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【第一章完結】異世界就職したら、神様の学園に出向することになりました ~普通に働きたい新人社員、『歩く人間凶器』のちょっと騒がしい異世界生活~  作者: 牛
第一章 二週目

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第三十四話 「偶然……でしょうか」

 眠い。


 春の朝。


 学園へ続く石畳の道は、今日も制服姿の生徒たちで賑わっていた。


 友達同士で楽しそうに話す子。


 授業の予習らしきノートを開いて歩く子。


 朝から元気いっぱいに走って先生へ怒られている子。


 いつも通りの光景。


 ……のはずなのに、私だけ世界が少しぼやけて見える。


 原因は分かっていた。


 昨日。


 ナビキに教えてもらった刀のゲーム。


「ローカライズ版なら日本のアカウントで遊べるよ」


 その一言で始めたのが運の尽きだった。


 日課だけ。


 遠征だけ。


 資材だけ。


 そう思っていた。


 気が付けば時計は日付を跨いでいて、慌てて布団へ飛び込んだのは言うまでもない。


 ……社会人になって最初の夜更かしである。


 反省はしている。


 イベントが終わるまでは、たぶん。


「お姉ちゃん!」


 校門の前で月依が手を振った。


「おはよう」


「……おはよう」


 自分でも驚くくらい覇気がない。


 月依は私の顔を覗き込み、小さく笑った。


「眠そう」


「ちょっとだけ」


「ゲーム?」


 後ろから聞こえた声に振り返る。


 ヒルコちゃんだった。


「……なんで分かったの?」


「分かる人には分かるんよ」


 それだけ言って笑う。


 そんなものなのだろうか。


 ゲーマー同士には見える何かがあるらしい。




「それでは、本日の実技を始めます」


 キクリ先生の声が響く。


 訓練室には、いつもの結界が展開されていた。


 前回より少し厚く見えるのは、気のせいだろうか。


「霧島さん」


「はい」


「昨日、会社でもカムイの訓練をされたそうですね」


「はい……」


 柚木さんから連絡があったのだろう。


「今日は、その成果を確認してみましょう」


 私は小さく頷いた。


 緊張で喉が渇く。


「まずは火を灯してください」


 深呼吸を一つ。


 デバイスへ意識を集中する。


 焦らない。


 ゆっくり。


 昨日教わったとおり。


 カムイを流していく。


 指先へ、小さな光が集まる。


 できる。


 今度こそ。


 ぽっ、と小さな火が灯った。


「……!」


 できた。


 今までで一番きれいな火だった。


 その瞬間。


 ゴォォォォォッ!!


 炎が一気に天井まで吹き上がった。


「え?」


 次の瞬間には爆風が訓練室を駆け抜ける。


 ドォォォン!!


 結界が激しく光り、衝撃を受け止めた。


 机が宙を舞う。


 椅子が転がる。


 教材が紙吹雪のように部屋中へ散らばった。


 黒板は外れ、壁へ突き刺さる。


 棚の中身まで豪快に飛び出していた。


 部屋中が白い煙に包まれる。


「げほっ……」


 煙がゆっくり晴れていく。


 そこに残っていたのは——


 訓練室だったもの。


 机は全部ひっくり返り、


 椅子はあちこちへ転がり、


 教材は天井や壁へ張り付き、


 床は煤だらけ。


 ……教室だけが、見事に壊滅していた。


「…………」


 静寂。


「……みんな、大丈夫ですか!?」


 慌てて辺りを見回す。


 ヒルコちゃんが机の陰からひょこっと顔を出した。


「うちは無事や」


 サクヤも制服についた埃を払って立ち上がる。


「結界のおかげですね」


 クラスメイトたちも次々と姿を見せる。


「大丈夫ー」


「慣れた慣れた」


「教室だけやられたな」


 ……慣れないでほしい。


 私はその場へへたり込んだ。


「ご、ごめんなさい……」


 またやってしまった。


 昨日は会社。


 今日は学園。


 二日連続で部屋をめちゃくちゃにしてしまった。


 もう顔を上げられない。


 そんな私の前へ、キクリ先生が歩いてきた。


 制服には少し煤が付いていたけれど、怪我一つない。


 先生は壊れた教室をぐるりと見渡す。


 それから静かに結界を解除した。


「皆さん、怪我はありませんね?」


「「「はーい」」」


 返事が揃う。


 キクリ先生は小さく頷き、ほっと息をついた。


「それなら何よりです」


 そして私の方を見る。


「霧島さん」


「は、はい……」


「少し、一緒に確認しましょう」


「確認……ですか?」


「ええ」


 先生は床へ落ちたデバイスを拾い上げる。


「今回は暴発そのものよりも、別のことが気になりました」


「別のこと?」


「これほど大規模な暴発だったにもかかわらず——」


 先生は教室を見回した。


「誰一人、怪我をしていません」


 私は思わず周囲を見る。


 本当だ。


 教室は滅茶苦茶なのに、誰も怪我をしていない。


「偶然……でしょうか」


 先生はそう呟いた。


 その表情は穏やかだったけれど、その目だけは教室の隅々まで観察していた。



 私も深いため息をつく。


 また教室を壊してしまった。


 ……始末書って、学園にもあるのかな。


 この時の私は、そんなことしか考えていなかった。


 でも、この日の大暴発が、私の学園生活を大きく変える最初の一歩になるなんて――まだ知る由もなかった。

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