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【第一章完結】異世界就職したら、神様の学園に出向することになりました ~普通に働きたい新人社員、『歩く人間凶器』のちょっと騒がしい異世界生活~  作者: 牛
第一章 二週目

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第四十五話 「私も連れてって……」

 桜の花びらが風に乗って舞っていた。


 まだ少し肌寒い春の日。


 私は玄関先でスーツケースを握りしめていた。


「お姉ちゃん……」


 振り返ると、小さな月依が泣いていた。


 制服の袖で何度も涙をぬぐっているのに、次から次へと涙があふれてくる。


「行かないで……」


「月依……」


「お姉ちゃんと一緒にいたい」


 私はしゃがみ込み、月依の頭を優しく撫でた。


「高校卒業したら、ちゃんと帰ってくるよ」


「やだ……」


「お休みの日も帰ってくるから」


「やだぁ……」


 首を横に振る月依。


 涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、私の制服をぎゅっと掴んで離さない。


「私も連れてって……」


 その言葉が胸に刺さる。


「ごめんね」


 そう言うことしかできなかった。


「お姉ちゃん……」


 結局、お母さんに月依を預け、私は家を出た。


 あの時の泣き顔だけは、今でも忘れられない。


    ◇


「……ん」


 ゆっくりと目を開く。


 部屋は薄暗かった。


 カーテンの隙間から夕焼けも消え、夜の景色が少しだけ見えている。


「……あれ?」


 ぼんやりした頭で周囲を見回す。


 見覚えのある部屋。


 そうだ。


 月依の部屋だった。


「私……」


 椅子に座ったまま眠ってしまっていたらしい。


 夢なんて、ずいぶん久しぶりに見た気がする。


 しかも、あんな昔の夢を。


「お姉ちゃん」


「ひゃっ!?」


 突然すぐ近くから声がして、思わず肩を震わせた。


 目の前には、私の顔を覗き込む月依がいた。


「びっくりしたぁ……」


「ふふっ、ごめん」


 どうやら少し前に目を覚ましていたらしい。


「起こそうと思ったんだけど、お姉ちゃん気持ちよさそうに寝てたから」


「それで見てたの?」


「うん」


 少し照れくさそうに笑う月依。


 その笑顔は、夢の中で泣いていた幼い月依とはまるで違っていた。


「ごめんね。待たせちゃった」


「私も寝ちゃってたから、おあいこかな」


「えへへ」


 二人で思わず笑ってしまう。


 静かな部屋に、小さな笑い声だけが響いた。


「そういえば、お姉ちゃん」


「うん?」


「さっき寝言でね」


「え?」


「『帰ってくるから』って言ってたよ」


 ドキリと胸が鳴る。


 夢の中で、確かに私はそう言った。


 月依は首をかしげる。


「どんな夢だったの?」


 私は少しだけ考えてから、小さく笑った。


「昔の夢だよ」


「昔?」


「私が高校へ行くために家を出た日の夢」


 その言葉を聞いた月依の表情が、一瞬だけ揺れた。

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