55.行ったりと来たり
「なに…今の音…」
秘密基地の入り口側から、大きな衝撃音が響いた。奥にいたシン達は慌てて引き返す。
そうして仮眠用のベッドがある場所まで戻ると、アメスケとフリッカーの二人が、入り口の方を向いて立ち上がって、強い警戒心を漂わせていた。
フォースが声をかける。
「フリッカー、さっきのはなんの音だ?」
「分からへん…カジリが見に行ったで」
フリッカーがそう答えてすぐ、入り口を確認しに行った、カジリの声がこだました。
「星封堂です!入ってきました!」
「まずいな…」
「ここは安全なんでしょ⁉︎」
「そのはず…だけど、入るところを見られていたのかも知れない」
星封堂の連中はなんらかの方法でこの場所を見つけ、入り口の墓石を破壊して侵入したようだ。
「数が多い!」
またカジリの声が秘密基地に響いた。その報告を聞き、フォースは指示を出す。
「フリッカー、カジリと協力してアイツらを押しとどめろ」
「任せい」
フリッカーは、既に戦闘中と見られるカジリの元へ走って行った。そしてフォースは、次にシン達へ声をかける。
「巻き込んでしまってすまない。あんたらは奥にいてくれ。奴らを始末したらここを出よう」
「…わかった」
シン達四人は言われた通り、基地の奥へ走る。だがフォース以外にも、それを見送る人物がいた。
「大変そうだなフォース。ま、他人事じゃねーか」
コメットだ。彼は足を大きく広げて、椅子に座ったままタバコを吸っている。
「…コメットさん、手を貸してもらえますか?」
「それって依頼?」
「はい、金は後で払います」
「…俺は探偵なんだけどなぁ」
コメットは自身の手のひらでタバコを消すと、あごをかきながら腰を上げ、フォースと二人で基地の入り口へと向かった。
一方、基地の奥に逃げたルー達は、転送装置の近くに身を隠していた。
「大丈夫かな…」
大勢と戦っているフォース達を心配するルー。彼はここで隠れていることに後ろめたさがあった。
ルーは誘拐されて連れてこられたので、実際には一方的に迷惑をかけられている訳なのだが、身の上話を聞いたことで、彼らに情が湧いたのだ。
それゆえ助力したいとは思っているが、かと言って戦うのも怖い。
そんなルーの気持ちは露知らず、キャロルが口を開く。
「ねぇ、言われたまま逃げちゃったけど、私達も加勢すべきじゃない?」
キャロルには、フォース達への罪悪感などもちろん無い。
だが入り口で戦っている彼らが倒れると、間違いなく星封堂の連中はここまで入ってくる。話を聞くに、相手はかなり危険な集団だ。見つかれば何をされるか分からない。
そうなるくらいならフォース達と共に戦って、この状況を打破しようと考えたのだ。
「そうですよね、俺も…戦うのは怖いけど、フォースさん達の力になりたい。シンさん、行きましょう!」
「んー…仕方ないか、アメスケはどう思う?」
シンもキャロルと同じ考えだった。だがここでフォース達に手を貸すということは、星封堂と対立するということ。一応アメスケに確認を取る。
「拙者はシンさんの判断に従いますよ」
「よし、なら俺とアメスケで行こう」
「え⁉︎俺は…」
「ルー、お前では力不足だ。ここで大人しくしてろ」
「そんな…じゃあキャロルさんは?」
「こんな狭い場所でキャロルの魔術が炸裂すれば、全員が焼け死ぬだろ。もしもの時は、お前がキャロルを担いで逃げろ」
「はい…」
シンとアメスケが参戦することになった。ルーは連れて行ってもらえない自身の非力さと、戦わずに済んだ安心を同時に感じる。
「お気をつけて…」
走り出した二人の背に、ルーは言葉を投げることしか出来なかった。
入り口に向かうシンは、走りながら収納魔術で瓶を取り出し、中の黒い液体を飲み干した。
そしてアメスケに話しかける。
「アメスケ、俺は今の星封堂をよく知らないが、アヒル頭の話を聞くに、とてつもなく巨大な組織になっているように感じる…」
「そうですね…拙者も里を出て様々な街を周りましたが、至る所で星封堂の噂が耳に入りました…それも良くないものばかりです」
「だろうな…昔からあいつらはろくでもないんだ。そんな奴らに顔を覚えられると、これからずっと追い回されるかもしれん。気は向かないだろうが、一人一人完全に息の根を止めるぞ」
「…わかりました」
顔を見られても大丈夫なように、シンは入ってきた信者を皆殺しにするつもりのようだ。だからルーを連れて行かなかった。
ルーが山で堅牙猛にトドメを刺せなかったのを、シンは知っている。優しいルーに人殺しは出来ないだろうし、させたくなかったのだ。
そんなことを話していると、二人は入り口に着いた。
「あれ?なんで来たんだ、奥で待ってるはずだろ」
シンを見たフォースがそう言う。
「お前らだけじゃ力不足だと思ってな。だが…考え違いだったようだ」
シンが到着した時には既に、侵入してきた信者は、フォース達によって倒されていたのだ。
フリッカーとカジリ、そしてコメットにも怪我は無さそうだ。
「舐めてもらっちゃ困るぜ。それより早いところここを出よう。こいつらの増援が来るかもしれない」
「わかった、ルー達を呼んでくる。戻るぞアメスケ」
「はい」
シン達がルーとキャロルを呼び戻しに行こうとしたその時。
入り口から、コツコツと階段を降りる足音が聞こえ、誰かが入ってきた。
その人物は、オレンジ色の長いマントに身を包み、首に黒いマフラーのような物を巻き、白い仮面を付けている。
五年前に死んだと思われていた、あの司祭だった。
その頃、基地の奥にいるルーとキャロルは、シンとアメスケの帰りを待っていた。
「誰も戻ってきませんね…」
「…そうね、ねえルー…もし星封堂の奴らがここまで来たら…どうする?」
「その時は…俺がキャロルさんを抱っこして、どうにか入り口まで走ります。だから…心配しないでください」
不安がるキャロルを、ルーが勇気づけた。
「…頼もしくなったわね。いや、初めて会った時も、アンタは私を助けてくれたか…。そういえば、ルーは何歳なの?」
ルーに頼り甲斐を感じたキャロルは、ふと彼の年齢が気になった。
「十九です。もう少しで二十歳になります」
「わっかいわね…じゃあ二十歳になったら味開拓でお祝いしましょ。誕生日はいつ?」
「明日です」
「はあ⁉︎明日⁉︎」
「はい…」
明日二十歳になると言うルー。それを聞いたキャロルは、あることを決意する。
「…なら、ここでのんびりしてられないわね」
彼女はそう言って、転送装置の前に立った。
「ルー、そこの円盤に繋がってるパイプを引き抜いてくれる?」
「えっ、何するんですか?」
「あのアヒルが言ってたでしょ、転送装置は魔力効率が悪くて充填に時間がかかるって」
「…言ってましたね」
「なら、私が直接魔力をぶち込んでやるわ!これですぐに溜まるでしょ!」
「ええ…」
キャロルは、未知の技術である転送装置を使いたがらなかったが、ルーが明日二十歳になると知って、瞬間移動での帰還を決めたようだ。




