50.会いたいと会えない
追ってきた星封堂の集団から逃げ、フォース達の秘密基地に入ったルーは、五年前に起こった事件の話を聞かされた。
「その時助けた信者さん達は、どうなったんですか?」
「…みんなまた、星封堂に戻った。多分どっかの工場にいるだろうな」
「なるほど…その工場で、星封堂は何を作ってたんです?」
「武器だ。俺達は事件があってからかなり調べた。それでわかったのは、奴らが戦争を起こそうとしてるってことだ」
「戦争…?どこと?」
「それはまだ調査中。でも、奴らは王都内外に工場と教会をかなりの数持ってる。その工場で非魔術師用の武器を作り、その武器を信者に持たせて軍隊を組織してる。これだけ大規模なんだ、戦争をする気なのは間違いない…もしかすると、国を乗っ取る気なのかもな…」
フォースの話によると、星封堂はかなり危険な団体で、武器や兵器を作って軍隊を持ち、戦争を起こそうとしているそうだ。戦争が起これば大量に犠牲者が出るのは明白。それを止めるために仲間を集めているらしい。
「俺達はこれまでに星封堂の工場を三つ破壊した。そのせいで奴らに追われてる。巻き込んですまない、ルー君」
「気にしないでって言うのも変ですけど…もう仕方ありません。あの、フォースさん達はそんな巨悪と、たった三人でやり合ってるんですか?」
星封堂は話に聞くだけでも巨大な規模だ。それを相手取るのに三人は少なすぎる。その質問にフリッカーが答えた。
「ちゃうねん。こないだまで十四人おってん。でも先月あいつらの工場襲撃した時に、相手にヤバい奴おってな、五人殺されて五人大怪我。だから十人減って今は四人や」
「五人殺された⁉︎…そんな危険な状態で、フリッカーさんは俺を連れて来たんですか⁉︎」
「せやから謝りましたやん…」
フリッカーはかなり強引なことをして、ルーを危険に巻き込んだが、星封堂に対抗するために、どうしても仲間が必要だったようだ。
「…話は変わりますけど、五年前に吹っ飛んだ筈の司祭?って人がさっきいたんですよね?」
「ああ、カジリに刺さってた黒い槍も、五年前にあの司祭が手のひらから出してたのと同じだよ。…奴は生きてたんだ」
仮に司祭が五年前の事件を生き延びたのだとしたら、ある仮説がフォースの頭をよぎる。
「…ショットも生きてるかもしれない」
フォースのそんな淡い希望を、カジリが砕く。
「それは僕も一瞬考えました。でも…ショットは爆発の直前、あのクソ女に胸を棘で貫かれてた。それに…生きてるなら帰ってくるはずだ」
カジリは五年前、ショットの咄嗟の判断で命を拾っている。恩人が生きていない理由を語る彼の声は苦しそうで、自分を納得させるように話していた。
それを聞いたルーは、死者復活の話を思い出す。
「あの…。金の林檎や不死鳥の卵は、死者を甦らせるために必要って言ってましたよね。…弟さんを生き返らせるつもりだったんですか?」
「その通り、でも蘇生の儀式には必要な物が多くてね。難航してんだ」
「どんなのがいるんです?」
「ん?ルー君も誰か生き返らせたいのか?」
「…そういうわけじゃないです。ちょっと気になっただけで、すいません」
「全然構わないよ。そもそもこの儀式は四年前に、俺がある古代遺跡で見つけた、石版に書いてあったことなんだけど…」
フォースが発見した石版には、こう書かれていたそうだ。
求める者を杯に入れ 生命の実 輪廻を巡る卵 父の知恵 の血 それを私にかえせ さすればその者を返す。
長い時間かけてその文章を解読したフォースは、これを古代人の残した蘇生術だと考え、記されている材料を探していたのだ。
「…生命の実が金の林檎で、輪廻を巡る卵が、不死鳥の卵…ってことですよね?あとは知恵?どんな物なんですか?」
ルーは味開拓の店長の話から、金の林檎が生命の実であることを知っている。
「わからない。それに石版の一部が削れてて、何かの血がいるんだけど、それが何かもわからない」
「だいたい『私に返せ』って、私って誰なんです?」
「それもわからない。わからないことだらけなんだ。でも…何もせずにショットを諦めたくない…」
謎の多い蘇生の儀式。この儀式が本当に死者を復活させるものなのかもわからない。だがフォースは、弟にもう一度会いたいという気持ち一つで、藁にもすがる思いで材料を集めていた。
「…生きてるなら、そんな物集める必要も無いんだけどな…」
この数年。弟の蘇生法を探しながら、星封堂と戦い続けていたフォース。彼の声は悲しげで、どこか疲れているようにも感じた。
「社長、俺らさっきは逃げたけど、次会ったらあの司祭の仮面ひっぺがそう。それで全部はっきりするやろ」
「…そうだな。もしあいつが五年間の司祭と同一人物だったら、ショットも…。奴らはどうせまた俺達を探すはずだ、次は戦おう」
彼らの話が終わったところで、ルーはフォースがもう一つあると言っていた、転送装置の場所が気になった。
「すいません、転送装置のことなんですけど…」
「そうだったね、ちょっと見てくる」
寝ていたフォースが立ち上がり、秘密基地の奥へと入っていった。
数時間前、シンの屋敷。
シンとキャロルは、誘拐されたルーを助けに行くため、アメスケの気球に乗り込んでいた。
「これ…大丈夫なの?」
乗り込んだキャロルが心配したのは、気球の構造だった。大きく膨らんだ布のような膜。木の枝を織り込んで作ってあるかご。かごの中央には、熱を噴射する魔道具が設置してある。
賢いキャロルは見ただけで原理を理解した。だからこそ、こんな物で王都へ飛んでいくのは、少し無理があると感じたのだ。
そんな彼女に、アメスケが説明をする。
「キャロルさん。これは我が里が…研究に研究を重ねて出来た物です。それに拙者は慣れています。どうか信じていただきたい」
実はこの気球は、何かお礼ができないかと考えたアメスケが、シン達に空の旅をプレゼントしようと、殿様に頼み込んで持ち出した物だった。
「…わかったわよ。途中で落ちたりしないでよね」
「お任せください」
不安がるキャロルだったが、アメスケを信頼したようだ。
「では、飛びます。二人共かごを掴んでいてください」
熱を噴射する魔道具は二つ付いており、一つは気球の上部分に熱を溜めて浮力を得る用の物。もう一つは進む方角の調整に使うらしい。どちらも魔石が嵌め込まれている。
アメスケがかごの中央にある魔道具を調整すると、噴射している熱が高温になり、かごが浮き上がる。
「わぁ⁉︎浮いてる!」
「落ち着けキャロル」
「かごから身を乗り出さないでください」
そして地面とかごを繋いでいた縄を外した。気球は緩やかに上昇を始める。彼らは空へ旅立った。




