第四十四話 「陽花って事件に巻き込まれる才能あるよね」
放課後。
今日の授業も終わり、私は帰る準備をしていた。
今日は月依に呼ばれている。
『放課後、お姉ちゃん部屋に来て』
朝にもらったメッセージ。
珍しく月依のほうから誘ってくれたので、少し楽しみにしていた。
「よし、急ごう」
鞄を持って教室を出ようとした、その時だった。
「陽花ー!」
「わっ!?」
後ろから勢いよく肩を組まれる。
振り向かなくても分かる。
「アカリ……」
「やっほー!」
満面の笑みだった。
「帰ろ帰ろ!」
「うん。でも今日はちょっと急いでて」
「急ぎ?」
「月依に呼ばれてるの」
「あー、月依先輩かぁ」
納得したように頷く。
「じゃあ一緒に行こ!」
「え?」
「途中まで!」
「いや、途中までって」
「私も帰る方向だし!」
そう言われると断りにくい。
結局、一緒に歩くことになった。
「そういえば陽花ってさ」
「うん?」
「会社って毎日残業あるの?」
「いや、毎日じゃないよ」
「始末書は?」
「毎日じゃないよ!」
「週一?」
「そこを基準にしないで!」
「え、違うの!?」
「違うから!」
なんで私、始末書を書くのが前提になってるんだろう。
「でもさぁ」
アカリは腕を組んで考え込む。
「陽花って事件に巻き込まれる才能あるよね」
「そんな才能いらないよ……」
「いや、むしろ才能!」
「褒められてないよね?」
「褒めてる褒めてる!」
本当にそうだろうか。
「じゃあ質問!」
「まだあるの?」
「もし今日も事件が起きたらどうする?」
「起きないことを祈る」
「もし起きたら?」
「逃げる」
「もし逃げられなかったら?」
「……始末書?」
「正解!」
「正解じゃないから!」
アカリはお腹を抱えて笑っている。
どうしてこんなに楽しそうなんだろう。
「陽花ってツッコミ上手だよねぇ」
「アカリがボケすぎなんだよ」
「えへへ」
褒められたと思っているらしい。
……まあ、本人が楽しそうだからいいか。
「じゃあ私はこっち!」
校舎の分かれ道でアカリが手を振る。
「また今度だね、陽花!」
「うん。また今度」
元気よく走っていく後ろ姿を見送り、私は寮へ向かった。
◇
女子寮。
月依の部屋の前に着き、軽くノックをする。
「月依ー」
返事がない。
もう一度ノックする。
「入るよ?」
鍵は開いていた。
部屋をのぞくと――
「……すぅ」
ベッドの上で、月依が気持ちよさそうに眠っていた。
「…………」
私は時計を見る。
急いで来た意味とは。
「月依」
「すぅ……」
「月依ー」
「…………」
起きない。
どうやら完全に寝てしまっているらしい。
「急いで来たのになぁ……」
小さくため息をつきながら、私は毛布がずれていた月依にそっと掛け直した。
「……起きるまでまっとこ」
静かな部屋の椅子の上に座る。
急いで帰ってきた放課後は、思いがけず静かな時間になってしまったのだった。




