56.恐怖のイカ剣士
「…社長来たで、あの司祭や。仮面ひっぺがすか?」
秘密基地に入ってきたオレンジ色のマントの人物を見て、フリッカーがそう言った。
このオレンジマントが、五年前に死んだ筈の司祭と同一人物なら、フォースの弟、ショットも生きている可能性がある。なので、フリッカーは素顔を確かめたかった。
「そうだな…俺がやる」
そう答えたフォースが、念力を使える位置まで距離を詰めようとした時、オレンジマントの後ろから、仮面の信者達とは装いの違う者が二人、階段を降りて中に入って来た。
一人は黒い頭巾に黒いローブと胸当て、そして短いマント。顔には鳥のような白い仮面をつけている。
もう一人は手にロングソードを持っていた。
「や、やばい…【イカ】や…」
後者を見て、フリッカーが怯え出す。
星封堂の者達は皆、黒とオレンジを基調にした服を着ている。
だが、フリッカーがイカと呼んだそのロングソードの人物は、白い服に白いマントの全身真っ白で、顔には白い仮面を付けていた。
「生かしておく必要ありません。一人残らず殺しなさい」
オレンジマントが冷たくそう言うと、イカと呼ばれる人物は、目にも留まらぬ速さで走って来て、フリッカーに急接近した。
そのイカを追い払おうと、フリッカーは拳を振るが、懐に入られてしまい、ロングソードで胴体を斬りつけられた。
「ぐはぁ!!」
ギリギリで身体を反らしたため内蔵は出ていないが、かなりの血が吹き出して、フリッカーは倒れた。
「この野郎!」
それを見たフォースは、怒りに任せた強い念力でイカを吹っ飛ばし、血だらけのフリッカーを担ぎ上げる。
「コメットさん、金は倍払う!ここを頼んだ!」
「毎度あり」
「あんたらはついて来てくれ!」
そう言って、シンとアメスケを連れて奥に走り出した。
「どうしたの⁉︎」
「何があったんですか…」
走って来たフォース達を見て、キャロルとルーが声をかける。
「君魔術師だろ⁉︎こいつの血を止めてくれ!」
「私、回復魔術は…」
フォースがフリッカーの止血をキャロルに頼むが、彼女は回復魔術が使えないようだ。
「俺がやる。それよりアヒル頭…あの白い奴はなんだ?」
シンが止血を開始した。フォースは訳を話す。
「あの白い奴…俺達はイカって呼んでんだけど…。先月、星封堂の施設を潰した時に、仲間が減ったって話したろ、あいつだ…あのイカに…みんな斬り殺されたんだ…」
それはフリッカーがルーに話していた、先月仲間が五人殺されて、五人が大怪我を負った件のことだろう。
「そうだったのか、厄介だな…。そんな奴を、あの探偵一人に任せて平気なのか?」
「大丈夫や…」
シンの質問に、止血を受けているフリッカーが答えた。
「コメットさんは…めちゃくちゃ強いねん…」
フリッカーはうわごとのようにそう言って、意識を失った。
一方残されたコメットとカジリは、基地の入り口付近で、足止めのため敵と対峙していた。
「お前ら、帰るなら今のうちだぞ」
コメットが、侵入者達に向けてそう言い放つ。すると、その中の一人、オレンジマントが声をかけてきた。
「貴方もしや…コメットさんじゃありませんか?」
「そうだぜ、どっかで会ったか?」
「いえ、お噂だけですが存じています。頭脳明晰で、武芸にも秀でている優秀な人物だと」
「そりゃあ良い噂だな」
「是非、そんな貴方に同志になっていただきたかった。…【司教】もそれを強く望んでいました。何故、我々の誘いを断ったのです?」
コメットは名の知れた人物らしく、星封堂から勧誘を受けていたようだ。
「おめーら胡散臭えからな。まともな奴はそんな宗教に入んねーよ」
「…残念です。それはさておき、二級冒険者の貴方が何故このような場所に?」
「仕事だ、それにもう冒険者じゃねーよ。俺も質問いいか?おめーらがあちこちで魔術師を襲う理由はなんだ?ただの僻みじゃねーだろ?」
「さあ…なんのことやら。ところで、いつまで寝ているつもりですか、向こうを追いなさい」
司祭はコメットの問いを誤魔化し、フォースに吹っ飛ばされて倒れていたイカに声をかけた。起き上がったイカは走りだそうとする。だがコメットが行く手を阻んだ。
「コラコラどこ行く気だ、うおっ⁉︎」
しかし司祭の隣にいた鳥仮面の人物が、手から青い光の弾を連続で放ってコメットにぶつけた。その隙にイカは奥へ走り去ってしまう。
「魔力弾か…。おいネズミ坊や、ここはいいから向こうに行ってやれ」
「…わかりました。後はお願いします」
カジリはイカを追って走り出した。
その頃、キャロルはあることについてフォースに聞いていた。
「アヒルさん、大変なところ悪いけど、この転送装置の使い方を教えて」
「後にしてくれ!…どうせ今は使えないんだ」
「いいえ、私が魔力を直接ぶち込んだから、もう使えるはずよ」
「…ぶち込んだ?人一人の魔力でどうにかなる量じゃ…」
そう言ってフォースが、装置を操作する金属の板を確認する。
「嘘だろ、これ…君一人で溜め切ったのか…?」
「ええ、そうよ」
どうやらキャロルはその膨大な魔力量で、転送装置の充填を完了させたらしい。
「これなら起動できる!あんたらだけでもここから…」
フォースがそこまで話したところで、絶望が追いついた。イカがやって来たのだ。
「おいどうなってんだ…まさか…カジリとコメットさんはやられたのか?」
困惑するフォースに対して、イカはロングソードを向けて、念力を警戒しつつ、にじり寄ってくる。
「アヒル頭、どうする…?」
「どうするって、やるしかねえだろ…ん?あれは…」
シンの問いにそう答えたフォースだったが、彼は意外な行動を取る。
イカを前にしたフォースが、転送装置から手を離し、急に膝をついて両手を挙げたのだ。
「待ってくれ…俺達の負けだ。降参する」
フォースの急な白旗に、イカは驚いたのか、一瞬動きが止まる。
それを見逃さず、イカの背後から、カジリがナイフで襲いかかった。
「死ね!」
声を聞いて振り返ったイカの胸に、逆手に持ったナイフが突き刺さる。すると真っ黒な液体が、じんわりと白い服に染み出した。
「ナイスだカジリ!」
カジリの奇襲が成功して、フォースは喜んでいる。
彼はイカの背後から忍びよるカジリに気づいて、隙を作るために、咄嗟に降参する演技をしたのだ。
「こっちも喰らえ!」
カジリはもう一本のナイフも突き刺そうとするが、イカはその手を掴んで、カジリを斜めに斬りつけた。
「逃げてください…」
斬られたカジリが、地面に手をついてそう言う。
イカはそのカジリを蹴り飛ばし、そして、次はお前らだと言わんばかりに、フォース達の方へ身体を向けた。
「やべぇな…。白髪の兄さん、フリッカーはどうだ?」
フォースの後ろでは、シンがフリッカーに回復魔術をかけて止血している。
「なんとか血は止まったが…すぐにでも医療隊を呼ぶか、治療院に連れて行った方がいい」
「そりゃそうだけど…ちょっと無茶だぜ…」
フォースもシンの提案に賛成だが、イカは距離を詰めて来ている。
相手は先月、フォースの仲間たちを五人殺して、五人に大怪我を負わせた強者だ。その上、ここに来てから数分で、カジリとフリッカーを斬り倒している。
このままでは治療院どころか、全員が葬儀屋の世話になるだろう。
そんな窮地に、一人の男が立ち上がった。
「拙者が…命に替えてもあいつを止めます」




