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48.危険なフライト

 「今出ると鉢合わせる。とりあえず隠れよう」


 様子を見て、戻ってきたフォースがそう告げる。しかしルーは、この状況が飲み込めない。


 「どうして星封堂がここに来るんですか?」


 「あいつらめっちゃヤバい奴でな、俺らゴリゴリにやり合ってんねん。まあ後で話すわ…とにかく、見つかったら殺し合いになると思っとき」


 「こ、殺し合い⁉︎ 」


 「あとルー君。顔見られへんように、これ被っといて」


 「いや、えっと……分かりました」


 ルーは突然のことで少しパニック気味だが、フリッカーに渡された、黒い目出し帽を素直に被った。


 「でも星封堂には、魔術師もいるんですよね?隠れてもバレちゃいますよ…」


 フォースの話から、ルーは星封堂に魔術師がいることを知っている。キャロルが頻繁に使っていたので、探知魔術の効力もよく分かっている。相手が魔術師なら使ってくるはずだ。


 ルーとフリッカーとカジリは魔力を持っていないが、フォースは持っている。探知魔術を使われれば、居場所がバレてしまうだろう。


 「問題ない、ここは対策してある」


 その懸念に、備えがあると話すフォース。工場に近づいて来た星封堂にルーは驚いたが、彼らには心当たりがあるようだ。扉を施錠して、四人は工具棚の後ろに身を隠した。


 「どうしてこんなことに…殺されたくないよぉ…ヒッ⁉︎」


 それからすぐに、扉を開けようとする音が工場内に響く。そしてこじ開けられ、ゾロゾロとかなりの人数が入って来た。三十人はいるだろう。暗くてよくは見えないが、全員手に棒のような物を持っている。


 「あれが、星封堂なんですか…?変な恰好してますね…」


 棚の裏から見ていたルーが、小声でそう言う。入って来た者達は皆、白い仮面をつけて、黒いローブに身を包んでいる。みるからに怪しい集団だ。


 「まあ俺達も大概やけどな」


 フリッカーがそう言った。こちらもアヒルやネズミ、そして目出し帽をつけている。怪しさでいえば負けていない。



 「司祭様、探知魔術には反応がありませんでした。ここは誰もいません」


 「そうですか…」


 集団から声が聞こえてきた。やはり相手に魔術師がいたようだが、フォースの言った通りこの工場には何か仕掛けがあったようで、ルー達は見つからなかった。かに思えたが…


 「…ランプがまだ暖かい。ついさっきまでいたようですね」


 先程まで使っていたランプの温もりに、相手の一人が気づいた。フリッカーは小声でフォースに相談する。


 「ヤバない?どないする?やってまう?」

 「待て、ルー君もいるんだぞ。隙を見て逃げる」

 「やけど転送装置のこと知られたら、他の場所もバレるで?」

 「…そうだな。仕方ない、装置は壊してから逃げよう。後で戻って、中の石だけ回収すれば良い」

 「せやな…」


 その二人の話に、ルーは焦る。


 「壊すんですか⁉︎帰れなくなっちゃいます…」

 「心配しないで、西側にはもう一台転送装置がある」

 「そうですか…なら問題ないです。でもどうやってここから出るんですか?」

 「飛ぶんだよ」


 ルー達が話していると、集団の一人が工場全体を照らす光源を出した。


 「探しなさい、まだ中にいるかもしれない」


 そして相手の誰かが命令を出し、仮面の者達が捜索を始めた。工場はそう大きくない。ルー達はすぐにでも見つかってしまうだろう。

 

 「カジリ、【翼】を持ってきてくれ」

 「わかりました」


 その動きを見て、フォースがカジリに何かを取りに行かせた。


 「フリッカー、見つかったら少しやり合って時間を稼げ」

 「任せてや」

 「えっ戦うんですか⁉︎」

 「ルー君は戦わなくていい、俺の近くにいろ」

 「…はい」


 ルーは前に、シンが同じ事を言っていたのを思い出す。不安になったその時、仮面を付けた者が棚の裏に回り込み、ついに彼らは見つかった。


 「いました!襲撃犯です!」


 「黙っとけ!」

 

 フリッカーがその信者を殴り飛ばして、三人は棚の裏から出た。それと同時にフォースが転送装置に手を向ける。


 「…喰らえ!」


 すると、吊り下げてあった鎖が切れて、装置が勢いよく地面に落ちた。仮面の集団を何人か下敷きにして、装置は壊れた。


 「ハァ…カジリまだか…」


 フォースは今ので少し疲れたようだが、転送装置は壊した。後は逃げるだけ。そこにカジリが何かを持って戻ってくる。


 「フォースさん、付けますよ」


 カジリが持ってきたのは金属でできた羽。大きさは人の胴体くらいだろうか。それをフォースに背負わせる。


 「お前ら、逃げるぞ」


 フォースが念力で天井のトタンを一部吹っ飛ばした。そしてルーとカジリ、フリッカーの身体がふわりと持ち上がる。


 「うわ!浮いた!」


 だがこちらの動きに気づいた仮面の集団が、四人に近づいて来た。その時、何かに気づいたフリッカーが驚愕する。


 「嘘やろ…あれ…」


 彼の視線の先は、もちろん仮面の集団。仮面の者達は皆、黒のローブに先の尖った頭巾をしているが、その中に一人だけ、オレンジ色のマントを纏った人物がいた。


 「おいどうした…いやそれはない…あいつは…五年前に…」


 フォースもフリッカー同様、その人物を見て驚いている。

 

 彼らが呆気に取られていると、そのオレンジ色のマントの人物が、黒い棘のような槍を投げてきた。自分目掛けて槍が飛んできたルーは、避けようとするが、身体が浮いているためうまく動けない。


 「うわぁぁぁあ⁉︎」

 「危ない!」


 カジリがルーを引っ張って、代わりに自分の身体でその槍を受け止めた。かなりの血が飛び散る。


 「カ、カジリさん」

 「大丈夫…。早くしてください!」

 「あ、ああ…行くぞ!」


 急かされたフォースが背負った羽に魔力を流すと、凄まじい熱と魔力が羽の下側から吹き出す。


 次の瞬間、フォースの身体が持ち上がり、天井の穴を抜けて空高く飛び上がった。浮いていたルー達も、引っ張られる形で飛び上がる。


 「あっ盾が!」


 飛び上がった勢いで、ルーが背負っていたミドビルの盾が落ちてしまった。しかし後戻りはできない。


 「うわぁぁぁぁあああ!」

 「イヤァァァァアアア!」


 ルーとフリッカーの叫び声が、荒れた街にこだました。フォースは空中で身体の向きを変え、水平飛行を開始する。


 「凄い…鳥みたいだ!」

 

 王都西側の上空を北に向かって、高速で飛行する四人。ルーは感動している。しかしこのフライトには欠陥があった。


 「社長!これどんくらい飛べるんや⁉︎」

 「二十秒だ!」


 背中の羽は魔道具のようだ。故にフォースの魔力を消費して飛んでいるらしく、時間制限があるのだ。


 「もう落ちるやんけ!」

 「任せろ!」


 羽の下側から吹き出している熱と魔力が弱まっていき、四人は急降下する。だが落ちている最中にフォースが地面に手を向け、質量を持った魔力を放つ。すると落下の勢いが弱まっていった。


 「…二度と飛びたないわ」

 「いったぁ…。カジリさん!大丈夫ですか?」


 四人は無事着地した。急な飛行で忘れていたが、カジリはルーを庇って槍を受けている。


 「カジリさん…それ…どうしよう…」

 「全然大丈夫だよ。それよりフォースさんは?」

 

 先程は焦っていてよく分からなかったが、槍はカジリの背中から刺さり、肩を貫通していた。大丈夫なわけがない。だが彼は再生能力を持っているためか、平然としている。


 「おい社長!生きてるか⁉︎」

 「生きてるけど動けねー。念力に飛行…魔力切れだな。一応北向きに飛んだつもりだ、どこに落ちた?」

 「…凄いで、ドンピシャや」


 どうもフリッカーの口ぶりから、彼らは狙い通りの場所まで飛ぶことができたらしい。


 「ここって墓場ですよね…」


 しかし落ちたのは墓地。草がまばらに生え、等間隔に四角い石が並んでいる。見通しのいい場所だ。身を隠すのに適しているとは思えない。


 「ルー君こっちや」


 フォースを背負ったフリッカーが、ルーを誘導して歩き、大きな墓石の前で立ち止まった。


 「社長、開けれそう?」

 「今は無理」


 どうやらこの大きな横倒しの墓石は開くらしい。いつもはフォースが、念力のような能力で開けているのだろう。だが彼は魔力が切れていて身体が動かない。


 「これ開くんですか?俺が持ち上げますよ」

 「いけるか?めっちゃ重いで?」

 「フンッ!」

 「…やるやん!」


 ルーが墓石を持ち上げると、隙間から三人がそこに入り、最後にルーも入って怪力で蓋を閉じた。


 「なんでこんなところに階段が…それに暗い」

 「もう心配せんでええ、ここやったら見つからんわ」


 階段を降りてカジリが灯りをつけると、そこは荷物が積まれた、長細い倉庫のような空間だった。簡素なベッドにフォースを寝かせる。


 「ここは俺らの秘密基地や、しばらく隠れよ」

 「秘密基地…。いいですね」

 「あの、誰かこれ抜いてもらえます?」


 槍の刺さったカジリの呼びかけに、ルーが応える。


 「抜いていいんですか?多分痛いですよ…」

 「痛くないから大丈夫」

 「本当ですか?…なら抜きます」

 「うっ!ぐああああ!!」

 

 痛くないと言うのでルーは槍を引き抜いたが、カジリは呻き声を上げた。


 「…めちゃくちゃ痛い」

 「なんで嘘つくんですか⁉︎誰か回復薬を!」

 「…いいよ、必要ない」

 「え?」

 「僕はこのくらいなら平気」


 回復薬はいらないと言うカジリ、その言葉通り、肩の風穴がみるみる塞がっていった。彼の再生能力はかなり強いようだ。


「フォースさん、なんでボーッとしてたんですか?そのせいで貫かれましたよ」


 カジリがフォースに文句を言う。彼は槍が刺さったことよりも、フォースが敵の前で呆けていたことに怒っている。


 「…悪い。でもあいつが…あの司祭がいたんだ」

 「どの?星封堂にはたくさん司祭がいますけど」

 「その槍に見覚えはないか?」


 そう言われて、カジリは先ほどまで自分に刺さっていた、黒い槍のような物体を見た。


 「…違うでしょ…だってあいつは…」


 マスクをしているため表情は見えないが、カジリは明らかに動揺している。


 フォース達が何やら話しているが、ルーは今一番気になっていることを聞いた。


 「あの…さっきのは星封堂の方々なんですよね?どうして襲われたんですか?」


 それにフォースが答える。


 「俺達が星封堂と揉めてるって話は、もう聞いたよね?」

 「はい、それは聞きました。だけど、なんで揉めてるかまでは…」

 「…そうだね。少し昔話をしてもいいかな?」

 「お願いします」

 「あれはもう、五年も前のことなんだけど…」



 五年前、王都西側。


 フォース達は、入信したきり帰ってこない従業員の様子を見に、星封堂が持つ教会の一つに向かっていた。

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