第十八話 新入生は炎のような〇〇
「それでは午前の授業はここまでです」
キクリ先生の一言で、教室が一気に賑やかになる。
「お昼や!」
ヒルコちゃんが勢いよく立ち上がる。
「陽花はん、食堂行こ!」
「うん」
私たちは教室を出た。
廊下へ出た瞬間だった。
「いた」
「測定器止めた人だ」
「三日前のロウソクの人」
「やっぱり教育部の研修生なんだ」
ひそひそ。
ざわざわ。
歩くたびに視線が集まる。
「……うぅ」
思わず俯く。
「なんか、歩きづらい……」
「もう気にしたら負けやで」
ヒルコちゃんはいつも通りだった。
「学園なんて毎日なんかしら噂あるし」
「そうなの?」
「せや」
「今日は陽花はん。
明日は別の誰か。
明後日は先生」
「先生まで!?」
月依が小さく笑う。
「慣れるしかないかな」
「月依は平気なの?」
「うん」
「入学した頃は、私もずっと見られてたから」
そうだった。
月依は学園でも有名人なんだ。
「サクヤちゃんも?」
「ええ」
サクヤちゃんも苦笑する。
「家のこともありますから」
なるほど。
この二人は注目されることに慣れているんだ。
「陽花はんも、そのうち慣れるって」
「慣れたくないなぁ……」
そんなことを話しながら食堂へ入る。
◇◇◇
広い食堂は今日も大勢の生徒で賑わっていた。
その時。
「号外ーっ!」
食堂中に元気な声が響く。
「本日午前、測定器が限界突破!彼女の戦闘力は53万です!!
教育部新人研修生、またしても伝説更新!」
言いたいことはいっぱいあるけど。
私はフリー●様じゃありません。
人混みをかき分け、一人の少女が走ってきた。
炎のように鮮やかな赤いポニーテール。
目にも止まらない勢いで、生徒たちへ紙を配っていた。
「はい特報!
はい号外!
今日のお昼のお供にどうぞ!」
「また号外出してる……」
誰かが苦笑する。
「朝の授業だけで記事一本書けるなんて最高!」
少女は満面の笑みだった。
そして。
「あ」
私と目が合う。
一瞬だけ止まり。
にやり、と笑う。
「見ーつけた!」
「え?」
一直線。
迷いなくこちらへ走ってくる。
「やっぱり本物だ!」
「月依!」
いきなり月依へ話しかける。
「この前のお姉さん!」
「うん」
月依が苦笑する。
「紹介するね。
私のお姉ちゃん。
霧島陽花」
「やっぱり!」
赤髪の少女は嬉しそうに拳を握る。
「スクープの本人だ!」
「人を事件みたいに言わないで!」
「え?」
本気で首を傾げる。
「事件じゃないの?」
「違うよ!」
「でもロウソク飛ばして。
測定器止めて。
十分ニュースだよ?」
「ひ、否定できない……」
思わず言葉に詰まる。
少女はぱっと笑顔になった。
「私!」
胸を張る。
「アカリ=マスミダ!
学園非公式新聞部!」
「非公式なの?」
「うん!」
「勝手に作った!」
「勝手なんだ!?」
「部員一人!」
「それ部なの!?」
ヒルコちゃんが吹き出した。
「アカリ、また新聞配っとる」
「もちろん!」
アカリは得意げに頷く。
「事実は一秒でも早く伝えないと!」
「そんな報道精神いらん!」
「ちなみに今朝の測定器事件は食堂に来るまでに三百部配った!」
「三百部!?」
「もう四百部刷ろうか悩んでる!」
「増刷しなくていいから!」
食堂中から笑いが起こる。
アカリは満足そうに腕を組んだ。
「うんうん」
「やっぱり陽花は期待を裏切らない!」
「期待された覚えないよ!」
「これから毎日取材させてもらうね!」
「嫌な宣言聞こえた!」
「大丈夫!」
アカリは親指を立てる。
「記事になるようなことがなかったら!」
一拍置いて。
「私が探しに行くから!」
「それ一番駄目なやつ!」
ヒルコちゃんがお腹を抱えて笑う。
月依は「また始まった」というように苦笑し、サクヤちゃんも口元を押さえて笑っている。
私は今日初めて理解した。
――この学園で一番恐ろしいのは。
暴発でも。
神様でもない。
ネタを見つけると一直線に突っ込んでくる、自称『学園非公式新聞部』だった。




