第十六話 新入社員の教育部は〇〇
昼休みが終わると、新人社員全員が研修室へ集められた。
「それじゃあ、午後の研修を始める」
前へ立ったのは福山課長だった。
「配属先も決まったところで、今日は各部署の仕事を簡単に説明する」
スクリーンに高千穂の組織図が映し出される。
「営業部。日本や各機関との窓口だ」
「総務部。社員の生活や施設の管理」
「開発部。新しいデバイスの設計・製造」
「研究部」
ここで課長が少しだけ笑った。
「デバイスやカムイの研究を担当する。変わり者は多いが腕は確かだ」
前の席でナビキさんが小さく瞬きをした。
……否定はしないんだ。
研修室に小さな笑いが起こる。
「そして教育部。学園との連携、教材制作、授業支援などを担当する部署だ」
説明はそれだけだった。
思っていたよりずっと短い。
「各部署の詳しい業務については、配属先で覚えてもらう。以上」
それだけ言うと、課長は資料を閉じた。
「では解散」
新人たちが次々と立ち上がる。
「陽花」
柚木さんに呼び止められた。
「少しだけ時間ある?」
「はい」
◇◇◇
研修室に残ったのは私と柚木さんだけだった。
「さっき課長の説明、短いと思ったでしょ」
「……ちょっとだけ」
正直に答える。
「教育部って、具体的に何をする部署なんだろうって」
柚木さんは椅子へ腰掛けた。
「教育部はね」
「先生になる部署じゃない」
「え?」
「よく勘違いされるけど、ボクたちは教師じゃない。
教材を作る。
授業の補助をする。
実習を企画する。
学生の進路相談も手伝う。
学園と会社を繋ぐ仕事。
だから教育部なんだ」
「なるほど……」
先生ではなく、教育を支える仕事。
言われてみれば会社らしい。
「でも、一つだけ特殊なことがある」
「特殊?」
「教育部の新人は、半年間だけ学園へ通う」
「半年!」
「うん」
柚木さんは頷く。
「神様の子どもたちを支える仕事なのに、神様の文化を知らなかったら困るでしょ?」
「確かに」
「だから会社で働きながら学ぶ。
それが教育部の新人研修」
私は昨日の授業を思い出した。
「じゃあ、これからもしばらく学園なんですね」
「そう」
柚木さんはスケジュール表を一枚渡してくれた。
そこには一週間の予定が書かれている。
月・水・木──会社
火・金──学園
「週三日は会社。
週二日は学園。
これが当分の基本」
「結構忙しいですね」
「でも、その分いろんなことが学べる」
私はスケジュールを眺める。
明日は学園の日だった。
◇◇◇
「あの」
前から気になっていたことを聞いてみる。
「月依たちと同じ教室で授業を受けてましたよね?」
「私は会社員なのに、大丈夫なんですか?」
「そこもよく聞かれる」
柚木さんは笑った。
「学園にはホームルーム用のクラスはある」
「でも授業は単位制に近い」
「単位制?」
「実技や専門科目は、学年じゃなく履修している人で教室を編成する」
「だから一年生も」
「二年生も」
「社会人研修生も」
「同じ授業を受けることがある」
「そういうことだったんですね!」
一昨日は何も疑問に思わなかったけど、言われてみれば不思議な光景だった。
「教育部の新人は、履修する授業も会社が決めてる。
だから陽花は月依さんたちと一緒の授業が多いと思うよ。
月依さんは優秀だから。
教わることも多いかもしれないね」
「妹から教わるのは……ちょっと複雑です」
「ふふっ」
柚木さんが珍しく声を出して笑う。
「でも、それも研修。
年齢も立場も関係なく学ぶ。
それが高天原学園だから」
会社員なのに学生。
学生なのに社会人。
最初は不思議だったその生活も、少しずつ形が見えてきた。
私は手元の予定表を見る。
明日は学園。
今度はどんな一日になるんだろう。
少しだけ楽しみな自分がいた。




