第二十二話 週末の神様は〇〇
「こっちだよ、お姉ちゃん!」
月依の後を追いながら、休日の街を歩く。
平日とは違って、通りはたくさんの人で賑わっていた。
「すごい人だね」
「休日だからね」
「学園の子も、お仕事がお休みの人も、みんな街へ出てくるの」
「なるほど」
言われてみれば、制服姿の生徒もいれば、スーツ姿の社会人もいる。
会社員と学生が自然に同じ街を歩いている光景も、この国では当たり前なんだ。
「まずはここ!」
月依が立ち止まった。
目の前には、休日らしい賑わいを見せる商店街。
「市場?」
「商店街だよ」
「高天原で採れた物も、日本から入ってきた物も売ってるの」
「へぇ」
歩くだけでも楽しい。
見たことのない果物。
神獣を模したお菓子。
不思議な香辛料。
そして、その隣には見覚えのある日本のお菓子まで並んでいた。
「あっ」
思わず足が止まる。
「これ、日本のお菓子」
「人気なんだよ」
「輸入品だから少し高いけど」
「やっぱりあるんだ」
なんだか少し安心した。
「食べる?」
「いや、今日はいいかな」
「寮でも食べられるし」
「そうだね」
月依が笑う。
◇◇◇
しばらく歩いていると、一軒のお店の前で月依が止まった。
「ここ!」
看板には可愛らしい神獣のイラスト。
「何のお店?」
「クレープ!」
「……クレープ?」
「神様も甘いもの好きだから」
「そこ、日本と変わらないんだ」
「変わらないよ!」
月依は即答した。
「甘いものは世界を救うもん」
「その理論、どこかで聞いたことあるような……」
誰だったかな。
『百合は万病に効く』くらい強引な理屈だった気がする。
「お姉ちゃん?」
「いや、何でもない」
危ない。
ちょっと変な方向へ思考が飛びかけた。
◇◇◇
二人でクレープを受け取り、近くのベンチへ座る。
「いただきます」
「いただきます」
一口食べる。
「美味しい」
「でしょ!」
月依が嬉しそうに笑う。
自分が作ったわけじゃないのに、なぜか誇らしげだ。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「会社はどう?」
「楽しいよ」
「暴発もしたけど?」
「したね」
「歓迎会でもしたんだよね?」
「思い出させないで」
月依がくすくす笑う。
「でも」
「うん?」
「前より笑うようになった」
「え?」
「高天原へ来たばかりの頃より」
「そうかな」
「うん」
そんな自覚はなかった。
でも、月依が言うならそうなのかもしれない。
◇◇◇
そのとき。
「お?」
聞き覚えのある声がした。
「陽花はん?」
振り向くと、ヒルコちゃんが紙袋を抱えて立っていた。
「あっ、ヒルコちゃん!」
「やっぱりや!」
ヒルコちゃんはにっと笑う。
「デート中かいな?」
「違うよ!」
「姉妹でお出掛け」
「なんや、安心した」
「何に安心したの?」
「いや、なんとなくなー」
そう言いながら紙袋を持ち上げる。
「ウチはゲームショップ寄ってきた帰りや」
「休日らしいね」
「せやろ?」
するとヒルコちゃんは紙袋の中をちらっと見て、
「……しもた」
「どうしたの?」
「限定グッズ買うの忘れとった」
「今気付く!?」
「うわー!」
そのまま踵を返して全力疾走。
「急がな売り切れる!」
「頑張ってー!」
月依が手を振る。
あっという間に人混みへ消えていった。
「……忙しい子だね」
「うん」
「でも、あれがヒルコちゃん」
二人で顔を見合わせて笑う。
こうして休日に偶然会うくらいには、少しずつ知り合いも増えてきた。
異世界。
神様。
会社。
学園。
まだ知らないことばかりだけど。
少しずつ、この街が『知らない場所』じゃなくなってきている。
そんな気がした。




