↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/57

53.被害者と加害者

 誘拐されたルーを探しに、王都西側の墓場まで来たシン達。そこで横倒しになっている大きな墓石を発見する。探偵のコメットはそれを不審に思い、持ち上げた。


 「おっ、当たりみたいだぞ」


 墓石の下には地下への階段があった。コメットは自分の推理が的中して喜んでいるが、シンは別のことが気になる。


 「探偵、お前…えらく力が強いんだな」


 コメットが持ち上げた墓石は分厚く、かなりの大きさがあった。重さも相応だろう。大人の男が束になっても、僅かに動かせるかすら怪しいレベルの代物である。


 「よいしょっと…まあな、俺は鍛えてるからよ」


 コメットは墓石を脇におろしながらそう答えた。


 「鍛えてどうにかなる範疇を超えてるように思うが…」

 「細かいことはいいじゃねーか、それよりこの階段どうする?降りてみっか?」

 「…ああ、そうするしかないだろう」


 シンとコメットが不気味な階段を降りようとしたその時、階段から誰かが駆け上がってきた。


 「…探偵、本当に当たりだったな」


 それを見たシンはニヤッと笑う。出て来たのはルーを誘拐した二人組の一人、カジリだったのだ。

 

 「誰が来たのかと思ったら、ルー君の仲間か。それに…コメットさんじゃないですか…」


 「おお、久しぶりだな」


 カジリがコメットに挨拶をした。コメットから聞いていた通り、彼らには面識があるらしい。


 「おいネズミ野郎、ルーは今どこにいる」


 やっと誘拐犯を見つけたシンは、レイピアの剣身を出してその切先を向ける。


 「さっさと答え…なんだ?」


 問い詰めようとしたシンだったが、突如辺りが明るくなったことに気づいて振り返る。

 すると背後では、キャロルが巨大な火の球を作り上げていた。


 「ルーはどこなの!早く言いなさい!」


 キャロルの怒声が墓地に響き渡る。


 「待ちなよ…僕はあんたらとやり合うつもりは…」


 カジリに戦闘の意思は無いようだが、彼女は止まらない。


 「消し飛べ!!」


 キャロルが火の球を放とうとしたその時、カジリの後ろからもう一人、誰かが階段を登ってきた。


 「え…」


 それは誘拐されたルーだった。キャロルは唖然として、撃とうとしていた火の玉を霧散させた。


 「みなさん…なんで…?」


 ルーも驚いている。すぐにシンが、階段を降りて歩み寄った。


 「ルー、元気にしてたか?怪我は無いか?」

 「ありません。でもシンさん達、どうしてここにいるんですか…それにアメスケさんまで…」

 「お前を助けに来たに決まってるだろ」

 「あ、ありがとうございます。じゃ無くて…俺が王都にいるって、よくわかりましたね。それに早すぎる…」


 王都とナルバルの山とはかなりの距離があり、移動に五日はかかるはず。だからルーは徒歩での移動を諦め、転送装置を待っていたのだ。

 それなのにシン達は、一日も経たずにここに来ている。


 「色々あってな、それに…ツイてたんだ」

 「…そうですか。なんかすいません」


 話せば長くなると言わんばかりの返答に、ルーも深くは聞かなかった。


 「無事だったのね…良かった」


 「キャロルさん…」


 ルーはキャロルに声をかけられて戸惑っている。山であれだけ敵意を向けられたのだ、無理もないだろう。何から喋っていいかわからない様子だ。


 それでも彼なりに、用意していた言葉を話そうとする。


 「聞いてくださいキャロルさん。俺は人間です。教えてもらいました。そりゃ普通じゃないかもしれないけど…それでも…人間なんです…だから…」


 そこまで話してルーは口を閉じた。今になってこの問題の本質に気づいたからだ。


 キャロルと再会するまでは、フリッカーに教わった怪人という存在、自分はそういう人種なのだと伝えさえすれば、彼女の誤解を解けると考えていた。


 しかし同じ人間でも、魔術が使えないだけで差別されるような世の中だ。西側に来てそれを思い知った。なら背中から腕が生える化け物など、受け入れてもらえるはずがない。


 人間か魔物かではなく、普通の人間じゃないことが問題だった。そんなことをやっと理解した。理解したゆえに、ルーは話せなくなってしまったのだ。


 だがそんな気持ちとは裏腹に、キャロルは駆け寄ってきて、ルーを強く抱きしめた。


 「ルー…ごめんなさい」


 キャロルが、ルーに顔をうずめて謝った。しかし彼にはその理由が分からない。


 「…どうして謝るんですか?ウデウデのことを黙っていたのは…俺の方なのに…」


 「ううん、ルーは悪くない。悪いのは私よ…山で酷いこといっぱい言ったわ…今までアンタにたくさん助けてもらったのに…」


 「キャロルさん…俺は人間のつもりです。だけどもしかしたら…少し違うのかも…」


 「分かってる、でも、もうどうだっていいの。ルーはルーよ…たとえアンタが化け物でも魔物でも、私は一緒に冒険をできることが嬉しいの。だからこれからも…ずっといて欲しい…」


 「本当に…いいんですか…」


 「うん、大好きよ、ルー」


 涙を流すルーの問いかけに、キャロルはさらに強く抱きしめて応えた。


 やっとのことで再会し、ルーとキャロルも和解した。これで全て解決かと思われたが、コメットがあることを気にする。


 「カジリ、お前らはさっきまで星封堂に追われてたんだろ?」

 「そうです」

 「ならここで長話はよくねーな」

 「はい。だから一旦、みなさん中に隠れてください」

 「とりあえずそーするか」


 ここまでの道のりで、カジリ達が星封堂に追われている真っ只中なのは分かっている。コメットは身を隠すことに同意したが、それを聞いたシンは反論した。


 「どこに隠れるんだ?まさかその苔だらけの階段の先か?」

 「安心して、中は清潔だよ。だから早く…」


 カジリは焦った様子でそう言う。しかしシンの怒りは収まらない。


 「お前勘違いしてないか?ルーを返せば俺達が満足するとでも思ってたのか?それは大きな間違いだぞ。必ず報いを受けさせるからな」


 「悪いとは思ってる…けどあれは仲間がやったことで、僕はそんな気無かったんだ」


 「誘拐する気があろうがなかろうが、お前の仲間がやったことなら、お前にも関係あるだろ」


 「そんな…」


 シンは声を荒げたりはしていない。だが強い怒りを込めて、カジリを問い詰めている。その時空から、ポツリと冷たい雫が落ちてきた。


 「…わかった、じゃあこうしよう。中に実行犯がいるから、そいつをボコボコにしていいよ」


 困ったカジリはフリッカーを売った。


 「よし、それなら階段を降りよう」


 追ってくる星封堂、慣れない土地、疲弊した身体。そこに雨まで降ってきた。ここに居続けるのが良くないのは彼も分かっている。

 シンが提案を受け入れ、全員が墓石の下の秘密基地に入り、そして墓石で蓋を閉めた。



 「ルーさん、ご無事で何よりです」


 階段を降りる途中、アメスケが声をかける。


 「アメスケさんまで…すいません。もしかして、わざわざ里から来てくださったんですか?」


 「謝らないでください。拙者はたまたまシンさんの屋敷に来ていたんです。それに元はと言えば…あっ!あなたは⁉︎」


 階段を降りたアメスケが、この誘拐騒動の元凶であるフリッカーを見つけて詰め寄った。


 「よくもルーさんを攫いましたね!里で拙者の仲間を殴ったのも忘れてませんよ!」


 「ホンマにごめんな…悪いことしたわ」


 「えっ…。わかったなら…いいですけど…」


 フリッカーはその事を既に反省しており、素直に謝った。予想外の態度にアメスケは驚いている。


 「俺も焦ってて…ぐへぇ!」


 だが同時に降りてきたシンが、フリッカーを殴り飛ばした。


 「…白髪のにいちゃんか……ぼはぁ!」


 謝罪の言葉を述べるフリッカーを、シンは構わず殴り続ける。そこへ一人の男が止めに入った。


 「おい、あんた誰だよ!」

 「なんだアヒル頭、お前こそ誰だ?」

 「俺はこいつの上司のフォースだ。なんでフリッカーを殴るんだよ!」

 「仲間を攫ったからだ」

 「…そういうことか。なら悪いのは俺だ。殴るなら上司の俺にしろ」

 「わかった」

 

 そう言って、シンがフォースの首元を掴み、拳を構えたところで、ルーがその拳を止めた。


 「シンさん…もう大丈夫です」

 「手を離せ」

 「この人達はシンさんが思ってるほど、悪人じゃありません」

 「悪人じゃなかったらなんだ?極悪人か?お前はこんなところまで無理矢理連れてこられて、何もせずに許すのか?」

 「はい」

 「馬鹿かお前は」

 「はい。馬鹿でいいです」

 「…そうか、なら馬鹿が口を出すな」


 そう言ってまたシンが拳に力を込めるが、びくともしない。


 「ルー、もう一度言うぞ、手を離せ」

 「シンさん…人は恨みや憎しみに取り憑かれると、怪物になってしまいます」

 「怪物だと…」

 「相手を許す心が、人である証なんです」

 「それは…誰の言葉だ?」

 「父です。俺が小さい頃近所の子に、母親がいないことで馬鹿にされて、怒って殴り飛ばした時、同じことを言われました」

 「…そうか」


 その話を聞いたシンは、スッと腕をおろした。それを見たルーはほっとして、暴行を受けて倒れているフリッカーの上体を起こす。


 「大丈夫ですか、フリッカーさん」

 「ルー君…」

 「どうしました?」

 「俺が殴られる前に止めてや…」

 「あはは…ごめんなさい」


 フリッカーはかなり殴られていたが、案外元気そうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。