第二十七話 日耀の妹が知ってる〇〇
「……終わった」
私は部屋を見渡した。
さっきまで床に置かれていた荷物。
机の上に積み重なっていた書類。
どこに置いたか分からなくなっていた小物。
全部、あるべき場所に戻っている。
「すごい」
思わず呟いた。
「何が?」
「月依」
「部屋じゃなくて?」
「両方」
月依は少し困ったように笑う。
「お姉ちゃん、大げさ」
「いやいや」
私は改めて部屋を見る。
「私、一人だったらたぶんこのままだったよ」
「知ってる」
「知ってるの!?」
月依は当たり前のように頷いた。
「昔からそうだから」
「昔から?」
「うん」
……否定できない。
思い返せば。
学生時代も。
机の中は大変なことになっていた。
必要なものはある。
でも探すのに時間がかかる。
いわゆる……。
「片付けているつもりなのに片付いてないタイプ?」
「言い方がひどい」
「でも合ってるよ」
妹が容赦ない。
◇◇◇
「お茶入れるね」
「私がやるよ」
「お客様だから」
「ここ、お姉ちゃんの部屋だよ?」
「今日は妹がお客様」
「変なの」
二人で笑う。
不思議な感じだった。
日本にいた頃なら。
こんな場所で月依とお茶を飲むなんて考えもしなかった。
異世界。
豪華な社員寮。
神様の子孫たちがいる学園。
数日前までの私には、全部遠い話だった。
「仕事はどう?」
月依が聞く。
「え?」
「会社」
「ああ」
私は少し考える。
「大変だけど、楽しいよ」
「本当?」
「うん」
意外そうな顔をされる。
「何?」
「お姉ちゃん、昔から仕事とか苦手って言ってたから」
「そんなこと言ってた?」
「言ってた」
……言ってたかもしれない。
私は何でもできるタイプではない。
要領がいいわけでもない。
だからこそ。
「今も失敗はするけど」
「うん」
「周りの人が助けてくれるから」
それは本当だった。
「そっか」
月依は嬉しそうに笑った。
「ならよかった」
「何が?」
「お姉ちゃんが、ちゃんと楽しそうだから」
「……」
その言葉に少し驚いた。
「私?」
「うん」
「楽しそうに見える?」
「見えるよ」
月依は即答する。
「昔より」
「昔より?」
「うん」
月依は少しだけ考える。
「前のお姉ちゃんは」
「?」
「頑張ってるのに、自分では気付いてない感じだったから」
「……」
何となく。
分かる気がした。
私は昔から。
できないことばかり気にしていた。
できたことなんて、あまり覚えていない。
「月依って」
「うん?」
「私のこと、よく見てるね」
そう言うと。
月依は少し照れたように笑った。
「だって」
「お姉ちゃんだから」
「……」
またその言葉。
でも。
今度は少しだけ分かった気がした。
月依にとって。
私は特別な何かをした人じゃなくて。
ただ。
ずっと見てきた、大切な人なんだ。
「……」
「どうしたの?」
「いや」
私は首を振る。
「妹ってすごいなって」
「また?」
「また」
月依が笑う。
その笑顔を見て。
私は思った。
まだ知らないことがある。
月依のことも。
そして。
私自身のことも。




