第三十一話 月耀の朝から〇〇
月耀の朝。
私は社員寮の部屋で出社準備をしていた。
昨日。
月依が来てくれた。
そして。
この部屋は生まれ変わった。
床は見える。
机は使える。
どこに何があるのか分かる。
完璧だった。
……昨日までは。
「陽花」
「ん?」
部屋の入口から声がする。
振り返ると。
ナビキが立っていた。
「あれ?」
「少し確認したいことがあって来ました」
「そっか」
私は頷く。
そして。
ナビキの視線が部屋の中へ向く。
「……」
「……」
嫌な沈黙。
「何?」
「いえ」
ナビキは部屋を見る。
「妹さんを」
「うん?」
「この部屋に上げたんですね」
「え?」
なぜ分かった。
いや。
違う。
そこじゃない。
「なんでその聞き方なの?」
「以前の状態を知っていますので」
「そこは知っていないでほしかった」
ナビキは淡々としている。
「ですが」
「?」
「少し意外でした」
「何が?」
「妹さんを、この状態の部屋に招いたことです」
「……」
私は固まる。
「違うよ」
「?」
「月依が来た時は」
私は胸を張る。
「ちゃんと片付いてたんだから」
「……」
ナビキが部屋を見る。
「現在は?」
「……」
私は視線を逸らす。
「か、片付けたんだけどね……ハハ」
「説得力がありません」
「ですよねー」
自分でも分かっていた。
昨日の月依の努力。
それを。
わずか一晩で台無しにしかけている。
「妹さんは優秀ですね」
「本当にそう思う」
即答だった。
「私の部屋を見て、何も言わず掃除を始めたし」
「何も言わず?」
「うん」
「……」
ナビキが少し考える。
「強い方ですね」
「そこは私も思った」
普通なら。
姉の部屋を見て。
少しぐらい引くと思う。
でも月依は違った。
「お姉ちゃん、片付けよう」
笑顔だった。
あの瞬間。
私は少しだけ思った。
妹ってすごい。
◇◇◇
「陽花」
「なに?」
「次からは」
「?」
「妹さんが来る前だけではなく」
「……」
「普段から維持した方がいいと思います」
「正論が刺さる」
「事実確認です」
「またそれ!」
月依。
そしてナビキ。
この世界には。
私に容赦なく現実を突きつける人が多すぎる。
「……」
でも。
少しだけ。
悪くないと思った。
日本にいた頃とは違う。
ここには。
私を見てくれる人がいる。
……まあ。
その前に。
「部屋を維持する能力を身につけよう」
そこからだった。




