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【毎日19時更新】異世界就職したら『歩く人間凶器』でした ~普通に働きたい新人社員、出社しながら神様の学園に通っています~  作者:
第一章

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第十一話 新入社員の基本は〇〇

 翌朝。


 私は高千穂日本支社の扉を開けた。


「おはようございます!」


「おはよう」


 真っ先に返事をくれたのは、黒髪ロングに眼鏡を掛けた女性だった。


 スーツ姿がよく似合う、いかにも仕事のできそうなお姉さん。


 宮内柚木さん。


 昨日顔を合わせた先輩社員だ。


「緊張してる?」


「少しだけ」


「それなら安心」


「え?」


「新人はみんなそうだから」


 柚木さんは柔らかく笑った。


「緊張してない新人の方が心配になる」


「そういうものですか?」


「そういうもの」


 少しだけ肩の力が抜けた。


 すると奥の会議室から那直さんが姿を見せる。


「おはよう、陽花ちゃん」


「おはようございます!」


「今日から研修は柚木に任せるよ」


「え?」


「ボクは今日、一日会議だから」


「何かあったら全部柚木へ」


「分かりました」


 那直さんは柚木さんを見る。


「よろしく」


「任せて」


 短いやり取りだけ残して、那直さんは再び会議室へ入っていった。


「部長って忙しいんですね」


「うん」


 柚木さんは頷く。


「だから新人教育はボクの担当」


 そう言って社員証を首から下げ直す。


「さて」


「今日の仕事だけど」


 私は少し身構えた。


 昨日は暴発した。


 今日は絶対に失敗したくない。


「まずは会社を覚えよう」


「あれ?」


 思わず声が漏れる。


「魔物退治とかじゃないんですか?」


「ここ会社だから」


 即答だった。


「まずは備品庫」


「はい」


「書類保管室」


「はい」


「休憩室」


「はい」


「食堂」


「はい」


「以上」


「普通!」


 思わず叫んでしまった。


「異世界なのに普通!」


 柚木さんは吹き出した。


「異世界でも会社は会社だよ」


「夢がない……」


「新人の仕事なんて、どこの世界でも地味なものさ」


 確かにその通りだった。


 まず案内された備品庫には、コピー用紙やファイルが山のように積まれていた。


「こっちは文具」


「こっちは社用デバイス」


「非常用カムイ触媒」


「最後だけ急に異世界ですね」


「そこは異世界だから」


 思わず笑ってしまう。


 少しずつ緊張がほぐれてきた。


「次は書類保管室」


 棚いっぱいに並ぶファイルを見て、私は思わず固まった。


「多い……」


「社員全員、一度はそう言う」


「全部読むんですか?」


「読まない」


「よかった」


「必要な時に探せるようになる」


「難易度上がってません?」


「仕事だからね」


 容赦ない。


「じゃあ、この棚のラベルを貼り替えてみようか」


「はい!」


 これなら大丈夫。


 デバイスも使わない。


 暴発もしない。


 私は新しいラベルを受け取り、一番上の棚へ手を伸ばした。


 あと少し。


 届く。


 その瞬間。


 ぐらっ。


「あ」


 踏み台がわずかに揺れた。


 バランスを崩す。


「あわわっ!」


 慌てて棚を掴んだ。


 ガタン。


 一冊のファイルが落ちる。


 それにぶつかって二冊目。


 三冊目。


「あ」


 嫌な予感しかしない。


 バサバサバサッ!!


 棚いっぱいのファイルが雪崩のように床へ落ちた。


「…………」


 静まり返る保管室。


 私はゆっくり柚木さんを振り返る。


「えっと」


「まだ」


 柚木さんは眼鏡を押し上げた。


「デバイスは使ってないよね?」


「はい……」


「つまり」


 一拍置く。


「今回は純粋にドジだね」


「そっちの方が恥ずかしいです!」


 私の叫び声が保管室に響いた。


 柚木さんは少しだけ笑うと、散らばったファイルを拾い始めた。


「新人研修、その一」


 一冊を私へ渡す。


「失敗したら、片付ける」


「はい……」


「新人研修、その二」


「はい」


「一人で片付けない」


「え?」


「困ったら周りを頼る」


 そう言って柚木さんもしゃがみ込む。


「会社は一人で働く場所じゃない」


 私は受け取ったファイルを抱え、小さく頷いた。


「……はい」


 昨日の学校では、暴発して笑われた。


 今日の会社では、ドジをして助けられた。


 異世界でも社会人は大変らしい。


 でも。


 少しだけ。


 明日も頑張ってみよう。


 明日もきっと、ここへ来る。


 ――それが、私の仕事だから。

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