第十九話 新入生の歴史講座は〇〇
昼休みが終わり、午後最初の授業。
教室へ戻ると、キクリ先生が黒板へ大きく文字を書いた。
『高天原の歴史』
「それでは午後の授業を始めます」
「今回は実技ではなく座学です」
その一言で、教室のあちこちから安堵の声が漏れた。
「助かったー」
「今回は測定器もない」
ヒルコちゃんが私を見る。
「陽花はんも安心やな」
「なんで私限定なの?」
「だって実技になると何か起こるし」
「起こしたくて起こしてるわけじゃないから!」
教室から笑いが起こる。
キクリ先生も小さく笑った。
「霧島さん」
「はい」
「今回は安心してください」
「皆さんが壊れる心配はありません」
「先生、今ちょっと言い直しましたよね?」
「気のせいです」
……絶対気のせいじゃない。
◇◇◇
「では本題です」
先生は黒板へ『日本』と書き足した。
「高天原と日本」
「昔から交流のある二つの国ですが、現在も様々な分野で協力関係にあります」
「ただし」
「自由に行き来できるわけではありません」
「交流できる場所や施設は限られています」
私は小さく頷く。
社員寮では日本のテレビも映らない。
私が知っている限り、日本と直接通信できるのは研究部の一部設備くらいだ。
異世界と日本は繋がっている。
でも、思っていたよりずっと距離がある世界なんだ。
◇◇◇
一人の生徒が手を挙げた。
「先生」
「はい」
「日本のイベントって行けるんですか?」
「許可が下りれば可能です」
「やった!」
教室が少しざわつく。
「ただし、仕事や研修など正当な理由が必要です」
「観光は?」
「基本的には認められません」
「あー……」
あちこちから残念そうな声が上がる。
するとヒルコちゃんが手を挙げた。
「先生」
「はい」
「ゲームの期間限定イベントでもあきません?」
「駄目です」
「刀ガチャが終わってまうんやけど」
「ヒルコさん」
「はい」
「それは高天原でも引けます」
「それもそうや」
教室がどっと笑う。
……え?引けるの?
後で詳しく教えてもらおう。
◇◇◇
別の席から声が上がる。
「先生!」
「日本のアイドルのライブは!」
「抽選に当たれば参加できます」
「神様でも抽選なんですね」
「神様でも運営には勝てません」
一瞬静まり返り、
「確かに」
「それは無理や」
教室中が笑いに包まれた。
先生も肩をすくめる。
「神様にもどうにもできないことはあります」
「意外です」
「むしろ結構あります」
◇◇◇
笑いが落ち着いたところで、キクリ先生は黒板の中央へ一行だけ書いた。
『世界が違えば、常識も違う。』
「今日、一番覚えてほしいのはこれです」
「文化も」
「価値観も」
「生活も」
「どちらが正しい、ではありません」
「違うことを知る」
「それが交流の第一歩です」
教室が静かになる。
私はノートへ、その一文を書き写した。
異世界へ来てまだ数日。
驚くことばかりだった。
でも。
向こうから見れば、私もきっと『不思議な日本人』なんだろう。
「それでは最後に」
キクリ先生が教科書を閉じる。
「確認問題を一問だけ出します」
「テストじゃないですよね?」
誰かが恐る恐る聞く。
「安心してください」
先生はにこりと笑った。
「採点するだけです」
「それテストやーーっ!」
教室中にツッコミが響き、午後の授業は笑い声のまま続いていった。




