54.椅子を並べて
シン達は誘拐されたルーと再会し、星封堂の手先から逃れるため、フォース達の秘密基地に入った。そこは地下で、レンガ造りの長細い構造になっている。
基地の真ん中でいくつか椅子を並べ、仮眠用のベットもベンチにして、全員が座って話し合いをしていた。
「まずは探偵、お前の素晴らしい推理力のおかげで仲間と会えた。ありがとう」
「おうよ」
一悶着あったが落ち着いたシンは、コメットに感謝を述べた。それを聞いたルーも礼を言う。
「そうだったんですか、ありがとうございました」
「おお坊主、俺は探偵のコメットだ。また誘拐されたら助けてやるからな」
「あはは…これからは気をつけます」
探偵の冗談に、ルーは愛想笑いで返した。
「それでルー、こいつらは何者なんだ?」
シンは状況を把握するため、ルーに説明を求める。
「はい、えっと、アヒルの人がフォースさんで、ネズミの人がカジリさん。それと…今手当を受けてるのがフリッカーさんです」
怒ったシンにボコボコにされたフリッカーは、カジリに傷口を見てもらっている。そのフリッカーが、シンに手を振って応えた。
「よろしくー」
「…お前とよろしくするつもりはない」
シンは冷たくそう言った。まだ怒っているようだ。いくらか気まずいので、ルーは話を転送装置に持っていく。
「あ、そういえば…ここにも例の瞬間移動する魔道具があって、魔力が溜まればナルバル山の近くまで送ってもらえるそうです」
「いや、時間がかかっても安全な方法で帰るぞ。…こいつらは信用ならん」
「そうですか…でもほんとに、フォースさん達は悪い人じゃないんですよ」
「お人よしめ、どう考えても悪人だろ」
「そうよ、顔も隠してるし…」
キャロルも怒っている。彼女は気になっていることを聞いた。
「そもそもアンタらは、どうしてルーを誘拐したの?」
それにフォースが答える。
「そうだな。まず俺達は、星封堂って名前の宗教団体と少し争ってて…」
「聞いたわ、アンタ達星封堂に追われてるんでしょ?それと誘拐になんの関係があるの?」
「それが先月…色々あって仲間がかなり減ってね…フリッカーは焦りから、仲間を増やすために今回の事件を起こしてしまったんだ。本当にすまなかった」
キャロルはフォースの返答に違和感を持った。
「仲間が欲しいから連れてった?…それがなんでルーだったの?星封堂に恨みを持ってる人でも探せばよかったじゃない」
確かにルーは力が強いが、わざわざ誘拐という手段を用いるほどの人材では無い。
そのキャロルの疑問に、今度はフリッカーが答える。
「ルー君は…俺らとおんなじやねん」
「何がおなじなの?」
「俺達は、みんな魔術が使われへんねんけど、その代わりに能力を持っとるんや。怪我がすぐに治ったりとか、腕が伸びたりとかな…。そういう人間を、怪人って呼ぶねん」
そこからフリッカーは、怪人についての詳しい話をした。
「…そんな人達がいるなんて、初めて知ったわ。それで、アンタはルーもその…怪人だって言いたいわけ?」
「せや。まあ俺ら専門家ってわけちゃうけど、ほぼ間違いないと思う」
その話の最中、ルーは伏し目で、落ち着きなく手遊びをしていた。自分の正体についてみんなが話し合っていて、少し不安だったのだ。
それを横目で見たキャロルは、顔はフォースやフリッカーに向けたまま、ルーの手を握って落ち着かせた。
「怪人か…」
シンがそう呟いた。
「何?シンは知ってたの?」
「いや、その名前は初めて聞いたが、俺も異能を持つ人間と会ったことがある。…あいつももしかしたら、そうだったのかもな…」
シンは何かを思い出して懐かしんでいる。その後、フリッカーに話を聞いた。
「怪人だと思ったからルーを連れ去ったのか、なんでその怪人を集めてるんだ?お前の話じゃ、怪人は魔術を使えないんだろ?アドバイスじゃないが、仲間にするなら魔術師の方が良いぞ」
「別に怪人にこだわってないで。でも魔術師は信用ならへん。アイツら潰し効くやん。どこまで行っても食いっぱぐれることないやろ。今この瞬間に、命かけて戦われへん奴は要らん」
「…そうか。そうだな」
シンはこの話を切り上げるためにそう言った。呆れたわけじゃない。哀れに思ったのだ。
フリッカーの言葉には、魔術師への僻みが見て取れる。彼は今まで差別を受けて生きてきたのだろう。シンはそれを感じて、分かり合えないなと思ったのだ。
「でもお嬢ちゃんやったら仲間になって欲しい、あの爆発魔術凄かったわ!将来偉大になるんちゃうか?」
「…アンタの仲間になんか、なるわけないでしょ、この誘拐犯」
「酷いなあ…」
「…」
そのコロコロ変わる態度に、シンはフリッカーのことが余計に分からなくなった。
怪人の説明を受けたキャロルは、この誘拐事件の背景を理解した。彼女は次の疑問に移る。
「なんでルーを誘拐したかは、なんとなくわかったわ。でもアンタらが星封堂とやり合ってる理由は何?」
それにフォースが答える。
「ああ、奴らはおそらくだが、戦争を起こそうとしてるんだ。俺達はそれを止めなきゃいけない」
「はぁ?意味がわからないわ…詳しく話して」
「星封堂は、魔術が使えるようになるって誘い文句で信者を集めて、その信者達に工場で武器を作らせてるんだ」
「武器…」
「まだ確定はしてないけど、あれだけ大量に作ってるってことは…戦争か反乱か、何か大きな事を起こすつもりなのは間違いない」
「ちょ、ちょっと待って、それ本当の話?…本当だったとして、アンタ達はついさっきまで追われてたのよね?ここは安全なの?」
フォースが淡々と話すその内容を聞いて、キャロルは自分達の置かれている状況が想像以上に危険だと知った。
「安心してくれ、この基地は探知魔術の対策をしてる。それに入り口は大きな墓石で蓋をしてある。そう簡単には見つからないし、入れないはずだ。だけどしばらくは奴らも探し回ってるだろうから、ここで大人しくしといた方がいいと思う」
それからもいくらか話をして、しばらく経ったところで、シンがあることを言い出す。
「おいアヒル頭、まだここから出られないんだろ?」
「ああ、申し訳ないが、少し待ってくれ」
外の様子はわからないが、今なお仮面をつけた信者達が探し回っている可能性もある。見つかればどうなるかわからない。
「何か急ぎの用事があるのか?」
「いいや、そんなものはない。ただ暇だ。どうせならお前らが瞬間移動に使っているという、その装置を見せてくれ」
「いいけど、今はまだ動かせないぜ?」
「単に興味があるだけだ。それを使って帰るつもりはない」
「わかった、構わないよ。奥にあるからついて来てくれ」
魔道具コレクターの血が騒いだのか、シンは転送装置に興味を持った。
「これが…」
秘密基地の奥までやって来たシン。ルーとキャロルもついてきた。
「そう、これが転送装置」
フォースがそう紹介したのは、天井からぶら下げた金属の円盤だった。工場にあったものと同じ形状をしている。手前には木箱の上に置かれた、金属の板のような物があった。
「この板は何?」
「ああ、あっちの円盤は下にいる人間を、特定の場所に移動させられるんだけど、この板でそれを操作するんだ」
その金属の板にはボタンやつまみが見受けられた。
「へぇ、驚いたわね。もっと巨大な物だと思ってたわ…ルーは魔力が溜まるのに時間がかかるって言ってたけど、その魔力はどこから引っ張ってるの?」
「あの管の先だよ」
フォースがそう言って、円盤に繋がっている管を指さした。
「あの先に魔石が入った箱があって、その魔力を
吸い上げて充填してるんだけど、効率が悪くてね、時間がかかるんだ。さっき起動したばっかりだから、一日待たないと使えないよ」
「どちらにしろ使う気はないわ。だって三人までしか移動できないんでしょ?私達は四人だもん」
キャロルはフリッカーがしていた、転送は三人までという話を覚えていた。今ここにはキャロルとルー、そしてシンとアメスケの四人がいる。
しかしフォースが言うには、人数の問題はクリアしているそうだ。
「それはカバンから飛ぶ時だね。転送装置から転送装置へは、五人までならいけるよ」
「瞬間移動を五人も?すごいわね…」
それを聞いて、装置を見ていたシンが質問する。
「お前らの資金源はなんだ?」
確かにこんな魔道具なら、開発にとんでもない費用がかかるはずだ。
「俺達は、元は商人ギルドみたいなのを作って、魔道具を開発して売ってたんだ。その時にかなり稼いだ」
「魔道具を開発して売る?…まさかこの装置も売ってたのか⁉︎」
「はは、流石にこれは売り物じゃないよ。量産できないし。売ってたのはランタン、あとは部屋の温度を少し下げる魔道具とかもあったな」
「安心した。こんな物が出回れば、時代が大きく変わってしまう…」
誰もが瞬間移動をできるようになれば、物の流通や、経済、軍事的な話にも関わってくる。シンはそれを案じていた。
「ところで、お前がこれを作ったのか?」
「いや、俺に色々教えてくれた先生がいたんだ。その人が作った。今はどこにいるかわからないけど…」
「…残念だな。是非会ってみたかった」
転送装置を怪しい物と言っていた割には、シンは興味津々で、フォースにあれこれ質問をしている。
それを後ろから見ていたキャロルが、何かを思い出した。
「ねえフォース、私達は…フリッカーとカジリだったっけ?あの二人とカエルの里で会ったんだけど、前にも里に行ったことはあるの?」
思い出したのは、七年前カエルの里に現れた、林檎泥棒のこと。キャロルは彼らが同一人物か確かめたかった。
「カエルの里って、ああ、カワズ盆地のことか。無いよ、この間フリッカー達が行ったのが初めてだ」
「でもアンタ達は金の林檎を探してたんでしょ?七年前にカエルの里からそれを盗んで、瞬間移動で逃げた人がいたらしいんだけど、心当たりは無い?」
「嘘だろ…そんな奴が…?全く知らないな。だって俺が生命の実を探し出したのは…四年前からだし」
その言葉で、シンはあることが気になる。
「アヒル頭、そもそもお前は何故、生命の実を…」
シンが話しかけたその時、秘密基地の入り口から衝撃音が響いた。




