第二十三話 週末の妹は〇〇
「次はこっち!」
月依に手を引かれながら商店街を歩く。
「まだあるの?」
「あるよ!」
「今日は一日じゃ足りないくらい案内するんだから!」
「宣言しちゃった」
思わず笑う。
月依は昔から、楽しみなことがあると止まらない。
◇◇◇
「ここ」
案内されたのは、小さなパン屋さんだった。
木造の可愛らしい店構え。
扉を開けると、焼きたてのパンの香りが広がる。
「あら」
店員さんが月依に気付いて笑顔になる。
「あら、月依ちゃん」
「こんにちは」
「今日はお姉さんと一緒なの?」
「うん!」
嬉しそうに頷く月依。
「私のお姉ちゃんです!」
「初めまして」
私が軽く頭を下げると、店員さんも笑顔で会釈した。
「いつも月依ちゃんにはお世話になってるの」
「え?」
思わず聞き返す。
「よくお店を手伝ってくれるのよ」
「手伝い?」
「忙しい時間だけだけど」
月依は少し照れくさそうに笑う。
「パンを並べたり、お掃除したり」
「勉強になるから」
「初耳なんだけど」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない」
「えへへ」
笑ってごまかされた。
◇◇◇
パンを買って店を出る。
「そんなことしてたんだ」
「うん」
「お店のおばさん、すごく優しくて」
「暇な日に顔を出してたら、そのままお手伝いするようになったの」
「へぇ」
知らなかった。
月依は学校へ通っているだけじゃない。
ちゃんと、この街で生活していたんだ。
「あとね」
「ん?」
「向こうのお花屋さんも仲良し」
「八百屋さんも」
「本屋さんも」
「知り合い多くない?」
「え?」
月依はきょとんとした。
「普通じゃない?」
「いや、私はまだ会社と学園しか知らないよ」
「そうなの?」
「そうなの」
すると月依は少し考えてから笑った。
「じゃあ、もっと案内しないと」
「まだ増えるの?」
「もちろん!」
なんだか観光ガイドみたいだ。
◇◇◇
歩いていると、向こうから女子生徒が二人歩いてきた。
「あっ」
一人が月依に気付く。
「月依先輩!」
「こんにちは」
月依も自然に手を振る。
「こんにちは」
二人は私を見る。
「もしかして……」
「お姉さん?」
「うん」
「霧島陽花です」
二人はぱっと表情を明るくした。
「やっぱり!」
「月依先輩からよく聞いてます!」
「え?」
私は月依を見る。
「そんなに話してるの?」
「えっ」
月依の動きが止まる。
「そ、その……」
「毎日のように」
後輩が笑顔で答えた。
「『今日はお姉ちゃんから返事が来た!』とか」
「『今度お姉ちゃんが来るかもしれない!』とか」
「『うちのお姉ちゃんはね』って」
「ちょっ……!」
月依の顔がみるみる赤くなる。
「そ、それ以上は!」
「えー」
「秘密です」
二人は楽しそうに笑って去っていった。
少しの沈黙。
私は隣を見る。
月依は真っ赤な顔のまま俯いていた。
「……そんなに話してたの?」
「……」
「月依?」
「……してた」
消え入りそうな声だった。
「だって」
照れ笑いを浮かべる。
「自慢のお姉ちゃんだから」
その一言に。
私は、返す言葉を見つけられなかった。




