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【第一章完結】異世界就職したら、神様の学園に出向することになりました ~普通に働きたい新人社員、『歩く人間凶器』のちょっと騒がしい異世界生活~  作者: 牛
第一章 二週目

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第四十六話 「その『昔話』が大切なのですよ」

 少しの間、部屋に静寂が流れる。


 窓の外では、夜風が木々を揺らしていた。


「……あの日かぁ」


 月依がぽつりと呟く。


「覚えてる?」


「うん」


 私は苦笑いを浮かべた。


「忘れられるわけないよ。あんなに泣かれたんだもん」


「だって……」


 月依は視線を落とし、指先をもじもじと動かす。


「あの頃は、お姉ちゃんがいなくなるって思ったら、すごく寂しくて」


「ごめんね」


「ううん」


 月依は首を横に振る。


「お姉ちゃんは悪くないもん」


 それでも、少しだけ寂しそうに笑った。


「高校へ行くって聞いた時、本当に世界が終わると思ったんだ」


「大げさだよ」


「私には、それくらいだったの」


 思わず笑ってしまう。


「相変わらずだね、月依は」


「そうかな?」


「昔から甘えん坊だったし」


「もう違うよ」


 少しだけ頬を膨らませる月依。


「私だって成長したもん」


「そう?」


「うん」


 胸を張る姿はどこか子どもの頃と変わらない。


 その様子が可笑しくて、私はつい笑ってしまった。


「笑った!」


「ごめんごめん」


「もう」


 月依もつられて笑う。


 その笑顔を見ていると、夢で見た泣き顔が少しだけ遠ざかった気がした。


「でもね」


 月依が静かに口を開く。


「昔も今も変わらないことが一つだけあるの」


「ん?」


「私は昔から、お姉ちゃんだけだった」


「……?」


 言葉の意味を考える。


 でも、すぐに答えは出た。


「相変わらずシスコンだねぇ」


「えっ」


 月依が目をぱちぱちさせる。


「昔からお姉ちゃん子だったもんね」


「……そっか」


 少しだけ困ったように笑う月依。


「そういうこと……だよね」


「?」


「ううん、何でもない」


 首を横に振る月依は、どこか照れくさそうだった。


 私はその反応を深く気にすることもなく立ち上がる。


「そうだ。せっかくだし、何か飲み物でも買ってこようか」


「え?」


「眠気覚ましにね」


「じゃあ、私も行く!」


「ふふ、一緒に行こっか」


 私たちは部屋を出て、静かな女子寮の廊下を歩き始めた。


 ◇



「先に部屋戻ってるね」


 月依は飲み物を抱え、小さく手を振った。


「うん。すぐ行くよ」


 月依が女子寮の廊下を歩いていく。


 私は自動販売機の前で財布をしまっていると、後ろから聞き慣れた声がした。


「陽花さん」


「あ、サクヤちゃん」


 いつものように上品な笑みを浮かべながら、サクヤちゃんが歩いてくる。


「こんばんは」


「こんばんは」


 少しだけ立ち話をする。


「月依ちゃん、とても嬉しそうでしたわ」


「そうかな?」


「ええ」


 私は少し考える。


「昔話をしただけなんだけどね」


「その『昔話』が大切なのですよ」


「そういうもの?」


「はい」


 サクヤちゃんは優しく微笑んだ。


「月依ちゃんは昔から、陽花さんだけを見て生きてきましたから」


「相変わらずシスコンなんだよねぇ」


 私が笑うと、サクヤちゃんは一瞬だけ目を丸くした。


 そして、くすっと笑う。


「……そう思われますか」


「違うの?」


「いえ」


 サクヤちゃんは首を横に振る。


「今は、そのままでよろしいのだと思います」


「?」


 意味がよく分からない。


 首をかしげる私に、サクヤちゃんはそれ以上何も言わなかった。


「それではわたくしはこれで」


「うん。またね」


 ぺこりと一礼すると、サクヤちゃんは静かに歩いていく。


 その背中を見送りながら、私は首をひねった。


「……何だったんだろう」


 まあ、サクヤちゃんが時々難しいことを言うのは今に始まったことじゃない。


 私はそんなことを考えながら、月依の待つ部屋へと戻った。

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