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【第一章完結】異世界就職したら、神様の学園に出向することになりました ~普通に働きたい新人社員、『歩く人間凶器』のちょっと騒がしい異世界生活~  作者: 牛
第一章 二週目

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第三十六話 「やっぱり私が原因じゃないですか!」

 木曜日。


 異世界へ出社して四日目。


「おはようございます!」


「おはよう、陽花」


 教育部へ入ると、柚木さんがいつもの穏やかな笑顔で迎えてくれた。


「今日は午前中の業務を変更して、安全管理部主催の『カムイ安全講習』へ参加してもらうよ」


「カムイ安全講習ですか?」


「うん。新人社員向けの講習だね」


「入社した時にも研修を受けましたよね?」


 私が首を傾げると、柚木さんは少しだけ視線を泳がせた。


「今回は、その……追加講習というか」


「追加?」


 すると、パソコンへ向かっていたナビキさんがぼそりと呟く。


「建前」


「え?」


「建前は新人向け」


 ……嫌な予感しかしない。


「じゃあ本当は?」


「陽花向け」


「違いますよね!?」


 勢いよく柚木さんを見る。


 柚木さんは苦笑しながら両手を振った。


「いやいや、ちゃんと新人向けだよ」


「『ちゃんと』って言いましたよね!?」


「まあ……昨日の件もあったし」


「やっぱり私が原因じゃないですか!」


「安全意識を高めるのは大切だからね」


 にこっと笑われる。


 うぅ……反論できない。


 ◇


 案内されたのは、本社の大会議室だった。


 教育部だけではなく、営業部や総務部、研究部など、様々な部署の新人社員が席についている。


「思ったより新人さんって多いんですね」


「四月入社組が全員集まってるからね」


「ちょっと安心しました」


「安心?」


「私だけじゃないんだなって」


 新人なんて、みんな失敗するものだ。


 そう思えば少し気が楽になる。


 やがて照明が落ちた。


 スクリーンに大きくタイトルが映し出される。



『カムイ安全講習』



 壇上へ立った講師が一礼した。


「皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。本講習では、カムイの安全な使用方法と事故防止について学んでいただきます」


 いかにも真面目そうな人だ。


「まずは、過去十日間に発生した事故事例をご覧ください」


 ……ん?


 過去十日間?


 スクリーンに監視映像が映し出される。


 教育部。


 会議室。


 廊下。


 そして学園。


「あれ……?」


 映像は早送りのように進んでいく。


 初出勤の日。


 デバイス測定。


 仕事中の様子。


 昨日の出来事。


 ここ数日、私が経験した出来事ばかりだった。


 画面の右上には、小さくこう表示されている。



 《安全管理部 再発防止資料》



 嫌な予感しかしない。


 映像が終わり、部屋が明るくなる。


 講師は淡々と説明を始めた。


「以上が、過去十日間に発生したカムイ暴発事例です」


 スクリーンが切り替わる。



 過去十日間 カムイ暴発件数


 九件



「……九件?」


 思わず声が漏れる。


 講師はレーザーポインターを手に説明を続けた。


「本日は、この中から代表的な事例を取り上げ、原因と対策について確認します」


 代表的。


 ……よかった。


 九件全部やるわけじゃないんだ。


「では、事例一です」


 スライドが切り替わる。



 事例一 教育部内におけるカムイ暴発



「本件では、デバイス起動時に想定以上の出力が発生しました」


 監視映像が再生される。


 私は思わず目を逸らした。


 見なくても分かる。


 どうせ私だ。


「原因として考えられるのは、次の三点です」


 スライドが切り替わる。


 ・イメージ制御不足


 ・精神的緊張


 ・出力調整不足


「……はい」


 全部その通りだった。


 ぐうの音も出ない。


「カムイは使用者の精神状態にも影響を受けます。緊張や焦りを感じた場合は、一度使用を中断し、深呼吸を行ってください」


 なるほど。


 ちゃんとした講習だ。


 ……いや。


 ちゃんとしてるからこそ心が痛い。


「続いて事例二」


 また私だ。


「こちらは現象こそ異なりますが、原因分析の結果、共通点が見つかっています」


 スライドが切り替わる。


 共通点


 ・発動前に緊張が見られる


 ・想定を超える出力が発生している


 ・周囲への二次被害が発生している


「……うぅ」


 全部当てはまってる。


「特に三項目目は重要です」


 講師は真面目な口調のまま続ける。


「本人が制御できていると判断していても、周囲から見れば危険な場合があります」


 胸が痛い。


 痛すぎる。


 隣からナビキが小さく呟いた。


「あるある」


「私限定ですよね?」


「今のところ」


「フォローになってません!」


 前の席の新人さんの肩が震えている。


 笑うのを必死に堪えているらしい。


 恥ずかしい……。


「それでは最後に、これら九件の事故について共通事項を確認します」


 スクリーンが切り替わる。


 共通事項


 ・発生期間 過去十日間


 ・発生場所 教育部および学園関係施設


 ・原因 調査完了


 ふぅ。


 ようやく終わる。


 そう思った、その時だった。


 最後の一行が、ゆっくりと表示される。


 共通事項


 すべて同一人物による事故


「……え?」


 会議室が静まり返る。


 講師は資料を見ながら続ける。


「なお、個人情報保護の観点から氏名は伏せています」


 スライドが切り替わる。


 対象者


 新人社員K島


 数秒の沈黙。


 そして。


 会場中の視線が、一斉に私へ向いた。


「いや、それ全然伏せられてませんよね!?」


 思わず立ち上がる。


 するとナビキが静かに一言。


「教育部新人、一人」


「そこ言わないでください!」


「十分匿名」


「どこがだよ?!」


 会場から笑いが漏れる。


 講師はまったく動じない。


「本講習は、特定の個人を責めることが目的ではありません」


「……はい」


「事故を共有し、同様の事例を防止することが目的です」


 その言葉に、私は少しだけ肩の力を抜いた。


 ……そうだよね。


 笑われるためじゃなくて、これから同じことを繰り返さないため。


 ちゃんと勉強しよう。


 そう思った瞬間。


「なお、今後事例が増えた場合は、資料を随時更新します」


「増えませんからっ!」


 反射的に叫んだ私に、会議室は今日一番の笑いに包まれた。

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