第三十九話 「気付かなくてよかったのに!」
月依と一緒に教室へ入ると、一瞬だけ教室が静まり返った。
みんなの視線が私へ集まる。
……やっぱり。
新聞の影響、まだ残ってる。
「お、おはようございます」
恐る恐る挨拶すると、
「おはよう」
「おはようございます」
返事は返ってきた。
……よかった。
避けられてはいないみたい。
「陽花はん!」
元気な声とともにヒルコちゃんがこちらへやって来る。
「おはよう、ヒルコちゃん」
「朝から災難やったなぁ」
「もう、本当にだよ……」
肩を落とす私を見て、ヒルコちゃんは苦笑した。
「ウチも新聞読んだで」
「やっぱり……」
「最初は誰のことや思うたけど、読んでたら途中で『これ陽花はんやん!』って」
「気付かなくてよかったのに!」
「いやぁ、あの見出しはインパクトありすぎや」
ヒルコちゃんは笑いを堪えながら言う。
「でもな」
「うん?」
「さすがに盛りすぎや」
「そうだよね!」
思わず身を乗り出す。
「『歩く人間凶器』なんて、そんな大げさな……」
「せやけど」
ヒルコちゃんは少し考えてから言った。
「火耀の騒ぎ見た子からしたら、しゃあない気もする」
「うっ……」
痛いところを突かれた。
反論できない。
「陽花さん」
落ち着いた声が聞こえた。
振り向くと、サクヤちゃんがいつもの優雅な足取りでこちらへ歩いてくる。
「おはようございます」
「おはよう、サクヤちゃん」
「新聞の記事は拝見いたしました」
「うぅ……」
またその話だ。
恥ずかしくて顔を上げられない。
「記事には誇張した表現もございました」
「そうだよね!」
「ですが」
サクヤちゃんは穏やかな笑みを浮かべた。
「陽花さんが故意に暴発を起こしているわけではないことは、私も存じております」
「ありがとうっ!」
ようやく分かってくれる人がいた。
「ですので、どうかお気になさらないでください」
「うん!」
少しだけ元気が出てきた。
「ただ」
「ただ?」
「次に暴発する際は、事前に一言いただけますと助かります」
「しないから!」
思わず声が大きくなる。
ヒルコちゃんが吹き出した。
「ぶはっ!」
「陽花はん、ツッコミ忙しいなぁ」
「好きでやってるわけじゃないよ!」
教室にも笑い声が広がる。
さっきまでの重たい空気が、少しずつ和らいでいく。
「ほら」
月依が嬉しそうに笑った。
「みんな、ちゃんと分かってくれてる」
「……そうだね」
確かに新聞は広まってしまった。
でも、それだけで私を決めつける人ばかりじゃない。
少し安心した、その時だった。
ガラッ。
教室の扉が開く。
「おはようございます」
キクリ先生だった。
みんなが慌てて自分の席へ戻る。
「それではホームルームを始めます」
先生は出席簿を開きながら教室を見回した。
「今日は朝から校門が賑やかでしたね」
……やっぱりその話になるんだ。
私は思わず背筋を伸ばえる。
先生は苦笑しながら続けた。
「新聞は新聞です。皆さん、噂だけで人を判断しないようにしてください」
「「はい」」
教室中から返事が返る。
その言葉を聞いて、胸の中の重たいものが少しだけ軽くなった。
――よし。
今日もちゃんと授業を受けよう。




