第十二話 新入社員の歓迎会は〇〇
とまぁ、自分で思い返しても、ものすごく恥ずかしいモノローグをしてしまったわけですが。
社会人は感傷に浸る暇もなく、一日が過ぎていく。
定時。
「陽花」
帰る支度をしていると、柚木さんが声を掛けてきた。
「このあと予定ある?」
「特にないです」
「じゃあ、そのまま歓迎会へ行こう」
「歓迎会?」
「うん」
柚木さんはデスクの引き出しを閉めながら頷いた。
「今日から本格的に各部署へ配属された新人の歓迎会」
「今日から……?」
「一昨日は入社手続きや会社の説明」
「昨日は教育部なら学園、他の部署もそれぞれ研修や準備期間」
「そして今日が、各部署での本格的な仕事初日なんだ」
「なるほど」
そういう流れだったのか。
「営業部、開発部、研究部、総務部……」
「みんな今日がスタートライン」
「教育部は君一人だから、ボクが研修担当」
「やっと全部繋がりました」
「繋がってよかった」
柚木さんは小さく笑った。
「同期もたくさんいるから、あとで話してみるといい」
「はい!」
◇◇◇
歓迎会の会場は、高千穂本社の社員食堂だった。
「広っ!」
思わず声が漏れる。
食堂というより、高級ホテルのパーティー会場だ。
長いテーブルには豪華な料理が並び、あちこちでスーツ姿の新人たちが緊張した面持ちで立っている。
「みんな緊張してますね」
「初日だからね」
営業部の新人。
研究部の新人。
開発部の新人。
みんな年齢も雰囲気も様々だ。
少しだけ安心した。
緊張しているのは私だけじゃない。
「それでは!」
福山課長が前へ出る。
会場が静まり返る。
「本日より、それぞれの部署へ正式配属となった新人諸君!」
「改めて、おめでとう!」
拍手が響く。
「同期は一生の財産だ!」
「部署は違っても、困ったら助け合ってくれ!」
再び拍手。
「では続いて、新人代表から一言」
代表?
誰だろう。
福山課長が紙を見る。
「教育部」
「霧島陽花さん」
「…………え?」
一斉に視線が私へ集まる。
「なんで私なんですか!?」
思わず立ち上がる。
福山課長は悪びれもせず答えた。
「くじ引き」
「くじ!?」
「公平だろ?」
「公平ですけど!」
私は柚木さんを見る。
「助けてください!」
「ボクも今知った」
「ですよね!」
「頑張れ」
助けてくれなかった。
私は観念して前へ出る。
マイクを受け取る。
緊張する。
昨日の自己紹介以上に緊張する。
「えっと……」
深呼吸を一つ。
「本日は、このような歓迎会を開いていただき、本当に――」
ピピッ。
「……え?」
腰のデバイスが光った。
まさか。
いや。
お願いだから。
「待っ――」
ドォォォォン!!
眩しい閃光が天井へ一直線に突き抜けた。
衝撃波で紙コップが宙を舞い、テーブルクロスがばさりと揺れる。
幸い、料理にも人にも被害はない。
でも。
会場は水を打ったように静まり返った。
「…………」
私はマイクを握ったまま固まる。
「……その」
恐る恐る口を開く。
「景気づけ……ということで」
一秒。
二秒。
そして。
「ぶはははは!」
福山課長が腹を抱えて笑い出した。
「歓迎会で祝砲を上げる新人は初めてだ!」
その一言をきっかけに、会場中が大爆笑に包まれる。
「教育部すごいな!」
「景気良すぎる!」
「今年の新人代表、忘れられないぞ!」
「忘れてください!」
私の悲鳴すら笑い声にかき消された。
その横で、柚木さんは眼鏡を押し上げ、小さく息をつく。
「陽花」
「はい……」
「今日の研修内容、覚えてる?」
「失敗したら片付ける、です」
「その通り」
柚木さんは床へ落ちた紙コップを一つ拾い、私へ差し出した。
「新人研修、その三」
「はい」
「失敗しても、次に同じ失敗をしなければいい」
私は紙コップを受け取り、小さく頷いた。
「……はい」
私は紙コップを拾いながら苦笑した。
歓迎会で祝砲を撃った新人なんて。
きっと、後にも先にも私だけだろう。
……できれば、一度きりにしたい。




