第二十一話 週末のはじめては〇〇
土曜日。
高天原へ来て初めての休日だった。
「休みだ……」
思わず伸びをする。
会社もない。
学園もない。
目覚まし時計に起こされない朝なんて、いつぶりだろう。
とはいえ、今日は寝ている場合じゃない。
昨夜、月依からメッセージが届いていた。
『十時に中央広場で待ってるね!』
「……相変わらずだなぁ」
待ち合わせ時間だけ書いてある。
どこへ行くのかは一切書いていない。
サプライズのつもりなんだろうか。
私は苦笑しながら身支度を済ませ、社員寮を出た。
◇◇◇
休日の高天原は、平日より少しだけのんびりしていた。
中央広場へ向かって歩いていると、自然と昔のことを思い出す。
高校へ入学するとき、私は実家を出て一人暮らしを始めた。
通学時間も長かったし、高校を卒業したらそのまま就職するつもりだったからだ。
月依は中学二年生。
もう子どもじゃない。
だから、大丈夫だと思っていた。
『頑張ってね、お姉ちゃん。』
そう笑って送り出してくれるものだと。
……甘かった。
出発の日。
『……やっぱりやだ。』
玄関で制服の袖をぎゅっと掴まれた。
『お姉ちゃんと、ずっと一緒にいたい……。』
「月依」
『やだ……。』
『行かないで……。』
そこから先は、もう大号泣だった。
母は困り顔。
父はオロオロ。
私はというと。
「……電車、間に合うかな」
時計ばかり気にしていた。
今思えば最低である。
結局、その日は一本遅い電車で学校へ向かった。
「ごめんね」
あの時は照れくさくて言えなかったけど。
今なら、ちゃんと謝れる気がする。
◇◇◇
高校三年の九月。
母から電話があった。
『月依ね、遠い国へ留学することになったの。』
「留学?」
『そう。しばらく帰ってこられないみたい。』
遠い国。
そう聞いただけで、詳しいことは教えてもらえなかった。
『お姉ちゃん、ちょっと留学してくるね』
そう言い残して家を出たらしい。
私は「そうなんだ」と返事をした。
その頃は就職活動の真っ最中。
履歴書を書いて。
面接を受けて。
会社説明会へ行って。
一日があっという間だった。
「落ち着いたら連絡しよう」
そう思っていた。
でも、その"落ち着いたら"は来なかった。
そして私は就職して。
気が付けば、その「遠い国」で月依と再会していた。
「人生って分からないなぁ」
異世界へ就職するなんて、あの頃の私が聞いたら笑うだろう。
……いや、笑ったあとに絶対信じない。
◇◇◇
「あっ!」
聞き慣れた声が響く。
「お姉ちゃん!」
中央広場の噴水の前で、大きく手を振る月依が見えた。
「ごめん、お待たせ」
「ううん!」
月依はにこにこと笑う。
「私も今来たところ!」
たぶん嘘だ。
昔から月依は待ち合わせの三十分前には着くタイプだった。
でも、それを指摘するのは野暮な気がした。
「今日はね」
月依が嬉しそうに笑う。
「お姉ちゃんに見せたい場所があるの」
「楽しみにしてる」
「えへへ」
その笑顔を見ていると、自然と私まで笑顔になる。
離れていた時間は、きっと簡単には埋まらない。
でも。
焦る必要もないのかもしれない。
今日は休日。
まずは月依の話を聞きながら、ゆっくり歩いてみよう。
そう思いながら、私は月依の隣へ並んだ。




