少し離れると普通の街になります」
「日本とあまり変わらないかも」
「そう?」
月依が首を傾げる。
「お姉ちゃん、日本恋しい?」
「うーん……」
少し考える。
「恋しくないって言ったら嘘かな」
ゲームも。
コンビニも。
見慣れた街並みも。
全部、日本に置いてきた。
「でも」
私は二人を見る。
「今は楽しいよ」
会社で働いて。
学園へ通って。
暴発ばっかりだけど。
こうして休日に遊ぶ友達もいる。
「だから、大丈夫」
「……そっか」
月依は安心したように笑った。
◇
「甘い物でもいかがですか?」
サクヤちゃんが一軒の店を指差す。
「わぁ……」
ショーケースには色とりどりのお菓子が並んでいた。
見たことのない果物を使ったケーキ。
宝石みたいなゼリー。
ふわふわした白いお菓子。
「美味しそう!」
「ですよね!」
月依の目が輝く。
数分後。
三人とも手には違うお菓子を持っていた。
「いただきます」
一口食べる。
「……美味しい!」
思わず声が漏れた。
「日本のお菓子とも違うね」
「こちらは神樹の蜜を使っていますので」
「神樹の蜜?」
「高天原ではよく使われる甘味料です」
「へぇ」
異世界らしい。
でも、美味しい。
「お姉ちゃん」
月依がスプーンを差し出す。
「一口食べる?」
「交換?」
「うん!」
「じゃあ少しだけ」
お互いのお菓子を交換する。
「こっちも美味しい!」
「でしょ!」
月依は嬉しそうだった。
そんな様子を見ていたサクヤちゃんが、小さく笑う。
「お二人は、本当に仲がよろしいですね」
「昔からこんな感じだよ」
「うん!」
「喧嘩もしなかったのですか?」
「したよ」
「え?」
意外そうな顔をするサクヤちゃん。
「ゲームで負けると月依が拗ねるから」
「お姉ちゃんが強すぎるんだもん!」
「今も負けてたよね?」
「今日は調子悪かったの!」
「さっきも同じこと言ってたような……」
三人で笑う。
こういう時間も悪くない。
◇
帰り道。
歩道橋の上で景色を眺める。
未来都市の街並み。
空を飛ぶ乗り物。
遠くに見える大きな鳥居。
日本とは違う。
でも。
最初にこの景色を見た時ほどの戸惑いは、もうなかった。
「少しずつ慣れてきましたね」
サクヤちゃんが静かに言う。
「そうかも」
「最初はずっと驚いてたもんね」
月依が笑う。
「異世界だもん」
「それもそうですね」
三人で顔を見合わせる。
思わず笑みがこぼれた。
異世界での生活は、まだ始まったばかり。
分からないことも。
失敗することも。
きっと、これからたくさんある。
でも。
一人じゃない。
そう思えるだけで、この街は少しだけ居心地の良い場所になっていた。




