第二十六話 日耀に部屋を片付けされる〇〇
日耀。
今日は月依が社員寮まで遊びに来ることになった。
「ここが社員寮なんだね」
「うん」
廊下を歩きながら、月依は周囲を見回している。
「思ったより普通」
「私も最初そう思った」
異世界。
神様の子孫。
カムイ。
そんな単語が飛び交う場所だけど、生活している場所は意外と普通だった。
……まあ。
私の部屋以外は。
「こっち」
「楽しみ」
「何が?」
「お姉ちゃんの部屋」
「……」
なぜだろう。
その笑顔に少しだけ不安を感じた。
その時だった。
「あ」
廊下の先に見覚えのある姿があった。
「ナビキ」
入来院流響。
相変わらず、表情が読めない。
「こんにちは」
月依が頭を下げる。
「こんにちは」
ナビキも短く返した。
そして。
「これ」
ナビキが月依へ一枚のカードを差し出した。
「?」
月依が何かを受け取る。
「名刺?」
「そう」
そこには名前が書かれていた。
『入来院流響』
月依はその文字を見る。
そして。
「いりきいん、なびきさん?」
普通に読んだ。
「……」
ナビキが少しだけ目を細める。
「読めるんだ……」
「え?」
「初見で」
月依は首を傾げる。
「難しいお名前なんですか?」
私は思わず口を挟んだ。
「いや、月依」
「?」
「普通は迷うと思う」
「そうなの?」
「そうだよ」
ナビキを見る。
普段ほとんど変わらない表情。
でも。
今だけは少しだけ驚いている気がした。
「珍しい名字と名前だから」
ナビキが言う。
月依は小さく笑った。
「本で見たことがあっただけです」
「それを覚えてるのがすごいんだよ」
私は言う。
「月依って、そういうところあるよね」
「どういうところ?」
「普通にすごいことするのに、自分では普通だと思ってるところ」
「お姉ちゃんもだよ」
「私は違う」
「違わないよ」
即答だった。
……最近、これ多いな。
「じゃあ」
ナビキが言う。
「また」
「うん」
短いやり取りのあと、ナビキは去っていった。
◇◇◇
「着いたよ」
「お邪魔します」
そして。
私は部屋の扉を開けた。
「……」
「……」
月依が黙る。
嫌な沈黙だった。
「お姉ちゃん」
「はい」
「ここに住み始めて何日?」
「一週間も経ってない」
「……」
月依は部屋を見る。
床に置かれた荷物。
机の上に積まれた書類。
整理途中の服。
自分では気付いていなかった。
いや。
気付いていたけど、見ないようにしていた。
「……」
「お姉ちゃん、片付けよう」
「ですよね」
月依は即答だった。
「まだ仕事も始まったばかりなんだから」
「うん」
「生活環境は大事」
「はい」
「お姉ちゃん」
「なに?」
「まずは床を見えるようにしよう」
「そこから!?」
こうして。
私の休日は。
妹による部屋掃除の日になった。
……新人OLって、もっとこう。
仕事のできる大人っぽい感じじゃなかったっけ?




