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【毎日19時更新】異世界就職したら『歩く人間凶器』でした ~普通に働きたい新人社員、出社しながら神様の学園に通っています~  作者:
第一章

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第十五話 新入社員の昼は〇〇

 朝の仕事も一段落したお昼前。


「陽花」


 柚木さんに呼ばれる。


「この資料、研究部へ届けてもらえる?」


「研究部ですか?」


「うん。場所を覚えるのも研修だから」


「分かりました!」


 私は資料を抱えて研究部へ向かった。


 ◇◇◇


 研究部は教育部の隣の棟にあった。


 自動ドアが開くと、空気が少し違う。


 静かだ。


 カタカタ、とキーボードを叩く音だけが響いている。


 部屋のあちこちには見たことのないデバイス。


 壁一面の大型モニター。


 難しそうな数式。


「なんだか大学の研究室みたい……」


 思わず呟く。


「あの」


 近くの研究員へ声を掛ける。


「教育部の霧島です。柚木さんから資料を預かってきました」


「ああ」


 研究員は部屋の奥を指差した。


「ナビキに渡して」


「ナビキ?」


「その机」


 窓際の机へ目を向ける。


 一人の女性がモニターを見つめたまま、信じられない速さでキーボードを叩いていた。


 黒髪のセミロング。


 白衣姿。


 細身で、机の周りだけ資料の山ができている。


「あの……」


 女性が手を止める。


 ゆっくりこちらを向いた。


「教育部から資料です」


「ありがとう」


 短く答えて受け取る。


 そのまま仕事へ戻ろうとして。


 ふと、私を見る。


「新人」


「あ、はい!霧島陽花です」


 女性は名刺を差し出した。


『入来院 流響』


「…………」


 数秒、固まる。


「読めませんよね」


「すみません」


「ナビキでいいです」


「あ、ありがとうございます!」


「その反応、よく見ます」


 声は淡々としている。


 でも、少しだけ慣れているようだった。


「社員証もメールもナビキでいいのに。その方が早い」


「確かに……」


 私なら毎回噛みそうだ。


「同期。よろしく」


「はい! よろしくお願いします!」


 やっと同期と話せた。


 少しだけ嬉しい。


「教育部……昨日、歓迎会」


「はい」


「祝砲」


「……」


 やっぱり知ってる。


「見てました?」


「見てた」


「恥ずかしい……」


「きれいだった」


「慰めになってません!」


「慰めてない」


「ですよね!」


 無表情のまま返されると、余計に面白い。


 その時だった。


 机の端末が、小さく音を鳴らした。


 ピコン。


 ナビキさんの目が、ほんの少しだけ開く。


「始まった」


「何がですか?」


「イベント」


「研究のですか?」


「ゲーム」


「ゲーム?」


 ナビキさんは周囲をちらりと見回す。


 誰も気にしていないことを確認すると、端末の画面を切り替えた。


 そこには日本語で書かれたゲームの画面。


「えっ、日本のゲーム!?」


「研究部には日本との専用回線がある」


「セキュリティ検証用」


「なるほど……」


 一瞬納得しかける。


「昼休みだけ借りてる」


「私用じゃないですか!」


「昼休み」


「それでも!」


「期間限定イベント」


「今日まで」


「……それは大事ですね」


 思わず頷いてしまった。


「陽花さん」


「はい?」


「ゲームする?」


「結構好きです」


 ナビキさんは、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「同志」


 その一言だけだった。


 でも、なんだか嬉しかった。


 その時。


「ナービキー!」


 研究室の奥から女性研究員の声が飛ぶ。


「また回線でゲームしてる!」


「昼休み」


「そういう問題じゃない!」


「業務に支障なし」


「規則には支障あるの!」


 研究室に小さな笑いが広がる。


 どうやら、このやり取りは日常らしい。


「……研究部って、もっと堅い部署だと思ってました」


「仕事中は堅い」


 ナビキさんは画面から目を離さず答える。


「昼休みは、そうでもない」


 その温度差が、なんだか面白かった。


 そして私は、この日最初の研修目標を達成する。


 同期の名前を、一人覚えた。


 ――もっとも。


 覚えたのは「入来院流響」じゃなくて。


『ナビキ』だったけれど。

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