第二十八話 日耀の妹が覚えている〇〇
部屋の片付けが終わってから。
私と月依は、のんびりと話をしていた。
久しぶり……というには少し違う。
日本にいた頃も会っていた。
でも。
こうして落ち着いて話すのは、いつ以来だろう。
「そういえば」
月依が言う。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「昔から変わらないね」
「急にどうしたの?」
「なんとなく」
月依は笑う。
「昔から、お姉ちゃんはそうだったなって」
「そうだった?」
「うん」
私は首を傾げる。
「私、そんな印象に残ることしてた?」
「してたよ」
即答だった。
「え?」
「いっぱい」
「具体的には?」
「いっぱい」
「またそれ?」
月依は楽しそうに笑う。
「覚えてないんだね」
「何を?」
「そういうところ」
意味が分からない。
私は昔から普通だった。
特別な才能があったわけでもない。
人より優れていたわけでもない。
「月依」
「うん?」
「私って、そんなにすごい姉じゃないよ?」
言うと。
月依は少しだけ困った顔をした。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「それ」
「?」
「昔から言ってる」
「……」
そうだっただろうか。
「でも」
月依は続ける。
「私が覚えてるのは」
「すごいことをしたお姉ちゃんじゃないよ」
「?」
「私が困ってる時に助けてくれたお姉ちゃん」
その言葉に。
少しだけ胸が引っかかった。
「そんなことあった?」
「あるよ」
「いつ?」
「いっぱい」
「だから具体的に!」
思わず突っ込む。
月依は笑った。
「秘密」
「秘密なの?」
「うん」
「なんで?」
「お姉ちゃん、自分で覚えてないから」
「……」
反論できない。
確かに。
私は昔からそういうところがある。
自分がしたことより。
できなかったことの方を覚えている。
「でもね」
月依は静かに言う。
「私は覚えてるよ」
「……」
「ずっと」
その言葉だけが。
妙に心に残った。
◇◇◇
「そろそろ帰るね」
窓の外を見ると、もう夕方だった。
「送るよ」
「大丈夫」
「でも」
「大丈夫だよ」
月依は笑う。
「もうこの街、慣れてるから」
「あ」
そうだった。
月依はもう。
この世界で自分の生活を作っている。
「……そっか」
「うん」
少し寂しいような。
でも嬉しいような。
変な気持ちだった。
「また遊びに来るね」
「いつでも」
「今度は片付いてる?」
「……」
私は部屋を見る。
まだ綺麗。
「努力します」
「期待してる」
月依が笑う。
そして。
部屋を出る前に振り返った。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「ありがとう」
「……」
突然だった。
「何が?」
「いろいろ」
「いや、だから何が?」
「秘密」
「また!?」
月依は笑いながら手を振った。
「またね」
「うん」
扉が閉まる。
一人になった部屋で。
私は考える。
月依は。
私が忘れていることを、たくさん覚えている。
そして。
たぶん。
私はまだ知らない。
月依が、私をどう見ていたのかを。




